相続税対策の手段のひとつに「生前贈与」があります。しかし、生前贈与の仕組みをしっかり理解していないと、「税務調査」の対象になってしまうことも。そこで本連載では、円満相続税理士法人の橘慶太税理士が、専門語ばかりで難解な相続を、図表や動画を用いてわかりやすく解説していきます。本記事は、生前贈与にまつわる基礎知識について見ていきます。

贈与税は「年間110万円」まで非課税

本記事では、贈与税のことを広く浅く解説していきますので、全体像をつかんでください。まず、よく耳にする「贈与税は年間110万まで非課税」ということについて。贈与税は1年間あたり110万円まで非課税とされています。110円万を超える生前贈与をうけた場合には、その超えた部分に贈与税がかかって、そして税務署に対して申告をしなければいけません。

 

たとえば、平成29年中に110万円を超える財産をもらった人がいたとすれば、その次の年である平成30年の2月1日から3月15日の間に、贈与税の申告をして、贈与税を支払うことになります。この2月1日~3月15日という期間ですが、何か見覚えのある期間かなと思うのですが、いかがでしょう?

 

そうなんです。所得税の確定申告と同じ時期に行うのです(厳密にいうと所得税の確定申告は2月16日から3月15日の間ですが)。しかし、ここで注意しなければいけないのは、所得税の確定申告と贈与税の申告は、まったくの別物であるということです。人によっては、2つ申告が必要になる場合もあるので、混同しないように注意してください。

 

また、これもよく混同されてしまうのですが、贈与税の申告をするのは、財産をもらった人です。あげた人ではありません。両親から子どもに対して贈与をしたのであれば、贈与税の申告をするのは子どもということになります。なお、生前贈与は産まれて間もない赤ちゃんにもできますが、そのような場合には親権者が代わりに申告書を提出して問題ありません。

 

[図表1]贈与税申告のタイミング
[図表1]贈与税申告のタイミング

 

ちなみに、生前贈与でもらったお金が、社会保険料、住民税、医療費の負担にどのような影響を与えるか、ご存知ですか? 正解は……

 

影響はありません。生前贈与で1億円もらったとしても、社会保険料や住民税、医療費の負担に影響は一切ありませんので、安心してください。また生前贈与でお金をもらっても、自身の勤め先にそのことを知られることもありません。副業などをすると、住民税の関係で勤め先に副業がばれることはよくありますが、生前贈与と住民税は無関係なので、その点も安心してください。

 

さて、突然クイズです。「この場合、贈与税の申告は必要になるでしょうか?」。筆者が開催するセミナーでいつも出題する、ちょっとしたクイズです。正答率はいつも50%になるため、大変盛り上がります。

 

ある年、お父さんが子どもに対して110万円の生前贈与を行いました。同じ年、この子どもはお母さんからも110万円の生前贈与を受けていました。この場合、この子どもに贈与税の申告は必要でしょうか?

 

[図表2]両親から110万円ずつもらったら、贈与税はかかる?
[図表2]両親から110万円ずつもらったら、贈与税はかかる?

 

いかがでしょう? 先ほど、筆者は「贈与は年間110万まで非課税ですよ」と伝えました。今回のケース、贈与税の申告は必要になります。申告しなければいけません。先ほど筆者は年間110万円までは非課税と伝えしました。この110万円の考え方は、もらった金額です。あげた金額ではないのです。この子どもさんがいくらをもらっていたか、もう一度見てみましょう。

 

父から110万円、母から110万円もらっていますので、合計220万円をもらっていることになります。つまり、110万円を超えてしまっているのです。そのため贈与税の申告が必要になってしまうのです。

 

では、続けてクイズをだしていきます。このケースでは、贈与税の申告は必要になるでしょうか?

[図業3]父親が長女に110万円、長男に110万円贈与したら?
[図業3]父親が長女に110万円、長男に110万円贈与したら?

 

いかがでしょうか? もらった金額が110万円以内であれば、贈与税はかかりませんので、正解は……もらった金額がそれぞれ110万円以下になるため、贈与税はかかりません。このお父さんからすれば220万円を贈与していますが、贈与税は1円もかからないのです。それでは、応用編として次の場合には贈与税がかかるか考えてみましょう。

 

子どもだけではなく、子どもの妻や婿にも110万の贈与をしたとします。この場合も贈与税はかからないのでしょうか?

 

[図表4]親が子どもの配偶者にも贈与したら?
[図表4]親が子どもの配偶者にも贈与したら?

 

正解は、やはり、それぞれ110万円以内になるため贈与税は非課税になります。ここでよく質問されるのが、「血のつながりのない人にも生前贈与はできるのですか?」という質問です。答えは「YES」です。生前贈与は血のつながりのない人にもできます。子どもの配偶者に対しても、もちろんOKです。

 

配偶者まで含めて贈与をすれば、1年間に440万円を贈与しても非課税になるというわけです。それでは最後に、次のケースは贈与税がかかるでしょうか?

 

子ども2人、子どもの配偶者2人、孫4人の合計8人に110万円贈与しています。合計で880万円です。この場合、贈与税はどうなるでしょうか?

 

[図表5]子どもにも、その配偶者にも、孫にも贈与したら?
[図表5]子どもにも、その配偶者にも、孫にも贈与したら?

