個人が持っている財産を守りながら、それを人に預けることを「信託」といいます。具体的には、本人が自分で財産を管理することに不都合が生じた場合、人に財産を預け、預かった人がその財産の管理を行いながら、生じた便益を本人に渡してあげる仕組みを指します。また、信託する際、受益者を個人とせず、法人としての社員とするために「一般社団法人」を設立することがあります。そこで本記事では、岸田康雄公認会計士/税理士が、一般社団法人にまつわる基礎知識を解説します。

1:一般社団法人とは

一般社団法人とは、「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」に基づいて設立された法人のことをいいます。一般社団法人は、一定の目的で社員が集った団体であり、設立の登記を行うだけで誰でも簡単に設立することができます。

 

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一般社団法人の特徴は、持分のない法人であることです。すなわち、株式会社とは異なり、法人のオーナー(出資者)が存在していません。

2:持分のない法人とは

一般社団法人には持分が存在しないため、法人が持っている財産に相続税が課されないことになります。それゆえ、一般社団法人を親族内で支配し、そこに財産を所有させていれば、それらの財産が相続税の課税対象から外れることになります。

 

しかし、個人財産を一般社団法人へ移転する際には、オーナー個人に対して譲渡所得税が課され、一方の一般社団法人に対して法人税(受贈益)が課されます。

3: 剰余金の分配はできない

一般社団法人の問題点は、定款で規定しても、剰余金又は残余財産を、社員又は設立者に分配することができないということです。それゆえ、株式会社のように法人がオーナーへ配当金を支払うことによって剰余金を分配することはできません。つまり、オーナーが直接的に利益を吸い上げる手段がないということです。とすれば、オーナーは役員に就任して報酬をもらうしかありません。

 

[図表1]一般社団法人の問題点
[図表1]一般社団法人の問題点

 

しかし、一般社団法人を解散する際、社員総会の決議によって社員へ残余財産を分配することは可能です。それゆえ、一般社団法人へ移転した財産を最終的にオーナーの手元へ取り戻すことはできるのです。 

4:機関設計

株式会社の機関は株主総会と取締役(最低1人)です。一方、一般社団法人の機関は社員総会(2人以上、ただし設立後は1人でも可)と理事(1人以上)です。

 

株式会社では株主がゼロとなることは理論上考えられませんが、一般社団法人では社員がゼロとなった場合は解散しなければなりません。

5:事業内容と運営資金

株式会社の事業は営利目的(利益の分配を行う)の収益事業です。一方、一般社団法人の事業は非営利目的(利益の分配を行ってはならない)ですが、収益事業に限らず収益性のない事業(公益性の高い事業)を行うケースも多く見られます。

 

株式会社の運営資金は、株主からの出資を基礎としますので、株式を発行し、対価として金銭や現物の払込みを受けます。一方、一般社団法人の運営資金は、出資という概念がないため、負債によって調達することになります。

 

この点、利息の支払いを行わない「基金」という劣後債務によって運営資金を調達する制度が設けられています。

 

[図表2]株式会社と一般社団法人の違い
[図表2]株式会社と一般社団法人の違い

6: 剰余金の分配は不可能

一般社団法人は、定款で規定しても、剰余金又は残余財産を、社員又は設立者に分配することを定めることはできません。一般社団法人の社員は、設立のために金銭を出資したわけではなく、オーナーとしての権利を持っているわけでもありませんので、当然の規定といえるでしょう。

 

このように、剰余金の分配を行わないことを「非営利性」といい、非営利性が株式会社と比較した場合の最も大きな相違点です。

 

非営利といいますと、金儲けをしてはならないというイメージを受けますが、決してそういう意味ではなく、単に儲けたお金を外部に分配してはならないという意味なのです。

7:残余財産の分配は可能

利益や残余財産を分配することができないのならば、自分が設立した一般社団法人に移転した個人財産、そして法人が稼いだ利益はどうやって自分に吸い上げることができるのか、少々不安になってしまいます。

 

