父の遺言「2/3の財産を妹に」納得いかない姉がとった行動は?

誰でも一度は経験するであろう相続。しかし、「争続」の言葉が表すように、相続に関連したトラブルは尽きない。なかには、生前の対策によっては避けられたであろうトラブルも多く、相続を見越した行動が求められる。本記事では、相続・事業承継案件を多数扱う、税理士法人田尻会計・古沢暢子税理士が、争続トラブルの事例とその対策を解説する。

生前に「公正証書遺言」を作成していたA先生だが…

◆「平等」を心がけていたA先生が作成した遺言の内容は?


顧問先の内科医A先生が癌を患い、2年間の闘病生活のあとに帰らぬ人となりました。先生は大変苦労をされて医師の資格を取得し、70歳を過ぎても毎日のように診療を続ける、「勤勉」「真面目」を絵にかいたような方でした。

 

A先生には妻と2人姉妹の子供がいました。家庭では「平等」ということを常に心がけており、色々な場面で姉妹に同じ物や環境を与えてきました。姉妹はどちらも私立の高校・大学へと進学して立派な社会人となり、新しい家庭を築いて独立していきました。

 

A先生から、公正証書遺言を作成したいとの相談を受けたのは、先生が亡くなる1年程前のことでした。当事務所は財産の整理や評価を行い、必要書類を作成するとともに、その遺言の執行者に選任されました。

 

亡くなる1年程前に作成した公正証書遺言だったが…
亡くなる1年程前に公正証書遺言を作成していたが…

 

A先生の葬儀と四十九日の法要を終え、ご家族の気持ちも少しずつ落ち着いてきた頃、当事務所はA先生の妻に連絡をとり、ご家族が揃ったところで遺産分割に関する話をしたい旨を伝えました。

 

A先生の妻は遺言があることを知っていましたが、その内容までは把握しておらず、ご家族3人ともに、この時点ではじめてA先生の最後の意思を知ることとなりました。

 

財産のうち、自宅と診療所の土地・建物は妻に、現預金等その他の財産については2/3を次女に、1/3を長女に相続させるというのが遺言の内容でした。このほかに、妻を受取人とする生命保険にも加入していました。

 

遺言の内容の背景には、妻が引き続き現在の家に住めるようにしたい、姉妹の相続分に関しては親の扶養・介護の貢献度を考慮して、次女により多くの財産を相続させたい、また、長女は医師として仕事をしており収入も安定しているので、次女よりも相続分が少なくても生活に困ることはないだろう、という考えがありました。

家庭裁判所に申し立て、遺産分割の調停手続きを利用

◆遺言の内容にどうしても納得できない長女

 

A先生は、自身の死後も、3人が同程度の生活水準を保って生きていけることが「平等」と考えました。しかし、それを長女は受け入れることができません。長女も父のことをいつも気にかけていたし、入院する病院や施設のことにも助言をしましたが、仕事や家庭の事情などもあり、結果的に介護をする時間をとれなかったというのです。

 

その後、長女は「生前に特定の相続人に金銭の贈与が行われていたので、それを考慮して遺産分割をするべきだ」「遺言書に記載されていない財産があるはずだ」「遺言の内容に納得できない」と強く主張し、ご家族だけでは解決に至らなかったため、家庭裁判所に申し立てを行い、遺産分割の調停の手続きを利用することになりました。

 

この状況を避けるためには、どのように遺言を作成すべきだったのでしょうか。

 

相続人の生活状況や、生前の介護への貢献度を考慮した遺言は、たとえ法定相続分による按分でなくても公平ではないかと個人的には思います。ただ、その結論に至った経緯を、生前に自身の言葉でご家族に伝えていれば、もう少し違った結果になっていたかもしれません。相続が起こった今となっては、A先生と長女は永遠にお互いの思いを理解することはできないのです。

 

◆相続税申告書の提出期限は相続開始から10ヵ月

 

相続税の申告期限は、相続開始の日から10ヵ月と決まっており、申告期限までに申告をしないと受けられない税額軽減の特例もあります。よく使われるものは、①配偶者の税額軽減の特例(配偶者の相続分が法定相続分と1億6千万のいずれか高いほうの金額までは相続税がかからない規定)と、②小規模宅地等の評価減の特例(居住用の特例の場合、配偶者や同居相続人等が自宅の土地を取得した場合は、一定の要件のもとに330㎡まではその価額の80%を減額するという規定)です。

 

当事例では、遺産分割調停の申し立て後、分割協議が整うまで2年を要しました。しかし、法定相続に優先する効力をもつ「遺言」があったことで、その遺言の内容に沿った相続税の申告書を申告期限の10ヵ月以内に提出し、税額軽減の特例も受けることができました。

 

(注)調停の申し立てなどやむを得ない事情がある場合には、申告期限内に分割をできないことについて、「申告期限後3年以内の分割見込書」を申告期限までに提出することにより、特例の適用期限を延長することも可能です。しかしこの場合も、申告期限までに法定相続分により財産を分割したものとして、一旦申告と納税をする必要があります。

 

A先生が自身の最後の意思を伝えるために作成した遺言書が、結果的に相続の争いを引き起こすきっかけとなってしまいましたが、この遺言書があったおかげで相続税の期限内申告をすることができ、税額軽減の特例を受けることができたのも事実です。

 

遺言は画一的に定められた「法定相続分」によらず、家庭の実情にあった相続財産の分配を行えるという意味で意義があることだと考えます。


家族への感謝や遺言の内容に関する経緯を付言事項として遺言の文末に記載したり、生前に遺言の内容を説明することで、残された家族の理解も深まるのではないでしょうか。 

 

自分が死んだら・・・という話はしにくいものですが、ご家族が集まる夏休みやお正月などの機会を利用すれば、より自然なかたちで相続や遺言の話をできるかもしれません。

 

 

古沢 暢子
税理士法人田尻会計 税理士

 

税理士法人田尻会計 税理士

平成28年3月税理士登録 日本FP協会AFP 登録政治資金監査人

横浜国立大学教育学部卒業。一般企業の経理部を経て、平成15年税理士法人田尻会計入社。
法人及び個人のお客様の監査・決算業務とともに、現在は相続・事業承継業務を多く担当する。
毎月お客様を訪問し丁寧に話を聞くことで、適切なアドバイスができるよう心掛けている。

著者紹介

連載相続専門税理士が事例で解説!「相続・事業承継」の進め方

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