少子高齢化による人材不足、経営環境の変化など様々な問題の影響により、会社の事業承継で頭を抱える経営者が増えています。一方、事業承継の方法として年々増加傾向にあるのが、M&Aです。本連載では、事業承継を控える経営者に向けて、M&Aの基本を紹介していきます。今回は、事業再生についてみていきます

法的か私的か…事業再生の方法は大きく2つ

——起業しても1年で半分の会社がなくなる、10年以上続いている会社はわずか1%

 

経営者であれば、上記の言葉を聞いたことがあるでしょう。つまり「起業」は決して簡単なことではありません。

 

中小企業庁が平成31年1月に発表した『倒産データ』よると、平成30年1年間で倒産会社数はなんと「8,235社」もありました。そのうち圧倒的に多いのは「サービス業」の2,576社で、その次は「建設業」の1,431社、「卸売業」の1,216社、「製造業」の1,014社と続き、いずれも1,000社以上を超えています。

 

「倒産を避けたい! なんとしても再生したい」と事業再生を目指す経営者も多いでしょう。事業再生の方法としては大きく「法的再生」と「私的再生」の2つがあります。それぞれについてみてみましょう。

 

(1)法的再生

法的再生とは、裁判所が関与し法的手続きを利用して、事業を再生する方法です。法的再生のなかで、さらに「再建型」と「精算型」の2つの手続きがあります。一般的には再建型手続きを行って会社を再生させます。

 

①再建型手続き

再建型手続きには「民事再生」「会社更生」「特定調停」の手続きがあります。再建型手続きのメリットとしては、

 

・債権者の権利行使は手続き中に禁止されることよって、資産の差し押さえなど強制的な措置を防止することができる

・債権者が提出した債務以外の債務は失効となるため、簿外債務のリスクが少ない

・債権者全員の同意を得ることなく、再生手続きをすることができる

 

など挙げられますが、裁判による手続きを行うため、企業イメージが悪くなるリスクがあります。また、裁判外に負債金額に応じて予納金と弁護士の報酬を支払わないといけないため、費用の負担が大きくなるリスクもあります。

 

②精算型手続き

一方、精算型手続きには「破産」「特別精算」などの手続きがあります。

 

(2)私的再生

私的再生とは、裁判所による法的な介入はなく、債権者と債務者の当事者同士が個別で協議して、再生することをいいます。公的機関を利用していないことによって、どのようにして協議したかの情報は公開されません。一般的には目先の経営状況悪化により破産に陥った会社がよく使う方法です。

 

私的再生の方法は、主に以下の4つがあります。

 

・債権者・債権者の当事者同士による「私的ガイドライン」

・第三者機関による「事業再生裁判外紛争解決手続き(ADR)」

・「中小企業支援協議会」のスキームによる手続き

・弁護士による「特定調停手続き」

 

私的再生は

 

・会社情報を公開されないため、会社のダメージがない

・債権者と債務者の合意があればできるので、手続きが早い

 

といったメリットがある一方で、

 

・法的手続きではないため、不透明になりやすく、トラブルになる可能性がある

・金融機関などについている債務は解消されない

 

というデメリットもあります。

なぜ「民事再生法の適用」になったのか

続いて、実際に事業再生した会社の実態をみてみましょう。中小企業庁の発表によると、2000年に民事再生法が実施されてから、2010年の3月までの10年間で、民事再生をした中小企業は累計「7,100件」を超えています。

 

出所:中小企業庁『中小企業白書』
[図表1]民事再生法適用数 出所:中小企業庁『中小企業白書』

 

さらに下記グラフを見ればわかる通り、民事再生になった理由として、「本業の経営不振」が半分以上を占めています。その次は「金融機関への返済が滞った」、「経営判断の誤り」と続いています。

 

出所:中小企業庁『中小企業白書』
[図表2]民事再生の理由 出所:中小企業庁『中小企業白書』

 

では実際に民事再生をした会社は、具体的にはどのような施策を行ったのでしょうか。「人員整理」「費用の見直し」「不採算事業からの撤退」がTOP3となっています。

 

出所:中小企業庁『中小企業白書』
[図表3]再生計画の内容 出所:中小企業庁『中小企業白書』

 

一方、金融機関は民事再生したい会社に対して、きちんとした判断基準で決め、「経営者の再生する意欲」「再建計画の実現可能性」を最も重要視にしていることがわかります。

 

出所:中小企業庁:『中小企業白書』
再生支援に際して重視する判断基準 出所:中小企業庁:『中小企業白書』

 

そして民事再生することによって、7割以上の会社は「債務免除」されました。

出所:中小企業庁『中小企業白書』
再生計画の内容(債務免除) 出所:中小企業庁『中小企業白書』

「民事再生(法的再生)」の一般的な流れ

では、民事再生はどのような流れで行うのでしょうか。法的再生による民事再生の流れを見ていきましょう。

 

