売手会社と買手会社、銀行とのそれぞれの手続き
銀行からの融資を利用してM&Aを行う場合、売手会社は「個人の連帯保証の解除」「個人所有している不動産などの担保解除」、買手会社は「買収ファイナンスの融資」「親会社保証、担保」という手続きが銀行と発生します。
M&Aの融資は簡単ではありません。まず銀行の担当者がM&Aに慣れていない可能性があります。場合によって、支店長ですら分かっていない銀行もありますので、M&Aの実績が多い銀行と交渉することが大切だといえます。
また融資の審査をする際、信用力が非常に重要になり、まずは「対象会社が単体で返済できるのか」を見られます。銀行にとって「貸したお金は必ず返してもらわないといけない」というスタンスなのは当然のこと。融資額に対して対象会社は単体で本当に返済ができるのかの審査を行います。そのため、会社の経営状況を隈なく調べることになります。格付が低い会社に対しては、銀行は保全として不動産などを担保にしてリスクヘッジします。
また対象会社単体の格付が低い場合で親会社があるケースであれば、親会社の信用力を調べます。対象会社の格付が低くても、親会社が上場会社など、格付が高ければ、融資がおりる可能性があります。
さらに銀行が融資の審査をするとき、M&Aをしたあとのシナジー効果を勘案した収支計画を提出しても、基本稟議では使用されません。なぜならば、シナジー効果を含めた収支計画はあくまでもシミュレーションであるからです。実際に稟議では実績を基準に判断されます。
銀行の格付が低い会社は保全が必須
すでに銀行に借り入れがある会社は「与信先」といい、銀行は年に1回格付を見直して、債務者区分を判定します。債務者区分は「正常先」「要注意先」「破綻懸念先」「実質破綻先」とされています。
債務者区分で「要注意先」以下と判定された、ということは、銀行に「この会社にお金を貸すと、返ってこない可能性が高い」と判断されたということなので、M&Aにおける融資は非常に厳しくなると言えます。
その場合、銀行は保全を取ってリスクヘッジを行います。保全としては不動産の担保、有価証券などがあげられますが、もちろん担保価値が高いモノのほうが融資に有利となります。
また銀行の融資は、大きく「プロパー融資」と大きく「保証協会融資」の2種類があります。
プロパー融資は、わかりやすくいえば協会保証がつかない融資です。一方、保証協会融資は、万が一融資を受けた会社(与信先)が倒産などによって返済ができなくなった場合、銀行の債権が保証協会に移り、保証協会が代わりに返済するという融資です。銀行にとって、保証協会融資であれば、ほとんどリスクがないといえます。
なお保証協会融資の場合、信用保証協会が審査を行ってから銀行が審査するので、融資の判断に時間がかかるので注意しましょう。
売手会社の連帯保証の解除は必須
連帯保証がついている売手会社は、M&Aにて会社を売却する場合、その連帯保証を解除することが必須条件になります。連帯保証を解除する方法は大きく2つあります。1つは今の債務を完済して連帯保証を解除する方法です。もう1つは連帯保証人を買手会社、もしくは買手会社の代表に切り替えることによって、解除する方法です。しかしその債務が保証協会融資の場合、原則保証の切り替えはできないため、連帯保証を解除するには債務を完済する方法しかありません。
またM&Aにおいて、売手会社の格付が低く株式譲渡、かつ会社資産を担保につけている場合、担保はそのまま買手会社に移るので、特に問題はありません。しかし売手会社の代表の個人で所有している不動産や資産などが担保になっている場合、担保解除には銀行の承認が必要です。担保解除によって回収リスクが高まると銀行に判断された場合は、審査に時間がかかること注意しましょう。
M&Aの資金調達…私募債を利用する手もあり
私募債とは、買手会社が社債を発行し、少数の投資家が直接に引き受けて、資金調達する方法です。
私募債には、銀行に社債を引き受けてもらう銀行保証付私募債と、50人未満に社債を引き受けてもらう少人数私募債などがあります。銀行保証付私募債は、銀行の審査をクリアする必要がありますが、少人数私募債は、発行のルールや条件さえクリアできればどのような企業でも募集することができます。
銀行保証付私募債は、基本的に保証人の切り替えができず、また、社債なので返済という扱いではなく、途中解約という手続きになるため、解約時にペナルティが発生することを注意する必要があります。
少人数私募債は、発行対象・人数は50人未満、発行総額は1億円未満、一口あたりの最低発行額は1/50以上となっています。
私募債は、会社の親族や知人などを勧誘することが基本ですが、元金の一括返済が必要だったり、財政状況が悪かったりすると発行できません。