シービーアールイーが発行する『BZ空間誌』の特集「平成のオフィスマーケットを振り返る」から一部抜粋し、平成30年間のオフィスマーケットの変化を2回に分けて見ていきます。いくつもの転換期を経て、令和時代に突入した日本の不動産マーケット。これから何が起き、どのように対応していけばいいのか、そのヒントを過去のオフィスマーケットの流れから学んでいきましょう。

空前の好景気で、上がり続けた不動産価格

■不動産業界史上最大の好況…バブルと呼ばれた夢のひととき

[平成元年頃]

平成の景気動向とオフィスマーケット/平成元年
平成の景気動向とオフィスマーケット/平成元年

 

1989年に始まった平成という時代は、のちにバブル経済と呼ばれる空前の好景気とともに幕を開けました。各企業がこぞって新卒者を大量採用し、平成元年は前年比15.3%増という大幅な伸び率を記録しました。一方、新規オフィスビルの竣工は続いたものの、供給が需要に追いつかず、どこの企業でも深刻なオフィスの床不足に陥っていたのです。

 

その打開策として、多くの企業は本社周辺に継足しでオフィスを借り、分社・分室化することで対応せざるを得ませんでした。また、大手町や丸の内の本社に加え、高層ビルのあった西新宿に大型オフィスを構え、東京2拠点体制を採る企業も数多くありました。現在とは比べ物にならないほどセキュリティに対する意識が低かったため、ドアを開けると見渡す限りグレーの事務机が並んでいる光景などが、珍しくない時代でした。

 

■ビル事業は、個人オーナーから大手デベロッパー中心のビジネスに

[平成2年~3年頃]

平成の景気動向とオフィスマーケット/平成2~3年
平成の景気動向とオフィスマーケット/平成2~3年

 

当時のビルの特徴は、土地価格が高騰し新規取得が難しかったため、土地を所有する個人が建設するケースが多かったことです。値下がりなど考えられない「土地神話」が信じられていた時代です。フロア40~50坪のビルでも坪当たり3~4万円の賃料が当たり前に取れたため、中小ビルが次々と建っていきました。

 

大型ビルはほとんど満室竣工。空室率も1%を切るひっ迫した状況でしたから、賃料の右肩上がりも当然でした。まだ普通借家契約の頃ですが、なかには賃貸借契約書で「毎年〇%値上げします」と宣言していたオーナーも少なくありませんでした。バブルとはそんな時代だったのです。

 

ただ、こうしたお祭り騒ぎも、平成3年に終焉の時を迎えます。経済活動は急速に落ち込み、新卒採用を控える企業が後を絶ちませんでした。このため、オフィス床の需要は次第に沈静化したものの、まとまった人員整理ができるわけもなく、急激な床面積の縮小には至りませんでした。

 

しかし、先に触れた契約更新時の賃料増額改定などできるはずもなく、逆にまずは減額交渉し、応じてもらえないなら移転も辞さないというテナントが増え、結果的に賃料も入居率も、なだらかに落ちていきました。また、総量規制によって中小規模のビルの着工がどんどん減ったことで、ビルオーナーの主役が、自己資金力に乏しい個人から、銀行からの資金調達がしやすい大手デベロッパーに移ったのも、このころからだったといえるでしょう。

長引く不況のなか、企業に拠点集約の動き

■バブル崩壊後の不透明さのなか、賢い企業は分散拠点の効率化に

[平成4年~8年頃]

平成の景気動向とオフィスマーケット/平成4~8年
平成の景気動向とオフィスマーケット/平成4~8年

 

バブル崩壊以降、テナント企業サイドでは、経済環境の不透明さからオフィス床の借控えが続く一方、バブル期に計画された大型オフィスが平成4年以降も次々に竣工されていきました。そのため空室率が上昇し、借り手市場に移行。都心部の大型新築ビルでさえ、賃料が3~3.5万円/坪あたりで落ち着き、底値感が漂っていました。

 

こうしたなか、従来の分社・分室等で分散したオフィス環境が非効率かつ賃料コストの上昇につながっていることから、オフィス集約に乗り出す動きが出始めました。これにより、オフィス面積を圧縮して賃料コストを抑えるばかりか、業務の効率化を実現する企業が登場。ニューオフィス化やファシリティマネジメント、ホワイトカラーの生産性向上などは、このバブル崩壊後のオフィス再構築のころから語られ始めたフレーズです。

 

また合理化による縮小ばかりではなく、一部の収益力のある企業のなかには、この機をチャンスと捉え、増床に転じる企業もあったほど。ただし、この時期は都心中心部に開発ができるような土地がなかったため、これまでの既存ビジネス街とは異なるエリアに供給が集中していた感があります。「スフィアタワー天王洲」や「恵比寿ガーデンプレイス」などが竣工したのもこの時期です。

