1:分別管理義務
受託者は委託者から信託財産を預かりますが、その一方で受託者個人の財産を持っているため、個人財産と信託財産をきちんと区別できるようにしておかなければ、信託財産の管理ができなくなります。
そこで、信託法は、受託者に対して分別管理義務を課しています。
2:不動産と株式の管理
受託者が信託登記を行うことができる財産を預かった場合、登記を行わなければなりません。これは所有権移転登記とは別に「信託財産であること」を登記するということです。したがって、不動産の所有権移転と信託の両方を登記しなければなりません。
受託者が株式を預かった場合は、発行会社に対して株主名簿の変更を申請しなければなりません。株主名簿の名義書替えを行うとともに、株式が信託されている旨を記載してもらうことになります。
3:預金や上場有価証券の管理
受託者が金融機関の預金や上場有価証券(証券会社で購入したもの)を預かった場合は、預金口座や証券口座の名義を受託者に変更しなければなりません。「受託者名(信託口)」と表記してほしいところですが、そのような記載を行ってくれる金融機関は限られているようです。
4:受託者の報告義務
受託者は信託に係る法定調書を税務署に提出しなければなりません。また、信託に係る会計帳簿と決算書を作成し、受益者へ報告しなければなりません。実務上、これらは、顧問税理士に委託するケースが一般的です。
5:受託者の暴走を防ぐ「信託監督人」の必要性
受託者となった子供が、認知症になってしまった委託者かつ受益者の父親の財産を預かって管理する場合、万が一、財産が不当に浪費されていたり、不正な支出が行われたりする際に発見が遅れる可能性があります。
そこで、信託監督人という役割を設けて、受託者の行為を監督させ、受託者の権利濫用の防止を図ることができます。受託者が暴走するおそれがあって不安な場合、独立の第三者である信託監督人を選任し、受託者の行為をチェックさせることができます。
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信託監督人は、受益者のために、受託者の行為に関する報告を求めたり、不正な行為があればそれを差し止めたりする権限を持ちます。また、受託者がその任務を怠ることによって受益者が損害を被った場合に、損失補填を求めたり、原状回復を請求したりします。つまり、受益者の利益を図るために、受託者に対する牽制機能を持つということです。
6:信託監督人には顧問税理士が最適
実務上、独立した第三者の立場にある士業(弁護士や税理士)が信託監督人に就任することが多いようです。信託の会計や税務申告を顧問税理士に依頼する場合には、日常的な業務を通じて信託財産を見ている顧問税理士が、信託監督人として最適な士業といえるでしょう。
信託財産の管理・運用について投資専門家のノウハウを活用したい場合、受託者へ指示を行う指図権者を選任することもできます。たとえば、信託財産が多額の金融資産である場合、投資顧問業者を指図権者とすることが考えられます。
7:受託者が死亡した場合その「地位」は相続されない
受託者が個人の場合、受託者が死んでしまったら、その任務を遂行することができなくなってしまいます。しかし、受託者に相続が発生しても、受託者の地位は相続されません。もちろん、信託財産に係る相続税が課されることはありません。
受託者が死亡しても信託契約は終了しませんから、信託契約に従い、新しい受託者を選任しなければなりません。
8:受託者の相続人の義務
受託者が死亡し、受託者の任務が終了したことを受益者に通知するとともに、新しい受託者が選任されるまでの間だけ信託財産を管理しなければなりません。
委託者や受益者は、裁判所に申立てをして、信託財産管理者を選任してもらい、一時的に信託財産を預けます。その後、すみやかに新しい受託者を選任するのです。ただし、受託者が不在になったまま1年間が経過すると信託は終了してしまいます。
9:委託者の死亡
これに対して、委託者が死亡した場合、委託者の地位は相続人に移転します。それゆえ、遺言代用信託のように委託者の地位の移転が必要ない場合には、委託者の地位が相続されずに消滅される旨を信託契約に定めて置く必要があります。
10:受託者が自然人の場合の問題点
受託者が自然人の場合、いつか相続が発生することは避けられませんが、受託者の地位は相続されず、新しい受託者の選任が必要となるため、煩雑です。次の受託者が見つかればいいものの、受託者が見つからない場合、1年間経つと信託契約が強制的に終了させられてしまいます。
また、自然人が受託者の場合、本当に信頼できる人であればいいですが、受託者が負担する様々な義務を1人で履行しなければならないため、財産管理がおろそかになるおそれがあります。また、個人が預かった財産を横領してしまうリスクを排除することはできません。
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そこで、受託者を法人とすることで、相続に伴う受託者の交代の手続きを不要とすることが考えられます。受託者が法人であれば、代表者が交代するだけで、その地位を次の世代に引き継ぐことができます。
その結果、財産を預かる親族は、個人ではなく法人の役員となって信託財産の管理を行うことになります。法人の役員が複数存在するのであれば、一定の牽制機能が働き、適正な財産管理を行うことができるでしょう。
11:法人は一般社団法人とする
受託者を法人とする場合、株式会社とすれば、その株式のオーナーに相続が発生したときに遺産分割の問題が伴い、株式が分散してしまうリスクがあります。受託者の地位を巡って相続争いが生じることは考えづらいですが、リスクの要因として残されてしまうことは確かです。
そこで、株式会社ではなく一般社団法人を使います。財産を直接所有する場合は慎重に検討する必要がありますが、信託の受託者としての機能だけを考えるのであれば、持分のない一般社団法人を設立するのがよいでしょう。
岸田 康雄
国際公認投資アナリスト/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/公認会計士/税理士/中小企業診断士