 

正解は、贈与税は一切かからないのです。なぜなら、それぞれ110万円以内になるからです。あげている金額は880万円ですが、もらう人が8人いれば、すべて非課税になるのです。当たり前のことのように見えるかもしれませんが、これってすごいことだと思いませんか? 今年の12月までに一度、880万円贈与して、来年1月に、もう一度880万円贈与すれば、合計で1760万円を無税で贈与することができるのです。

 

このように、財産を贈与できる人がたくさんいる場合には、できるだけ多くの人に贈与してあげると、税金の負担を抑えることが可能です。しかし、将来の相続税を少なくする目的だけで、亡くなってしまう直前に駆け込みで生前贈与をしようとする人がいます。そういった節税目的だけの駆け込み贈与ではなく、もっと早い時期から生前贈与をする人を増やすために、贈与税には、3年内加算のルールというルールがあるのです。

 

このルールは一言でいうと、亡くなる前3年以内に行われた生前贈与はなかったことにする、というものです。亡くなる前3年以内に行われた生前贈与はなかったことにされ、相続税の対象に戻されてしまうのです。この3年内加算のルールは、原則として孫に対する贈与には適用されません。

生前贈与は、税務調査官に睨まれる!?

贈与税の税率は2種類あります。

 

1つは、20歳以上の子どもか孫か曾孫に対して生前贈与する場合の税率

2つは、上記以外の人に対して生前贈与する場合の税率

 

どちらの贈与税が安いかというと、1つ目のほうです。20歳以上の子ども、孫、曾孫に対する贈与税率は優遇されています。しかし、410万円までの生前贈与であれば、1つ目も2つ目も同じ金額になりますので、410万円以下の生前贈与を検討している人は気にしなくてOKです。ちなみに贈与税額の一覧は次のとおりです。

 

[図表6]20歳以上の子どもか孫に贈与した場合の贈与税額
[図表6]20歳以上の子どもか孫に贈与した場合の贈与税額
[図表7]図表6のケース以外の贈与税額
[図表7]図表6のケース以外の贈与税額

 

ちなみに、相続税と贈与税はどちらが安いでしょう? 相続税も贈与税も、どちらも財産を渡すときに係る税金です。どうせ税金を払わなくちゃいけないなら、安いほうの税金を払いたいですよね? 正解は、贈与税のほうが圧倒的に安いんです。

 

また生前贈与には、相続税を少なくする効果がありますが、正しい方法で贈与を行わないと、将来とんでもないトラブルに巻き込まれることがあります。それが、相続税の税務調査です。

 

相続税の税務調査は、相続税申告の何件に1件の割合で行われているかご存知ですか? 正解は、なんと4件に1件です! しかも一度税務調査に選ばれると、82%の確率で追徴課税になっています。そんな恐ろしい税務調査ですが、何が問題になるかというと、その多くは過去の生前贈与についてなのです。生前贈与が正しい方法で行われていない場合には、相続が発生したあとに問題が表面化します。

 

恐い思いをするのは、残された家族です。生前贈与を検討される人は、まずは専門家に相談をしましょう。

贈与税にまつわる特例は、お得になるとは限らない⁉

贈与税には様々な特例があります。これらをうまく組み合わせれば、非常に大きな節税になります。代表的な4つを簡単に見ていきます。

 

まずは、住宅取得等資金の贈与税の非課税制度。この制度は「子どもや孫が家を買うための資金援助であれば、一定額まで贈与税を非課税にしますよ」という制度です。基本的にはデメリットもなく、使い勝手のよい制度ですので積極的に使うことをおすすめします。

 

次に、教育資金の一括贈与の非課税制度。この制度は「30歳未満の子どもや孫の教育資金として使うのであれば、最大で1500万円まで贈与税を非課税にしますよ」という制度です。まだ小さい孫がいる家族にとっては、とても使い勝手のよい制度ですのでおすすめです。

 

ただ教育資金の贈与は、この制度を使わなくても、もとから非課税とされています。昔ながらに存在する非課税制度と1500万円まで非課税となる特例制度を組み合わせれば、最大1500万以上を非課税とすることも可能です。教育資金の贈与は、特例を使わなくても、昔から非課税です。ややこしい特例を使うよりも、そのまま渡してあげたほうがよいこともあります。

 

さらに結婚してから20年たった夫婦の間でだけ使える贈与税の特例があります。2000万円まで贈与しても贈与税が無税になるという、非常に太っ腹な特例に見えますが、実は、この制度は使っても、得するどころか損します。あまりおすすめできない制度です。

 

そして最後に紹介するのが、相続時精算課税制度。この制度は「生前贈与をする時は2500万円まで贈与税を非課税にしますが、その人が亡くなった時には、手元に残っている遺産だけでなく、非課税で贈与した財産にも相続税を課税しますよ」という制度です。これまた太っ腹な制度に見えるのですが、この制度も全然お得にならない制度です。

 

このように、生前贈与は処方薬と同じようなもので、確かに将来の相続税を減らす効果がありますが、副作用もあります。きちんとメリットとデメリットを知ったうえで使うようにしましょう。

 

また相続税の対策をしたい人は、生前贈与は、ほかの対策をすべて終えたあとに、最後に検討してください。そうしないと、いざ本当に相続が発生したときに、思わぬトラブルに巻き込まれてしまうかもしれません。

 

 

円満相続税理士法人

橘慶太

 

 

 

【動画/筆者が「贈与税の基礎知識」を分かりやすく解説】

 

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