 

こうした時を経て、ビル供給面で大きなトピックになったのが、旧国鉄からJRに移行する際に民間へ払い下げられた、品川駅東口貨物ヤードを再開発した「品川インターシティ」の竣工(平成10年)でしょう。これは、都心ではめったに出ることのない広大な土地の再開発計画であり、従来なかったビジネス街が、新たに誕生するということなのです。のちに誕生する汐留も含め、東京のオフィスマーケットに大きなインパクトを与えるセンセーショナルな出来事でした。時を同じくして、市場では新たに「新・近・大」というキーワードが語られるようになっていきました。

 

■大手金融機関までもが次々と破綻…オフィス市場を包むバブルのつけ

[平成9年~11年頃]

平成の景気動向とオフィスマーケット/平成9~11年
平成の景気動向とオフィスマーケット/平成9~11年

 

一方、バブル崩壊以降、下がり続けてきた賃料相場が、平成9年に一時、上昇に転じる局面がありました。これは先に述べたバブル時の分散オフィスの集約移転が本格化するとともに、都心回帰の統合・集約ニーズが喚起されたことが原因でした。

 

しかしこの機運は、同年末頃に発生した深刻な金融危機により、急速にしぼむ結果となります。不良債権処理の長期化により、かつては護送船団方式と呼ばれてきた金融政策が崩壊し、銀行や証券会社、生保が次々に破綻していったのです。これまで高賃料を支えてきたのは金融と外資系企業でしたが、その一角が崩れたのですから、影響は計り知れません。

 

これは、ビルオーナーのトレンドが大きく変わる節目でもありました。生保会社は多くのビルを所有していましたが、それが破綻して軒並み売りに出されたのです。また、銀行からの借入れに頼ってビルを増やしていた老舗の中堅ビルオーナーも、このころ貸剥がしによって破綻していきました。

 

こうしたビルを買い集めたのが、その当時日本に進出し始めた外資系投資ファンドです。金融危機が、彼らを日本の不動産マーケットに呼び寄せるきっかけになったことは間違いありません。このころから、平成12年の米国のITバブル崩壊や、平成13年の9.11同時多発テロで外資系企業の勢いが停滞するまでの数年間、彼らの活発な活動は継続していきました。また、こうした外資系投資ファンドの登場と、海外の合理的な契約形態である定期借家契約の施行がほぼ同時期であることなども、興味深い市場の側面といえるのではないでしょうか。

IT企業の隆盛で、下降トレンドから脱却

■IT企業から始まったオフィス構築の動き…ワーカー1人当たりの面積が大きく拡大

[平成12年~13年頃]

平成の景気動向とオフィスマーケット/平成12~13年
平成の景気動向とオフィスマーケット/平成12~13年

 

平成も中盤、金融危機のダウントレンドを脱する原動力となったのは、まずはIT企業を中心とした動きでした。これらの企業では、デスクトップのPCが1人1台は当たり前ですから、従来のグレーの事務机が島型に並ぶレイアウトから、より大きなサイズのデスクが必要とされました。加えてプリンターや複合機などの周辺機器も導入され、それ以前よりも1人当たりのスペースが広がっていったのです。

 

また、同じように業績が好調だった多くの外資系企業は、元来1人当たりの執務スペースが広く、個室も多くなるので、より大きなオフィスを必要としていました。こうした動きは、IT企業から通信、商社、重厚長大産業、そして金融と徐々に広がっていき、業績好調な企業が、新築ハイグレードビルにこぞって入居したため、空室率は下がり賃料相場も上昇します。フリーアクセスフロアが、必須のオフィス機能として積極的に採用され出したのも、このころに開発されたビル群が始まりです。それまでは、インテリジェントビルといいながらも3WAYフロアダクトが主流であり、PCの本格的な導入には不向きなものでした。

 

ITバブルに端を発する好況下、成長企業の台頭が顕著な一方、様々な業界で構造改革の波が発生し、その波に乗るものと乗り遅れるもの、つまり「勝ち組」と「負け組」の二極化がキーワードになったのがこのころでした。そのため、郊外への集約移転を余儀なくされる企業が、「都落ち移転」などと揶揄されるケースも散見されました。また、この景況感は長くは続かず、先に記した米国ITバブルの崩壊と、あの忌まわしい9.11同時多発テロの勃発からアメリカ系外資企業の勢いが急速に凋落し、低下傾向にあった空室率は一転、上昇することとなります。

 

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