売手会社と買手会社…M&Aで株価はどう変わる?
2019年のM&A総数は前年を59件上回る841件と4年連続で増加しました。M&Aを活用する動きの背景には、少子高齢化の影響を受け、国内市場の縮小やサービス業を中心とする人手不足、シェア拡大や労働力確保のために海外事業を推進、などの事情があります。
では、実際にM&Aを実施することによって、株価にはどのような影響が出るのでしょうか。
一般的には売手会社は「会社をさらなる拡大「成長スピードを加速させる」など、会社をプラスになる目的でM&Aを実施することがほとんどです。そのため投資家からすると、会社はこれからもっと大きくなる、収益がもっと上がる、などという期待値が高まるので、株価は上昇するケースが多いようです。
一方、買手会社は「新規事業の開拓」「技術力の確保」「人材の確保」など、売手会社の強みを活かし、自社とのシナジー効果を最大化に発揮する目的で買収することが多いことから、同じく投資家からプラスに評価され期待される場合は株価が上昇します。
しかし、実際に会社を買収したあとに、人材の流出や経営陣の配置に失敗したなど、M&Aを実施した後の組織再編(=PMI)がうまくいかなかったり、想定していたシナジー効果を得られなかったり、業績が悪くなった利する場合があります。このような場合は、当然株価が下落することになります。
つまり、M&Aを実施することによって、買手会社の株価は上昇する場合もあれば下落する場合もあるといえるのです。
M&A手法で株価の動きが変わる?
M&Aといっても、大きく6つの手法もあります。そのうち株価に大きく影響が出るといわれる3つの手法をみていきましょう。
まず「株式移転」です。株式移転とは、金銭の取引はなく、親会社となる新しい会社を立ち上げて、その新しい親会社に株式を移転することによって、完全子会社になる組織再編手法です。
たとえば、複数の上場会社が株式移転をして、新しく親会社を立ち上げることによって、今まで別々の会社が経営統合し一つの会社になります。それぞれの強みを活かすことによって業績が上がる可能性が高くなり、株価の上昇にも繋がるのです。
次に「株式交換」株式交換とは、完全親会社となる会社が、完全子会社となる会社が発行済みの株式をすべて取得する手法です。株式交換実施することによって、親会社と子会社は100%の完全支配関係になります。
株式交換するには、買手会社と売手会社の株価を基準に、株式交換比率によって算出します。株式交換比率は一般的には買手会社(親会社)と売手会社(完全子会社)が交渉して決めていきます。
なお、株式交換の場合、売手会社(子会社)は買手会社(親会社)の株を持つことになるので、上昇するケースが多いようです。一方、買手会社(親会社)は買収のために新しく株式を発行して、自社より株価が低い売手会社(子会社)の株式と交換するので、株価が下がる可能性があります。
最後に「TOB(株式公開買い付け)」。TOBとは「Take-Over Bid」の略で、証券取引所を通さずに公開買い付けする期間や価格、株式数などを公告して、買収する相手会社の株式を所有している株主向けに買付けすることです。不特定多数の株式に対して買付けすることができることから、効率よく株式を集めることができ、売手買手問わず価格のズレがありません。
なお、TOBは本来の目的に至らず余計な株式を抱えなくてもいいように、買付けする株式数の下限を設けることができます。
一般的には株主に株を売ってもらうためには、TOBを発表する株価はプレミアムをプラスした価格となりますので、売手会社の株価は上昇すると言えるでしょう。一方、買手会社も会社を買収することによって、自社イメージや信頼度の向上などによって会社価値が高くなるのであれば、投資家からの購入が増え株価の上昇が見込めます。
一方で、経営陣の同意を得ずにTOBを行い、敵対的買収(敵対的TOB)を行われるケースもあります。日本経済新聞の発表によると、2018年の敵対的買収件数は26件あり、1999年の42件の次に多い件数になりました。
敵対的TOBの場合、相手会社の経営権の取得を目的にするケースがほとんどなので、株価も高く設定されて売手会社の株価が上昇します。
敵対的TOBの買収防衛策はさまざまありますが、そのなかの「ポイズンピル」では、あらかじめ定められていた新株を発行することができ、既存株主は新株予約権で既に発行されていた新株を時価よりも安い価格で取得できます。その施策を実施されることによって、一時的に上昇した株価が下がることになります。
なお、買手会社は高い株価を設定することによって、買収価格が上昇しやすく、巨額な資産減損になるリスクがありますので、注意する必要があるといえるでしょう。