「事業承継型スタートアップ」の一般化を阻む3つのハードル

2020年頃に数十万人の団塊世代の経営者が一斉に引退時期にさしかかるとされている(『2016年事業承継に関する現状と課題について』中小企業庁より)。事業承継のより一層の円滑化を図ることが急務であるが、経営状態、後継者問題などから親族間でもスムーズに行われているとはいい難いのが現状である。本記事では、公認会計士の久禮義継氏が、中小企業の事業承継問題の抜本的解決策となる可能性がある「事業承継型スタートアップ」について提案、解説する。

「起業率の底上げ」につながるという一石二鳥の効果も

今回の記事では、中小企業の事業承継問題の抜本的解決策となる可能性がある「事業承継型スタートアップ」について触れてみたいと思います。

 

筆者がこのスキームを考える契機となったのが「2017年版中小企業白書」(中小企業庁)です。中小企業庁は、同白書において、図表1とともに次のように述べています。

 

「起業・創業によりイノベーションが起こり、既存企業は成長を目指し、事業や経営資源(撤退企業を含む)が円滑に次世代に引き継がれるというライフサイクルが重要である」

 

[図表1]
[図表1]

 

これをあえて宗教的ないい方で例えてみると、ちょっと大げさですが、企業の「輪廻転生」ともいえ、このサイクルを通じて、通常所有と経営が一致している中小企業でもゴーイングコンサーン(※1)を実現することができるものと考えています。

※1 ゴーイングコンサーンは、「継続企業の前提」とも呼ばれ、会社が将来無期限に事業を継続していくという前提を指します。

 

では、ここで提示する事業承継型スタートアップとは何かということなのですが、前述の白書に従って定義してみると、次のような感じとなります。

 

「事業承継を控えた老舗を第三者承継により譲り受ける起業家または幼年期企業」(※2)

※2 ちなみに、紙面の都合により説明は割愛しますが、第三者承継の割合は一貫して増加しており、現在では4割を超えています。

 

もう少し噛み砕いていうと、

 

「老舗が売主で、起業家または幼年期企業が買主となるM&Aであり、買主は、老舗の経営資源や独自の強みなどに着目しながらも、最先端テクノロジーの導入やイノベーティブな視点を持ち込むことを通じ、老舗のビジネスモデルを抜本的に転換させ、再成長を目指す」

 

…ことと定義できるでしょう。

 

親族内承継における課題として「経営者としての適性や能力のミスマッチ」(※3)がよく指摘されますが、第三者承継によった場合、買主を十分精査できれば、そのリスクを回避することができます。

※3 後継者が過度に保守的、視野狭窄、新奇性欠如、発想が硬直的、常識に囚われすぎといった側面が強いため、次世代を担う経営者として力量不足のレッテルが貼られてしまうことを指します。

 

加えて、このスキームは、その性質上、付随的なメリットがあることも指摘できます。日本は過去から先進諸国との比較で一貫して起業率が著しく低いと指摘されてきました(※4)。そこで、このスキームを有効活用することによって、前述のとおり事業承継をより効果的に進めることができるとともに、起業率の底上げにもつながるという一石二鳥の効果が期待できるのです。

※4 平成29年度中小企業白書(中小企業庁)

 

ちなみに、昨年秋に、総合電機メーカー出身のワカモノが、最近流行りのM&Aマッチングサイトを活用して、自ら多額の資金を調達しながら第三者承継(≒起業)を行ない、紙面を賑わせた事例が、具体的ケースとして当てはまるでしょう(※5)。

※5 「新時代の働き方? サラリーマンが個人でM&A」(ワールドビジネスサテライト) https://www.tv-tokyo.co.jp/mv/wbs/feature/post_167032/

現状の課題…乗り越えなければいけない3つのハードル

しかし、このスキームが一般的なものとなるには、いくつか乗り越えなければいけないハードルが存在します。そのうちの主要なものにつき以下に列挙してみました。

 

1.事業承継専門家にとってのキャッシュポイントが限定的

 

誤解を恐れずにいえば、通常、起業家は潤沢な資金を持っているわけではありません。老舗も似たようなシチュエーションの場合が多いでしょう(※6)。したがって、本来サポート役として期待される事業承継専門家にとって、このスキームは現時点においてはビジネスとしての魅力に欠ける、と考えてもなんら不思議ではありません。

