事業が悪化し、経営難に陥った中小企業経営者の切り札、「不動産売却」。しかし、高値で売却して負債を返済したいと考えながらも、実際は買主の「言い値」で手放さざるを得ないことが多い。とくに注意したいのは、思わぬところからの「情報漏洩」によって、買主に足元を見られてしまうケースだ。そこで本記事では、不動産売却における「情報管理」について解説する。

不動産売却を有利に進める上で「情報の管理」は必須

不動産売却では「情報の管理」が成否に大きく影響します。売主自身が余計な情報を買主に与えないことも大切ですが、情報が漏れる「穴」は他にも多数あります。

 

売主の事情がわかれば、買主はより有利な条件で購入できるよう戦略を練ることが可能です。売買価格が大きいため、戦略がもたらす利益はときに数千万円、あるいは数億円という大きな額にのぼります。

 

売主の側から見れば、情報が漏れるだけで「本当は得られたはずの利益」が数千万円、数億円という単位で失われることになるのです。より安く、より有利な条件での買取を求めて「売主の情報」を積極的に集めようとする買主候補は少なくありません。

 

◆「面談」はしても「相談」はするな

 

もっともリスクが高いのは買主と直接相対する売主本人です。

 

高値の不動産売却に大事な点の一つは、たくさんの買主候補に会うことです。しかし、これが同時に大きな危険性を孕(はら)んでいて、買主候補と話す中ではついついムダ話をして、こちらが不利になる情報を渡してしまうことがあります。

 

買主候補はその中から敏感に売主の事情を察知するので、漏らしているつもりはないまま、実は情報が「ダダ漏れになっている」というケースが数多く見られます。

 

中でももっとも危険なのは「相談してしまう」ことです。経済的な窮地に陥っている経営者は話を親身に聞いてくれる人を欲しています。「どんなことでも相談してください」「諸事情をすべて教えてもらった方が、より良い条件で売れます」など買主候補は心をくすぐる言葉を並べてきますが、それに乗ってしまうと弱みに付け込まれてしまいます。

 

それ以外にも、経営者が誰かに相談したり、お酒を飲む席でつい愚痴をこぼしたりするかもしれません。たとえば「借金がかさんでおり、期末までに返済しなければならないが、資金がなく困っている」など、うっかり誰かに漏らしてしまうのです。

 

たとえ相手が不動産売却の利害関係にない知人や信頼している友人だったとしても、ひょんなところから情報は伝わってしまう可能性があります。もしこれが買主候補に伝われば、不動産の交渉においては大きなハンデとなります。

 

知人や友人から直接買主候補に伝わる以外にも、彼らが話をした第三者から噂が広まることも考えられます。不動産売却を検討する段階からしっかりとした意識を持っていなかったがために、売却で損をしてしまうケースは意外と多いのです。

経営状況によっては「社内」から情報が漏れる可能性も

◆従業員から情報が漏れ出る危険性

 

経営者にとって従業員は内部事情を知る危険な存在です。経理部門の従業員はお金の流れを詳細につかんでいますし、営業部門の従業員は売上の増減を把握しています。工場などの現場で働く従業員も、稼働状況から会社の収支を敏感に察しているものです。

 

また、社内の口コミで、思わぬ人物が深い内部事情を知っていることもあります。会社の情報を外部に漏らさないよう日頃から教育指導をすることで、ある程度は情報の流出を防ぐことができますが、経営状況によって情報流出のリスクは変動します。

 

事業がうまくいっているときには、給与の引き上げや福利厚生の充実で従業員のモチベーションが高く保たれます。そのため、情報を得ようとするアプローチがあっても従業員が漏らす可能性は相対的に低めです。

 

ところが、事業成績が右肩下がりになると従業員のモチベーションが低下し、情報流出のリスクは高くなります。給与の支払いが滞ったり、福利厚生が薄くなったりすることでモチベーションが低くなるだけでなく、モラル意識も希薄になるためです。

 

特に売主が廃業して不動産の売却を考えている場合には、経営者と従業員の間には利益相反が生じます。収入の道を断たれるという経済的なマイナスに加え、「身を粉にして働いてきたのに、社長に裏切られた!」という感情的なしこりが生じれば、事業の情報を漏洩してはいけないという守秘義務は守られにくくなります。

 

◆不動産売却においては、壁に耳あり、障子に目あり

 

それほど親しい付き合いではなく、事業について直接話す機会もないのに、近隣の住民が事業の状況を把握していることがあります。家族や従業員と付き合いがあったり、事業に伴う車や人、モノの往来などを普段から目にしたりするため、自然とわかってしまうのです。

 

「以前は休みになれば海外旅行に出かけていたのに、最近は家にいるらしい」「高級車を乗り回していたのに、低価格の国産車に代わった」など、近隣の人はお互いをよく観察しているものです。

 

さらには、同業他社やライバル会社などは相手の経営状態を常に意識しています。突然の廃業や倒産などがあると、自身の事業に影響が及ぶためです。噂話や取引相手の従業員の話など、日常から取引先の情報を集めることが半ば習慣化している事業者も少なくありません。買主候補にとっては信頼性の高い情報源となるため、情報を持っている取引先とコネクションがある場合には聞き取りをかけることもあります。

 

通常、事業者は取引先に対してマイナスの情報は発信しません。経営が苦しいことを正直に明かせば、買掛を認めてもらえなかったり債権の回収を急がれてしまったりするなど経営環境が悪化するため、経営が苦しくても取引先には「大丈夫」と告げるのが常道です。しかし、取引量の増減や接し方といった小さな変化によって経営状況を敏感に察知され、売主側の懐を見透かされることもあり得るのです。

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