景気先行きの「不確実性」を根拠に利下げを決定
米連邦準備銀行(以下、FRB)は、7月30-31日に開催した公開市場委員会(以下、FOMC)で、フェデラルファンド金利の誘導目標レンジを2.25-2.50%から、2.00-2.25%に0.25%引き下げることを決定した。
声明によると、前回6月のFOMC以降も、米国の労働市場は力強さを維持し、経済活動は緩やかなペースで拡大してきた。しかし、企業の設備投資の伸びは弱く、インフレ率はターゲットである2%を下回るなど、インフレ指標は引き続き低水準であるうえ、景気の先行きに関しては「不確実性」が残っていることを、利下げを判断した理由として挙げた。
パウエル議長は、声明発表後に記者会見し、「今回の利下げは、サイクル半ばでの政策の調整」的なものであるとし、「長期にわたる一連の利下げの始まり」とは考えていないと説明した。しかし、この利下げが「一度きりになるとも断言できない」と付け加えた。FOMC直前の市場は、今回のように0.25%幅なら3回程度の利下げを織り込んだ状況にあったが、パウエル議長の発言と比べると、市場が抱いていた一連の利下げの開始となるものではなく、期待とのギャップがあるといわざるを得ない。
トランプ大統領も、中国や欧州連合(EU)など諸外国と競争していくために大幅な利下げを要求してきたが、パウエル議長の会見後には、市場が「長期にわたる積極的な利下げサイクル」の開始を期待していたものの、その期待が裏切られたことをツイッターで批判。パウエル議長には失望させられたと述べた。
「予防的利下げ」という異例措置に対し市場の反応は?
利下げを受けて、ニューヨーク株式市場は反落した。この動きからも、期待を裏切られた感が透けて見える。ただ、今回の利下げ決定に至る理由付けは、物価の番人かつ雇用の確保を目標とするFRBの立場を踏まえれば、疑問が残る側面もある。雇用市場が引き続き力強く推移し、経済活動は緩やかながら拡大しているなかで、通商問題に端を発した「景気見通しの世界的な不透明感」「落ち着いたインフレ圧力が示唆するダウンサイドのリスク」のみを持って、予防的に利下げ措置をとるというのは異例のことである。
実際に、FOMCでも意見が割れたことが声明で明らかとなった。今回のFOMCでは、ジョージ・カンザスシティー連銀総裁とローゼングレン・ボストン連銀総裁が、金利の据置きを主張し、利下げには反対票を投じたのである。表決がわかれ反対票が投じられたのは、2018年2月にパウエル議長が就任して以降初めてのことだ。
市場では、中期米国債利回りが小幅上昇に転じた。2年債が1.80%割れから1.87%程度まで、5年債も1.80%から1.82%と、今後数回の利下げを織り込むところからやや水準訂正が起こった。今後も、こうした動きがじわりと続くのではないだろうか。
FOMC後のパウエル総裁のコメントや、FOMCでの表決の割れ方などを見るに、FRBがさらなる利下げを実施するとしても、矢継ぎ早に実施するというよりは、慎重に判断をしながら、時間を掛けた実施になるいうことが容易に想像できる。FOMC声明にある「FF金利誘導目標レンジの将来的な道筋を慎重に検討しながら、委員会は経済見通しに関する今後の情報が示唆するものを引き続き注視し、景気拡大や力強い労働市場、対称的な2%目標近くのインフレの維持に向けて適切に行動する」とのくだりは、慎重な判断が求められる状況だということを示すようなものだろう。
なお、今回のFOMCでは、FRBがシステム・オープン・マーケット・アカウント(SOMA)で保有する証券を減らすバランスシートの縮小措置を、従来予定していた9月末より2ヵ月早めて、8月1日で終了することも決定した。量的な緩和措置の巻戻しとしての、バランスシートの縮小措置を止めるということは、金融緩和的な意味合いを持つ。
筆者からすると、トランプ大統領が声高に批判するほど、パウエル総裁率いるFRBはツンデレにも見えないのだが、今後も政治の圧力にさらされることになるのだろう。ややお気の毒なことである。
長谷川 建一
Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO