少子高齢化による人材不足、経営環境の変化など様々な問題の影響により、会社の事業承継で頭を抱える経営者が増えています。一方、事業承継の方法として年々増加傾向にあるのが、M&Aです。本連載では、事業承継を控える経営者に向けて、M&Aの基本を紹介していきます。今回は、企業買収の基本的な流れと手順を紹介します。

「会社を買いたい」と思ったら仲介会社に相談

会社買収の方法は、売手会社の株式を買う「株式取得」、売手会社の全部の株式を取得する「株式交換」、新しく会社を立ち上げて売手会社の株式を全部移転させる「株式移転」、売手会社の1つの事業もしくは全部の事業を買う「事業譲渡」、売手会社から分割された事業を買う「会社分割」、売手会社と事業を統合し一つの会社になる「合併」の6つの方法があります。

 

会社買収で成功するには、自分の会社の需要に合せて最適な方法で行うことがポイントです。

 

では実際に会社を買うことを検討したら、どうすればいいのでしょうか。その第一歩は、M&Aのプロへの相談です。M&Aのプロというのは、「銀行」「公認会計士」「弁護士」「司法書士」「仲介会社」と、金融機関から士業まで様々です。中小企業の場合、最後の成約までのトータルコンサルティングを行うのは仲介会社になるので、知り合いの士業の先生に相談して仲介会社を紹介してもらったり、最初から実績が豊富な仲介会社にあたってみるといいでしょう。

 

次のステップからは、M&Aの仲介会社に依頼した場合の流れに絞って見ていきます。

 

M&Aの仲介会社に相談しにいくと、具体的に売手会社の紹介を受ける前に、「NDA(機密保持契約書)の締結」を行います。売手会社の情報公開は、その会社の存続だけではなく、コンプライアンスやインサイダー取引などの問題にもなる可能性が非常に高いため、それを回避するためのNDA(機密保持契約書)になります。

 

買手会社も、スムーズに買収を進めるにあたって関係者を限定し、問合せ先や情報の管理方法などに注意しなければなりません。

 

NDA(機密保持契約書)の締結が終わると、いよいよ仲介会社から売手会社の提案が始まります。そのなかで、具体的に交渉したい会社があったら、交渉していいという意思表示として「提携仲介契約書の締結」を行います。

 

「提携仲介契約書の締結」が終わったら、いよいよ具体的に「買収する会社の検討」に入ります。売手会社の「企業概要書」「過去3期分の決算書・税務申告書類」「直近の残高試算表」「退職金など簿外債務」「(会社所有不動産がある場合、その不動産に関連する)書類」など、仲介会社からの資料を通して、検討していきます。

 

もし資料のなかに「買いたい」という会社があったら、その次は売手会社の経営者と「トップ面談」を行います。トップ面談では、謙虚な姿勢を見せることが重要です。なぜならば、本当にいい売手会社であれば、他の会社も同じく狙っているからです。トップ面談で成功するには、「謙虚な姿勢を見せる」「売手会社に失礼のないよう、事前に事業内容を把握する」「質問攻めにしない」という3つのことが大切です。なおトップ面談では、仲介会社の担当の進行で大きく①~⓹の流れで行います。

 

①買手の社長より、会社の概要説明、買収の希望、買収後どのような会社にしたいなどの挨拶をする

 

②売手の社長より、会社の歴史、アピールポイント、会社を売る理由など挨拶をする

 

③質疑応答

 

④現地視察の場合は、日程調整

 

⑤今後のスケジュールの確認など

 

トップ面談で売手会社からも前向きに検討する返事があったら、成約を前提に、担当者により細かい条件調整に入ります。その際に、売手会社に対して以下の内容を検討していきます。

 

