「養育費を受け取ったことがない…53%」
何らかの事情で夫婦が離婚した場合、母親が親権者となって子どもを養育するケースが圧倒的に多いのは、今も昔も変わりません。
ただし、親権者でなくても親である以上、子どもを養育する義務がありますから、子どもと一緒に住んでいないほうの親(多くの場合は父親)は、養育しているほうの親(多くの場合は母親)に養育費を支払わなくてはなりません。また、元夫婦であったかどうかに関係なく、認知した子ども、養子縁組をした子どもがいる場合も、この義務は生じます。
しかし、現実には養育費をもらっていないひとり親は数多くいます。2018年の厚生労働省の調査によると、養育費をきちんと受け取っている人はたった26%。逆に一度も受け取ったことがないという人がなんと53%もいるのです。また、支払いを約束していたにもかかわらず、その約束が途中から果たされなくなった人が16%であることも明らかになりました。これは驚くべき数字です。
子どもは父親・母親ふたりの子どもなのに、一緒に暮らしていない親が養育費を支払わない、そんな理不尽なことが横行しているのです。また、中にはDV等で逃げてきたため、養育費の請求を断念しているケースもあります。特に女性のひとり親家庭の場合、十分な収入が得られているのはほんの一握り。たったひとりで子どもの養育と仕事を両立させるには多くの困難があり、雇用が不安定な非正規雇用を強いられ、正社員として働けないという人が多いのも原因の一つです。
そのため大半のひとり親家庭の所得が低いうえに、さらに養育費がもらえないとなると、髪の毛を振り乱して懸命に働いてもギリギリの状態です。貯蓄などする余裕はありませんから、アクシデントがあれば、すぐに貧困状態に陥り、家賃を払うこともできなくなるのです。
ひとり親家庭の子どもの2人に1人は相対的貧困の現実
子どもを抱えていれば、アクシデントなど珍しいことではありません。
特に小さい頃は体調を崩しやすく、予防したくても保険適用外のため高額になる予防接種を受けられない家庭もあるでしょう。体調が不安定な子どもを抱えている場合は、仕事を休みがちになりますから、収入も減ります。最悪の場合は職を失う可能性もあります。ひとり親家庭はそのリスクと常に闘っているのです。
そんな崖っぷちに立っていれば、子どもが熱を出すと、目の前の辛そうな子どものことより、今日の仕事をどうしようという思いが先に立ってしまうのは仕方がないことです。そうした中、そんな自分に罪の意識を感じてしまう人は少なくありません。そしてますます追い詰められていくのです。
子どもに多少手がかからなくなると、経済状況を優先するためダブルワーク、トリプルワークを選択するひとり親もいます。ただ、その一方で母親と接する時間が減った子どもが、淋しさに囚われることもあります。
生活に追われる親と一緒に暮らす子どももまた、不安な気持ちで生きているのです。そうなると親はその対処にも時間をとられて、ますます疲弊していきます。だからといって子どもに付きっきりになれば仕事がままならなくなり、その先にあるのは貧困です。これはもう悪循環としか言いようがありません。
成長とともに教育費の問題も重くのしかかってきます。貧困の連鎖は避けたいと多くの親は良い高校、良い大学に行かせようと必死になります。それでも思うように収入が増えず、奨学金という名の借金に頼った結果、子どもは社会人になってからもその返済に追われ、自己破産するというケースは増えるばかりです。
家賃滞納の現場で出会うひとり親は、懸命に生きているのに収入が追い付かず、力尽きて滞納に陥るというケースがほとんどです。家賃が高い部屋に住んでいるわけでもなく、借りている部屋といえば、築年数を重ねた質素な物件です。それでもその家賃を支払ってしまうと、生きるのもままならなくなるほど追い詰められているのです。
現在の日本の7人に1人の子どもが相対的貧困と言われていますが、ひとり親家庭の子どもに限れば、その割合は2人に1人にまで高まります(2017年6月発表の厚生労働省のデータ)。
もちろん、だからと言ってひとり親の家賃滞納は仕方がない、と言うつもりはありません。ただあまりにサポートされる環境が少なく、支援も行き届かず、また有益な情報を与えられていない(情報を得るだけの余裕がない)と感じるのです。
ひとり親が家賃滞納せざるを得ない現実に、社会はもっと真剣に目を向けてほしいと思います。
太田垣章子
章(あや)司法書士事務所代表