息子が海外に…相続人に「海外在住者」がいる際の手続きとは?

国際化が進み、海外に在住する日本人は増加の一途をたどる。外務省の統計によると、海外在留邦人は135万人を超え、統計開始以来最多を記録した。そのため、相続時に相続人のなかに海外在住者がいる場合も珍しくないが、やはり一般的なケースと比べると手続きは複雑となる。本記事では、相続案件を多数扱う、税理士法人田尻会計・古沢暢子税理士が、相続人に「海外在住者」がいる場合の手続きを解説する。

「国内に居住する相続人」とは異なる手続き

平成28年、ご主人を亡くされた奥様から相続案件の相談を受けました。相続財産は基礎控除額を超えており、相続人に相続税の納税義務が発生しますが、奥様のほかに相続人となるご子息が、10年程前から海外に在住していたのです。相続人のなかに海外在住者がいる場合、どのような手続きを取るべきなのでしょうか。

 

平成25年度税制改正により、亡くなった本人(被相続人)が死亡時において国内に住所を有している場合には、相続人等の住所や国籍に関係なく、すべての財産に対して相続税が課税されることとなっています。しかし、海外在住の相続人については、国内に居住する相続人とは異なる手続きや規定が存在します。

 

また、1億円以上の有価証券等を有している国内居住者が亡くなり、その財産を海外在住である相続人が取得した場合には、被相続人の譲渡所得税が課税される「国外転出(相続)時課税」という制度が平成27年7月より適用されることとなりました。

 

今回は、具体的事例を交えながら、これら2つの内容を見ていきます。

 

◆海外在住の相続人特有の手続き(海外在住先で取得する書類と納税管理人の選任)

 

遺産分割、相続登記、相続税の申告など、相続が発生した場合には多くの手続きがあり、その都度必要な書類があります。日本在住の相続人では、戸籍謄本、住民票、印鑑証明、マイナンバーなどの書類が必要となります(平成29年5月29日から「法定相続情報一覧図」という相続関係を示す公的証明書の発行が可能になり、登記申告のほか、最近では銀行でも戸籍の代わりに使用できるようになっています)。

 

海外在住の場合でも、戸籍謄本は日本で取得できますが、以下の書類については、これらに代わる書類を現地の大使館等で用意する必要があります。

 

① 在留証明書(住民票・戸籍の附票の代わりとなる書類)

② サイン証明書(印鑑証明の代わりとなる書類)

 

上記のほか、海外在住の相続人は日本国内で納税等ができないため、本人に代わって納税等を行う納税管理人を選任するため、納税管理人の届出書を税務署に提出します。

 

今回の事例では、相続財産が基礎控除額を超え、相続税の申告が必要であることがわかった時点で、ご子息に在留証明書やサイン証明書の取得を依頼しました。遺産分割においても、あらかじめ財産評価額や分割内容についてメール等で連絡を取り合い、一時帰国のタイミングで遺産分割協議書等の書類にサインができるようにしておくなど、スケジュール管理がとても重要です。納税管理人には日本居住の奥様(ご子息にとってのお母様)を選任し、その後の手続きをスムーズに行うことができました。

国外転出時に注意すべき「課税制度」とは?

◆国外転出(相続)時課税

 

海外在住の相続人がいる場合、上記手続きのほかに、相続財産について注意すべき点があります。

 

平成27年度税制改正により、「国外転出時課税制度」が創設されました。本制度は、1億円以上の有価証券等を所有する者が国外転出をする際、有価証券等を譲渡したものとみなし、その含み益に対して所得税を課税するというものです。また、その所有者が亡くなり、有価証券等が海外在住者に相続等で移転した場合も同様に扱われ、課税所得がある場合には被相続人の準確定申告を行わなくてはなりません。

 

今回の事例にあてはめると、亡くなったご主人は国内に居住しており、この制度の対象となる有価証券等を1億円以上所有していました。遺産分割協議により、これらの有価証券等を海外在住のご子息が相続することとなった場合には、有価証券等はご主人が亡くなった際に譲渡したものとみなされ、含み益に対して所得税が課税されることとなります。実際には、国内に居住する奥様がこの有価証券を取得したため、国外転出(相続)時課税の適用はありませんでした。

 

◆海外在住の相続人がいる場合の相続手続き、遺産分割協議の進め方

 

上記のように、海外在住の相続人がいる場合には、遺産分割や相続税申告に際して特別な書類の取得が必要です。また遺産分割の内容によっては、被相続人に譲渡所得税が課され、準確定申告が必要となることもあります(準確定申告の提出期限は、相続開始後4ヵ月以内です)。したがって、通常の相続案件よりも、さらに前倒しのスケジュール感を意識して作業を進めていくことが重要となります。

 

今回の事例では、亡くなったご主人の確定申告を筆者の事務所が担当しており、「財産債務調書」を提出していたため、相続財産の把握と評価をより早く行うことができました。その資料をもとに、国外転出(相続)時課税の制度内容についても説明をし、遺産分割協議を行っていただきました。そして奥様とご子息の希望どおり、相続発生から3ヵ月後の10月に遺産分割協議が終了し、12月末に一時帰国されたご子息が相続税の申告書への押印を済ませ、申告が完了しました。

 

平成27年1月より相続税の基礎控除額が引き下げられたことにより、相続税申告が必要となる人の割合が増えています。相続税の申告期限は相続開始から10ヵ月です。可能であれば、機会を見つけて相続財産の整理と概算評価額の把握を行い、特別な手続きやそれに伴う税制があるかどうかの判断が必要かもしれません。

 

 

古沢 暢子

税理士法人田尻会計 税理士

 

税理士法人田尻会計 税理士

平成28年3月税理士登録 日本FP協会AFP 登録政治資金監査人

横浜国立大学教育学部卒業。一般企業の経理部を経て、平成15年税理士法人田尻会計入社。
法人及び個人のお客様の監査・決算業務とともに、現在は相続・事業承継業務を多く担当する。
毎月お客様を訪問し丁寧に話を聞くことで、適切なアドバイスができるよう心掛けている。

著者紹介

連載相続専門税理士が事例で解説!「相続・事業承継」の進め方

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