・株式譲渡、事業譲渡などの買収方法

・財務内容

・ビジネスモデル

・技術力

・営業力

・現在の経営者の処遇

・役員・社員の引き継ぎ条件

・契約時期

・最終的に投資可能な金額、追加投資額

「売手会社の経営者の立場」になり考えることが大切

売手会社との条件が整ったら「基本合意契約の締結」へと進みます。ここからは自社の独占交渉権の権利が発生し、基本的には1:1の交渉になります。

 

基本合意契約には、「譲渡金額など大まかな条件」や「契約予定日」、「独占交渉権」「基本合意契約の有効期限」「法的に拘束される範囲」「買取監査に関する内容」などが書かれています。なお、買収する会社が上場会社の場合、このタイミングで証券取引所に開示する場合もあります。

 

基本合意契約を締結したあと、最後の山場といわれるのが、監査法人による「買取監査」です。買取監査では、3つの分野で監査を行います。

 

まず公認会計士が中心となり行われる「財務監査」。売手会社の「直近3期の決算書」や「直近3期の税務申告書」「クライアントとの契約書」「借入れの契約書」などの資料を通して、財務の実態をチェックします。

 

次に弁護士が中心となり行われる「法務監査」。売手会社の「現在の債権債務状況の確認」や「労務問題」「退職金など将来発生するかもしれない債務債権」「訴訟記録」などの資料を通して、法律上のリスクをチェックします。

 

3つ目は、仲介会社の担当者が中心となり行われる「ビジネス監査」。「買収によって得られる利益」「シナジー上の効果」などをチェックしていきます。以上、3つの監査の結果を持って、以下の観点から総合鑑定します。

 

・売手会社の現在の組織のままで、事業計画通りの数字達成できるのか?

・今後の経営の課題点とは何か?

・期待していた重要業績評価指数(KPI)は達成できるのか?

・同業他社に勝てる強みはなにか? 改善すべき弱みとは何か?

 

総合鑑定の結果に基づき、役員の交代交渉、買収価格の調整などを行う場合もあります。もし売手会社の経営者にそのまま継続して経営してもらう場合、M&Aの前提となる事業計画やインセンティブを明確することが重要です。

 

なぜならば、今まで自分の会社だった現経営者は、会社売却後は雇われ社長になるので、モチベーションの違いが出て、売上に影響が出るリスクが考えられるからです。しかし実際に会社を売る最終段階となり、会社売却に対し寂しく感じ、ブルーになる経営者も多くいます。交渉する際に、売手会社の経営者の立場になり、慎重に進めることが大切といえます。

 

買取監査が無事終わると、晴れて最終契約を迎えることになります。最終契約では、契約書の調印と同時に、法律に定められた一定のプロセスを踏む必要があります。最も多い株式譲渡のクロージングの流れを1例として紹介します。

 

①売手会社の代表にて、取締役会に事前に株式譲渡の申請をし、取締役会がそれを承認し、「譲渡承認書」を交付する

 

②「株式譲渡契約書」を締結する

 

③買手会社が譲渡代金を渡す

 

④売手会社から社印、通帳などの貴重品を受取る

 

⑤買手会社にて取締役会に株券と名義書換申請書を提出する

 

⑥新しい株主名簿を作成する

 

⑦臨時株主総会を招集する

 

⑧臨時株主総会で新しい役員の選出をする

 

⑨取締役会を招集し、新しい代表取締役を専任してから、代表印などの登記を行う

 

クロージングが終わると、売手会社と前経営者と一緒に社員や取引先、銀行への開示を行います。プレスリリースなどにより開示するのも、このタイミングです。

 

 まとめ 

今回は、会社を買う場合の流れを見てきました。

 

企業買収で成功した会社もあれば、失敗した会社もあります。 失敗しないためには、会社を買うときのメリット、リスクをきちんと把握し、なんで会社を買うのか、買う目標はなにか、その目標を達成させる戦略の精度はどうかなど、慎重に検討していきましょう。

 

本連載は、株式会社エワルエージェントが運営するウェブサイト「M&A INFO」の記事を転載・再編集したものです。今回の転載記事はこちら

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