事故か認知症か…忽然と姿を消した83歳家賃滞納者の行方は?

本記事では、章(あや)司法書士事務所代表・太田垣章子氏の著書『家賃滞納という貧困』(ポプラ社)より一部を抜粋し、延べ2200件以上の家賃滞納者の明け渡し告訴手続きを受託してきた著者が実際扱った「家賃滞納」事例を取り上げ、普通の人が貧困に陥らないための予防策やトラブル解決方法を探っていきます。

賃借人は毎月の家賃を直接持参していたが…

ひとり暮らしの高齢者が増えました。

 

親族がいないわけではないけれど、どんどん関係が疎遠になっているのが今の日本社会です。

 

特に経済的に自立して生きていると、人を頼らずにきた分、ますます疎遠になりやすくなります。ましてお子さんがいないとなると、ご本人も「家族を頼る」という意識が持てないのかもしれません。

 

本田美子さんは、83歳。大手メガバンクを定年まで勤め上げ、年に何回か海外旅行をするくらい、人生を謳歌されていました。

 

自身は公営住宅に住み、少し離れたところにワンルームも借りていました。このワンルーム、何のためかというと、荷物を置くためです。もともとこのワンルームに住み、公営住宅に引越すときに解約せず、どうやら相続で受けた物とかをそのまま置いていたようです。

 

年を重ねると元気であっても、根気のいる作業は後回しになります。特に物を大切にする世代は、なかなか断捨離ができず、気がついたときには物で溢れてしまうということになりかねません。美子さんもこのタイプだったのでしょう。

 

毎月のワンルームの家賃は、美子さんが不動産会社に持参されていました。住んでいる町から電車に乗って3駅。振込みをお願いしても、わざわざ毎月来られます。不動産会社の方も、美子さんの様子を確認できるので、安心していました。

 

必ず月末には持ってこられる家賃。ところがこの1年ほど遅れたり、2カ月分まとめて払ったり、様子が変わってきました。会うたびに「年をとられたな」そう感じるほど、老いてこられた様子が窺えました。帰られる後ろ姿が、以前とはずいぶん違います。歩くペースが遅かったり、ふらふらしていたり。

 

そうして美子さんは、姿を見せなくなりました。

 

本人不在のまま、家賃滞納の明け渡しの訴訟を提起

本人欠席のまま明け渡しの判決が住んでいる公営住宅に行くと、集合ポストには郵便物が溜まっているものの、住んでいるのかそうでないかは分かりません。管理人さんに確認すると、ここしばらく顔を見ていないが、今までも旅行等で月単位で留守にされることがあるので、心配はしていないとのこと。室内に立ち入ることも、事件性(悪臭がする等)がない限りできないとのことでした。

 

仕方なく美子さんに対して、家賃滞納の明け渡しの訴訟を提起しました。

 

その後も気になって何度も公営住宅の方に行ってみても、美子さんには会えません。そして回を重ねるごとに、美子さんはこの部屋に帰っていない、と確信してきました。

 

部屋のドアノブには埃が溜まり、郵便物は取り除かれておらず、そして何より、ドアにつけた目張りが外れていないのです。

 

結局、訴訟の日まで美子さんとは会えませんでした。訴状も受け取られることはなく、裁判の日も美子さんは欠席。明け渡しの判決が言い渡され、荷物置き場だった部屋は強制執行となりました。

 

部屋の中には、小さな頃のアルバムや、古い着なくなった洋服、使わない食器や家電が所せましと乱雑に置かれていました。アルバムはいざ知らず、他の物は大事にとっておかなくてもよさそうなものです。高齢になって、自分で片づけるだけの気力や体力がなくなり、家賃を払ってでも放置しておきたかったのでしょう。

 

この後、住んでいた公営住宅にも、美子さんはずっと戻っていません。こちらの方も家賃を滞納している状態とのことでした。美子さんはいったいどこに行ってしまったのでしょう。

 

考えられるのは、何らかの事故に遭ったけれど身元の分かるものを携帯していなかったのか、認知症等で徘徊して保護されているのか。どちらにしても美子さんは、ある日忽然と姿を消しました。

 

実は全国の高齢者の施設では、認知症になった方がたくさん保護されています。名前や連絡先等も分からないため、対応のしようもなく、大きな社会問題となっています。

 

個人情報保護法が施行され、個人の情報が得にくくなっていることも、この問題に拍車をかけています。個人情報の保護にはもちろん利点もありますが、こと高齢者のサポートには逆効果になっている側面もあります。兄弟姉妹の数も減り、親族関係が希薄になっている現代は、手のうちようがない案件が爆発的に増えています。

 

近い将来に超高齢化社会に突入する日本。家族や親族が高齢者の世話をしたり、看取ったりする時代ではなくなりました。国や行政がある一定の権限をもって介入・サポートするようにならなければ、このような問題は激増していくばかりだと思います。

 

家族がいてもいなくても、人は誰にも迷惑をかけずに万全の状態で亡くなることは難しいのが現実です。だからこそ地域が、社会が関わらなければならない問題なのです。

章(あや)司法書士事務所代表
司法書士
株式会社R65+取締役 

家主側の訴訟代理人として、延べ2000件以上の悪質賃借人追い出しの訴訟手続きを受諾してきた、賃貸トラブル解決のパイオニア的存在。トラブル解決の際は、常に現場へ足を運び、訴訟と平行して悪質賃借人と向き合ってきた。その徹底した現場主義から、多くの大家さんの信頼を得る。また、10年前から『全国賃貸住宅新聞』に連載を持ち、特に『司法書士太田垣章子のチンタイ事件簿』は6年以上にわたって人気のコラムとして今なお連載中。健美家のニュースも毎月担当。他にも三井不動産をはじめ、各ハウスメーカーが発行する大家さん向け会報誌に、相続問題や賃貸トラブルの解決・予防に関する記事を年間30本以上寄稿。さらに、年間50回以上、計600回以上にわたって、5万人以上の大家さんおよび不動産管理会社の方向けに「賃貸トラブル対策」に関する講演も行なう。現場を知り尽くす司法書士ならではの臨場感のある事例と実践的なノウハウを公開する講演は、受講者の心をつかみ、常に満席、立ち見が出るほどの人気がある。

【章(あや)司法書士事務所】http://www.ohtagaki.jp/
【株式会社R65+】http://www.r65plus.com/
【あやちゃん先生のひとり言】https://ameblo.jp/ohtagaki/
【あやちゃん先生の賃貸お悩み相談室】https://www.onayami.co.jp/

著者紹介

連載“普通の人”が陥る破滅への第一歩…「家賃滞納」の知られざる実態とは?

家賃滞納という貧困

家賃滞納という貧困

太田垣 章子

ポプラ社

家賃滞納は普通の人が堕ちる破滅への入り口である。あなたも、明日陥るかもしれない!2200人以上の家賃滞納者と接した司法書士が明かす驚愕の実態!

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

登録していただいた方の中から
毎日抽選で1名様に人気書籍をプレゼント!
会員向けセミナーの一覧