(1)弁護士を選定し、申立てに向けた準備をする

まず申立ての代理人である弁護士を選定し、申立てに向けた準備からスタートします。「会社の決算書」「簿外債務」「債権者一覧」など、会社の財務、債権者などの資料を用意しましょう。民事再生の申立てをするには、取締役会の承認が必要になります。忘れずに対応します。

 

さらに申立てするための資金として、裁判所に納付する「予納金」と弁護士に支払う「報酬」が必要です。裁判所に納付する「予納金」は債権金額によって異なりますが、数百万から1,000万円以上かかる場合もあります

 

また申立ての情報が公になると、債権者による債権保全行為が行われる可能性があるので、情報の扱いはくれぐれも注意しましょう。

 

(2)再生申立ての申請手続きをする

準備が整ったら、裁判所に再生申立ての申請手続きをします。裁判所に申立て手続きの受理をされたら、債権者から債権の取立を回避するよう、申立てから再生が開始決定されるまでの間は債務者の財産は保全されます(=弁済禁止の保全処分といいます)。

 

(3)債権者向けの説明会を実施する

主な債権者が対象に、会社が民事再生になった経緯、今後の立て直す計画などを説明します。特に異義がなかった場合、大体申立てから1週間以内に再生手続きがスタートします。

 

(4)再生計画案を作成する

再生に向けて具体的な再生計画案を作成する必要があります。再生計画案には下記の作業があります。

 

・不採算事業など問題となる「事業の見直し」

・資金力、信用度などから支援してもらう「スポンサー」探し

・最債権者による債権金額確定の「債権届出」の作成

・「債権届出」に対する認否書の作成

・公認会計士による最債権者の資産を確定する「財産評定」作業

 

(5)再生計画案を裁判所に提出する

再生計画案の作成が終わったら、裁判所に提出します。監督委員が再生計画案の内容を精査し、法律上の障害がないなど裁判所が決議できた場合、その次に届出債権者に決議権を行使します。

 

一般的には、債権者集会を行われて、投票する方法を採用しています。出席人数の半分以上の賛成を得られた場合、可決となります。つまり、再生計画案は裁判所と債権者と両方からの議決があってから初めて可決となります。

 

(6)再生計画を実行する

再生計画案が可決されたら、計画案通りに履行します。再生計画案の履行が完了、もしくは再生計画案が可決された3年を過ぎたら再生手続の集結となります。

中小企業が「勝ち抜く」ためには?

日本は人口減少時代に突入し、市場は飽和状態の中で、衰退期に入ったといってもいいでしょう。そのなかで、様々な業界が再編を進んでいます。

 

わかりやすい例では、かつて13行もあった都市銀行は、業界再編により「みずほフィナンシャルグループ」「三井住友フィナンシャルグループ」「りそなホールディングス」「三菱UFJフィナンシャルグループ」の4行に集約されました。

 

コンビニ業界では、業界再編により「セブンイレブン・ジャパン」「ファミリーマート」「ローソン」の上位3社のシェアが圧倒的になっています。

 

その他、調剤薬局、百貨店、自動車、スーパーマーケット、ゼネコンなど様々な業界において再編が進んでいます。

 

では中小企業はこの先勝ち組でいるためには、どのような選択肢があるのでしょうか。ひとつの方法が、タイミングを逃さずに「M&A」を活用することです。その際、大きく3つの選択肢があります。

 

選択肢① 買手会社として買収を積極的に行う

1つの選択肢としては、積極的に会社を買収して、業界再編をリードすることです。飽和状態で会社が潰されるのを待つのではなく、自ら再編をリードするのです。一般的にはその業界の50%以上のシェアを持つことができれば、1強として残れます。

 

選択肢② 業界大手に売却し、グループ会社になる

業界大手に会社を売却して、グループ会社として会社を発展させることも1つの選択肢です。親会社の信用度、資金力を活用することによって、会社の可能性が大きくなるでしょう。

 

選択肢③ ホールディングスにする

1社だけで戦うより、複数社で戦った方が勝率は高まります。つまり、自分の会社だけではなく、それぞれの強みを持った複数社を集結して、ホールディングスにすることも1つの選択肢です。

 

 まとめ 

日本の人口は2008年以後減少傾向にあります。日本のGDPの約60%を占めている個人消費支出は、人口減により減少することは想定できるでしょう。つまり、市場のシェアが少ない中小企業から倒産していくことは必然的なことなのかもしれません。経営が厳しくなってから対応策を立てるのではなく、業界の動きを常に把握し、タイミングを逃さないことが大切だといえます。

本連載は、株式会社エワルエージェントが運営するウェブサイト「M&A INFO」の記事を転載・再編集したものです。今回の転載記事はこちら

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