※6 潤沢な資金を有している老舗であるならば、後継者難などの事業承継問題に陥る蓋然性は乏しいだろうという直感的な考えに基づくものです。

 

2.リスクマネーの提供先として相対的に魅力が乏しい

 

一般論としては起業家に対してリスクマネーが提供される環境は整備されてきています。例えば、生粋のスタートアップであるならば、シードマネー(※7)の調達は比較的容易な環境下にあります。しかしながら、事業承継型スタートアップの場合、金融機関や投資家からすると、老舗を継ぐことから短期的な高成長は難しいと見なされ、投融資の対象としての魅力が乏しいと評価(判断)される可能性があります。

※7 シードマネーとは、新たな事業を開始または起業準備のために必要な資金をいいます。

 

3.老舗もワカモノもなかなか次の一歩を踏み切れない

 

両者を取り持つマッチングイベントは段々増えてきていますが、ワカモノの斬新なアイデアを受けて、老舗とワカモノが具体的に本格的なステップへと辿るのはまだ限定的です。これは、資金の問題でしょうか? 価値観などのマインド面における世代間ギャップの問題でしょうか? それとも当事者の覚悟の問題でしょうか?

事業承継問題を抜本的に解決するソリューション

国内で事業承継問題が公になる契機となったのは「2004年版 中小企業白書」の「第3章 中小企業の世代交代と廃業を巡る問題」であったと記憶しています(※8)。

※8 あくまでも筆者が簡潔にWeb調査を行ったものに過ぎず、正確に確認をしたわけではありません。

 

そこからもはや15年程の歳月が経過しており、この問題は収まるどころか、大きな社会的課題となっています。

 

資産承継に効果的なやり方はさまざまに存在します。経営承継についても十分にノウハウが溜まってきています。

 

それでもなお、この問題が根強く残っているということは、モノゴトを多面的に見て、固定観念に囚われない違ったやり方を模索することが必要なのではないでしょうか。

 

だから、「事業承継型スタートアップ」は、事業承継問題の抜本的解決を促すソリューションとして考えてもらえるとうれしく思います。

 

筆者は、中小企業に重くのしかかっている事業承継問題を抜本的に解決するために、このような柔軟な姿勢で、先陣を切って果敢に挑んでいきたいと考えています。

 

読者の中から似たような思いを有する同士が現れることを心から期待しています。

 

 

久禮 義継

株式会社H2 オーケストレーターCEO/公認会計士久禮義継事務所 代表

 

株式会社H2オーケストレーター・CEO
一般社団法人M&Aテック協会・代表理事
公認会計士久禮義継事務所・代表
 

1994年、同志社大学経済学部在学中に公認会計士第2次試験合格。1995年、同校卒業後、中央監査法人に入所。1998年、日本興業銀行ストラクチャード・ファイナンス部へ出向。2000年、同法人金融部に配属。2001年、ドイツ証券投資銀行本部に転じる。2006年、ミシガン大学ビジネススクールを卒業後、The Bridgeford Group(ニューヨーク)にて勤務。2007年に帰国し、JPモルガン証券投資銀行本部、みずほ証券グローバル投資銀行部門、Deloitteなど数社を渡り歩く。2013年、NEC経営企画本部に転じ、2019年独立。これまで、規模・地域・業種を問わず数兆円超(企業価値)のM&Aアドバイザリー、民事再生法を活用した事業再生スキーム(国内初案件)におけるM&Aアドバイザリー、事業法人グローバルIPOにおける共同主幹事(2002年国内最大案件)、特殊法人の民営化関連アドバイザリー、退職給付信託や各種証券化スキームの開発等、投資銀行業務における重要案件を幅広く担当した経験を有する。NECでは、上級役員の参謀役として経営の中枢に携わり、中長期戦略・グローバル戦略の立案・実行部隊として、ダボス会議事務局、グローバルアライアンス推進、新規事業開発、中期経営計画立案などに従事。公認会計士、事業承継士、米国公認会計士(未登録)。著書に『流動化・証券化の会計と税務』(中央経済社)、「スモールM&Aの教科書 −売買当事者が安心して取り組める実務知識−」(中央経済社)など。

著者紹介

連載令和時代に生き残る!中小企業のための新しい経営戦略

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