景気回復のため、大胆な金融緩和・中小企業への税制優遇が続く日本社会。企業オーナーにとっては良い面が多いかもしれませんが、その一方で、数多の銀行は厳しい財政に直面しています。結果、昨今の「過剰ノルマ問題」をはじめ、詐欺ともいえる手法で金融商品を販売する事態に陥っているのです。富裕層が資産を守るためには、信頼できる情報の取得が求められています。そこで本記事では、岸田康雄公認会計士/税理士が、金融機関の現状を解説します。

従来の金融営業マンは「利益第一主義」だったが…

これまで、金融機関のリテール営業担当者は、金融商品を回転売買させて手数料を稼ぐことに注力してきた。為替手数料を稼ぐための外国債券、元本を取り崩して毎月高い分配金を支払っているかのように見せる投資信託など、リテール営業担当者は、金融リテラシーの低いお客様に高い手数料を支払わせて、会社の利益を優先するような取引を行うことに邁進してきたはずである。

 

しかし、欧米のリテール金融マーケットを見ると、販売されている金融商品のほとんどは手数料率0%だ。信託報酬も0.1%である。その代わり、IFA(Independent Financial Advisor)やRIA(Registered Investment Advisor)など、運用助言に対する報酬や、預り資産に対する管理報酬によって稼ぐビジネスモデルが主流となっている。

 

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日本もこのようなビジネスモデルに変質する可能性があるのではないか。日本においても、今後求められていくのは「お客様の利益を優先する資産コンサルタント」になるのではないか。

 

資産コンサルタントは、手数料率の高い金融商品、信託報酬の高い投資信託の販売を優先してはいけない。お客様の最適な資産管理と運用の方法をアドバイスすることに加え、家族の悩み、相続・資産承継に関わるお客様の問題点を探り出して、問題解決へと導くことが仕事である。このような役割は、高齢化が進む日本の富裕層のお客様にとって、たいへん重要な役割となるはずである。

 

そこで、誰が富裕層のための資産コンサルタントとなるか?という問題がある。

 

手数料率の高い金融商品、信託報酬の高い投資信託の販売だけに邁進してきた従来型のリテール営業担当者が、資産コンサルタントとなることは容易ではないだろう。彼らも会社のサラリーマンであり、上司からノルマを与えられているからだ。また、金融商品の「売り子さん」として、「売ってこい!」という号令のもと、電話をかけまくり、客先へ飛び込みまくりの営業で、販売だけに邁進してきたのであるから、富裕層のお客様の問題解決という難しい仕事など対応できるはずがない。

 

公益社団法人日本証券アナリスト協会の定義によれば、「プライベートバンカーとは、富裕層(マス富裕層を含む)のために、金融資産のみならず、事業再構築、事業承継を含めた生涯あるいは複数世代にわたる包括的・総合的な戦略をベースに投資政策書を立案し、その実行を助けるとともに長年にわたってモニタリングを続ける専門家のこと」とされている。

 

お客様から相談され、アドバイスする分野は、相続・贈与、事業承継、税務対策、内外不動産の取得・売却、金融・非金融資産の運用など多岐にわたることになるだろう。資産コンサルタントは、こうした分野についてはすべて習得しておく必要があるのだ。果たしてそれが可能だろうか。

 

具体的には以下のような役割になるだろう。

 

資産コンサルタントがお客様の資産管理を提案する際には、家族が達成したい目標、それを達成するにあたっての問題点、課題と解決策を明確化しなければならない。その検討内容としては、たとえば、家族構成、資金繰り、資産の分散、相続税など納税資金、資産運用・対策の提案ならびに期待される効果、最適資産配分の提案、ファミリー・ミッションの実現の可否、教育や医療の情報提供などである。

 

少々難しい仕事かもしれない。大手金融機関のリテール営業担当者にこのような役割を期待することは、無理があるかもしれない。

 

しかし、仮にこうした価値のあるサービスを提供することができれば、金融機関の営業担当者にとって、「売り子」よりもやりがいの大きな仕事になるはずだ。

複雑な税制や法令が「優秀な人材」の育成を阻んでいる

しかしながら、IFAやRIAが活躍する欧米と比べ、日本には次のような特有の事情があることから、本格的な資産コンサルタントが育成される環境にはない。

 

その原因の1つは、相続税などの税制が欧米に比べて複雑なこと、不動産の法令が複雑であることだ。金融資産のことは知ってるが、不動産のことはさっぱりわからないというリテール営業担当者が多く存在している。個別の金融資産のポートフォリオ運用は提案するが、そもそも「金融資産か不動産か」という根本的な資産配分の問題にまったく対応できていない。結果として、高齢者に投資信託を販売し、お客様は多額の相続税を支払う結果となる。「木を見て森を見ず」ということだ。

 

また、大手金融機関においては、細分化されている金融業務と複雑に入り組む業法・規制の存在、金融機関における短期の人事ローテーションのせいで、長期間お客様に寄り添って助言できる体制を採ることが極めて難しい。3年経てば、ほかの支店に転勤してしまう。

 

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これでは、大手金融機関のリテール営業担当者が、富裕層の資産コンサルティングを提供することなど不可能だろう。

 

しかし、そんなことをいっている場合ではない。日本の経済環境は大きく変化し、急速な高齢化の進展が大きな影を落としている。それゆえ、金融資産や不動産の保全、次世代以降にどう引き継いでいくかが、個人にとって資産運用以上に重要になってきている。早急な相続税対策が求められているのだ。

 

この高齢化問題は、日本経済を支える中小企業オーナー、その家族にとっても大きな影響を与えている。つまり、富裕層の資産コンサルティングに対する社会的な役割への期待が高まっているのである。

 

この「役割期待」に誰が対応できるのか。この点、日本証券アナリスト協会は、プライベートバンカー資格を通じて、富裕層に対する資産コンサルティングの啓蒙活動に取り組んでいるといえる。

 

プライベートバンカー資格制度は、富裕層に多様なサービスを提供するプライベートバンカーを本格育成するための、日本で初めての教育プログラムである。金融機関の窓口担当者や顧客担当渉外員、リテール金融業務に従事するスタッフ・管理職、さらにその上級幹部クラスを含む幅広い層を対象に、プライベートバンキングに関する知識や考え方を実務に即した視点から効率よく学ぶ機会を提供している。

 

今後、日本の富裕層に必要な役割は、金融商品の押売りではなく、お客様の問題解決の手段を提供してくれる資産コンサルティングである。大手金融機関は、この状況にどのように対応するのか。少なくとも現状では何も変わらないだろう。今後は欧米のIFAやRIAのようなビジネスモデルが求められているのかもしれない。

 

 

岸田 康雄

国際公認投資アナリスト/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/公認会計士/税理士/中小企業診断士

 

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