これについては、一般社団法人が利益を稼いだうえで清算する場合、清算法人の社員総会の決議によって、残余財産を社員又は設立者に帰属させることが可能です。つまり、いったん手放した個人財産を清算時に取り戻すことができるのです。

 

この点、公益社団法人では剰余金又は残余財産の分配をしないことが認定基準の1つとなっています。しかし、一般社団法人においては、このような要件が課されておらず、残余財産の分配が可能となっています。

 

したがって、個人オーナーが財産承継目的で一般社団法人を設立して財産を所有させたとしても、最終的には取り戻すことができるため、心配する必要はありません。 

 

[図表3]利益分配はできない
[図表3]利益分配はできない
[図表4]残余財産の分配はできる
[図表4]残余財産の分配はできる

8: 一般社団法人の設立方法

一般社団法人は、株式会社と同じく準則主義に基づき、誰でも手軽に設立することができます。

 

まず、一般社団法人のその社員になろうとする者が定款を作成し、公証人の認証を受けます。普通法人であれば、定款に記載する目的は自由であり、営利事業を目的としても問題ありません。非営利型の法人のように公益目的とする必要はありません。

 

そして、理事や監事(理事だけでも構いません)を選任したうえで、法務局で登記をすれば完了です。株式会社のように金銭の払込みは必要ありません。

9:一般社団法人の機関設計

一般社団法人の設立時には、社員2名(設立後は1名に減らすこともできる)、理事1名ですから、社員が理事を兼ねるとすれば、最低2人の構成員が必要です。

 

社員には、自然人だけでなく法人が就任することも可能です。社員総会は社員全員で構成されますが、当然ながら、事業年度が終了すれば定時社員総会を開催しなければなりません。

 

一方、理事は、社員総会の決議で選任(又は解任)されますが、理事が3名以上の場合、理事会を構成することができます。その場合、代表理事を選任することになります。

 

監事も同様に社員総会の決議で選任(又は解任)されます。おおむね株式会社の監査役と同じような機関と考えてよいでしょう。また、一般社団法人が200億円以上の負債を計上する場合(資本金はありません)、会計監査人を設置しなければなりません。

 

[図表4]一般社団法人の期間設計
[図表5]一般社団法人設立の登記までの流れ
[図表5]一般社団法人の定款のサンプル
[図表6]一般社団法人の定款のサンプル

10: 一般社団法人の解散の手続き

一般社団法人には資本金、出資金がありませんので、出資の払戻しはありません。そこで、債務の弁済を完了して残余財産が生じた場合、基本的に定款の定めに従って分配します。もし定款に、分配に係る定めがなければ、社員総会の決議に従って分配方法を決めることになります。

 

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この点、一般社団法では、定款において残余財産を社員に分配する定めを設けることはできないと規定されています。それゆえ、一般社団法人の残余財産を設立当初から社員に帰属させることを確定しておくことはできません。

 

しかし、定款に残余財産に係る定めがない場合、社員総会の決議で分配を決めることになります。そこで社員への分配を決議することは可能です。

11:一般社団法人の解散時の税務上の取扱い

法人側の税務ですが、一般社団法人は資本金、資本積立金がありませんので、残余財産の分配は全額が利益積立金の取崩しということになります。解散後は、清算中の事業年度において期限切れ欠損金を使うことができる場合があります。

 

一方、残余財産の分配を受ける個人の税務ですが、個人の場合無償による財産の取得となることから、一時所得として所得税が課されます。株式会社のように配当所得とはなりません。一時所得は2分の1課税として計算されますから、配当所得よりも税負担は軽くなるでしょう。法人が分配を受ける場合は、受贈益として益金算入されることとなります。

 

[図表6] 一般社団法人の解散時の税務上の取扱い
[図表7] 一般社団法人の解散時の流れ
[図表7]一般社団法人の解散時の税務上の取扱い②
[図表8]個人の場合は一時所得として所得税が課される

 

 

岸田 康雄

国際公認投資アナリスト/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/公認会計士/税理士/中小企業診断士

 

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