土壌汚染された工場跡地…社長が「賃貸アパート」を建てたワケ

2019年2月、経済産業省が発表した調査によると、今後10年間で、70歳を超える中小企業経営者は約245万人となるという。各企業において、前倒しでの事業承継対策が急務となっているが、それぞれの状況によって、取るべき対策は大きく異なる。本記事では、相続・事業承継案件を多数扱う、税理士法人田尻会計・古沢暢子税理士が、会社の敷地に「土壌汚染」が発覚した場合の事業承継対策の事例を紹介する。

継続的な黒字経営で、高い株価評価が予測されたが…

◆決算書に表れなかった大きな問題点とは

 

A社の社長と初めてお会いしたのは、5年前、自社株評価の依頼を受けてのことでした。とても真面目で穏やかな方で、経営に真摯に向き合い、ご両親から引き継いだ事業をしっかりと守ってきた、という印象を強く受けました。

 

自社株評価にあたり、会社の決算書における財産と債務の状況を見ると、預貯金が多額にあることと、銀行等からの借入金が全くない黒字経営を続けてきたことから、株価は高く算出されるだろうと予測をしました。

 

しかし社長と話をするうちに、決算書には表れない大きな問題があることがわかってきたのです。A社は都内で製造業を営む会社であり、製品加工をする過程で重金属類の有害物質を使用していました。そのため、工場の敷地にはこれらの有害物質が流れ出ていることが推測され、その除染対策費としてA社は預貯金を多く準備していたのでした。

 

また、敷地の除染をするためには、まず工場を取り壊して調査をしなければならないこと(結果として会社を休業または廃業をすること)や、準備資金が実際に除染費用として足りるかどうか、現在雇用している従業員の処遇など、解決しなければならない問題が山積みになっている状態でした。

2年以内の廃業を決意し、汚染土の除去を実行

◆製造業の廃業と事業承継対策

 

何度か会社を訪問して、ご家族の皆様とも一緒に検討を続けた結果、2年以内を目処に事業を廃止し、土地を除染して売却または有効活用するという結論に達しました。先代から引き継いだ工場を取り壊して、その事業を廃止するということは、どれほど大きな決断だっただろうかと拝察します。ただ、社長には「有害物質を拡散させて、近隣の方に迷惑をかけたくない」「家族に財産や事業を承継させる際に、汚染の心配をさせたくない」という強い思いがあったので、その後は目標に向かって一つ一つの問題点を解決していきました。

 

本事例では、国の土壌汚染対策法と東京都の条例により、有害物質使用事業所の廃止に伴う調査が義務づけられました。土壌汚染対策に詳しい専門家に依頼をして、状況調査等を行ってもらったところ、重金属物質による土壌汚染に加え、地下水にも汚染が確認されました。しかし、周囲に井戸水がないなど、健康被害に影響を与える可能性が低いことから、大がかりな土壌改良や汚染拡散防止の処置は講ずる義務がないことがわかりました。

 

当初社長は、土地の売却でも、有効利用でも、土壌を完全に浄化することを目指していました。しかし周辺道路が狭く、大型重機の搬入が困難であったことや、廃業のための費用(特に従業員への退職金の支払い)の発生なども考慮した結果、汚染が近隣に拡散しないことを大前提として、予算の範囲内で汚染が特に甚大な部分についてのみ汚染土を除去することにしました。そして新しく会社を設立し、除染後の土地に自社で賃貸用建物を建設して、ご家族に事業承継をするという道を選びました。

 

◆専門家との連携の重要性

 

A社は事業を廃止したあと、約1年かけて除染作業を行い、現在ではその土地の上に立派なアパートが建設され入居者も決まりました。長く社長を悩ませていた土壌汚染の問題は、土壌の完全浄化には至らなかったものの、やっと一区切りついたようで、ご家族も安心されたご様子でした。

 

本事例では、A社の財務内容の把握や、事業の廃止など全体のスケジュールについては、当事務所が担当をしましたが、除染対策や賃貸建物建設では専門家の方々との連携が大変重要だったと思われます。特に除染対策に関しては、社長の思いである「完全浄化」と、現実にでき得る対策やそれに掛かる費用などに相違があり、何度も話し合いを続けてきました。社長の思いを汲みつつ、事業承継するご家族の意見や近隣への影響等を総合的に勘案して、最善の方策を採ることができたと考えています。

 

汚染対策費等については、完全浄化にかかる費用は1.5億円、工期に6ヵ月かかると見積もられたものが、今回の除染方法を選択することで工期も短くなり、かつ費用も半分程度におさめることができました。会社清算にあたり、従業員への退職金はもちろんのこと、先代経営者と社長自身への退職金も、残された預貯金から支給することができました。

 

その後社長は、賃貸アパートの入居者募集などの仕事がひと段落すると、すぐに別の企業に勤めはじめました。少しゆっくりされてもいいのにと思いましたが、働き者の社長らしい生き方だと感じています。

 

新設の不動産所有会社は秋に決算月を迎えます。社長とご家族の皆様にお時間をいただいて、不動産賃貸事業の状況や収支の内容についてあらためてご説明するとともに、事業承継や相続対策について、今後も一緒に考えていきたいと思っています。

 

 

古沢 暢子
税理士法人田尻会計 税理士
 

税理士法人田尻会計 税理士

平成28年3月税理士登録 日本FP協会AFP 登録政治資金監査人

横浜国立大学教育学部卒業。一般企業の経理部を経て、平成15年税理士法人田尻会計入社。
法人及び個人のお客様の監査・決算業務とともに、現在は相続・事業承継業務を多く担当する。
毎月お客様を訪問し丁寧に話を聞くことで、適切なアドバイスができるよう心掛けている。

著者紹介

連載相続専門税理士が事例で解説!「相続・事業承継」の進め方

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