2008年9月に起こったリーマンショックによる金融危機。影響は甚大であり、日本の「完全失業率」は急激に上昇しました。中小企業庁の報告によれば、2009年7月、その数値は過去最悪の5.6%を記録しています。多くの中小企業が倒産に見舞われた未曾有の事態に、当時の政府はどのような施策を講じていたのでしょうか。中小企業の経営助言・支援・指導に積極的に取り組む石原豊氏が解説します。

限られた経営資源で苦境を強いられる中小企業

いつの時代も、中小企業が安定経営を続けるのは至難の業である。潤沢な経営資源をもとに経営の舵を取る大企業とは異なり、中小企業はヒト、モノ、カネが常に不十分で、綱渡りの企業運営を余儀なくされているからだ。

 

なかでも過小資本の問題は大きく、新規事業に打って出るにせよ売上拡大を目指すにせよ、攻めの経営をしようとする際には常にカネ不足がつきまとう。また、経済状況が一変したり取引先が倒産したりといった予想外の事態に陥れば、たちまち資金繰りに窮して経営難に陥ってしまう。

 

一方で、経済が好況に転じた際にその恩恵を真っ先に享受できるのは大企業であり、中小企業は大手が利益を吸い取ったおこぼれにあずかる程度。産業構造の下層に位置するがゆえの悲哀である。

 

中小企業が黒字経営を維持することがどれほど難しいことかは、国税庁の調査結果を見ても明らかだ。2014年度に税務申告をした法人企業のうち、実に66.4%が赤字申告となっている。これは申告された数字をもとにしているため、企業の経営実態が赤字か否かはまた別問題だが、少なくとも「日本企業の7割程度が赤字申告」というのは紛れもない事実である。そして、日本の企業数の99.08%が中小企業なのだから、つまるところ中小企業の7割が赤字状態なのだ。

国を挙げた中小企業支援は「オーダーメイド」の時代へ

もちろん、国もそんな中小企業の状況を見過ごしてきたわけではない。従来、様々な中小企業振興策を打ち出し、あの手この手で援助をしてきた。なかでも、その動きを本格化させたリーマンショック以降に注目し、どのような法律を打ち出し、施策を講じてきたのかを整理してみたい。

 

2008年のリーマンショックによる世界的な経済不況は、日本の多くの中小企業を軒並み経営危機に追いやった。売上が前年対比3分1以下に落ち込む企業も珍しくなかったほどだ。これにより、過小資本の中小企業が相次いで借金を返せなくなるという事態に発展し、一説では、当時資金繰りに窮した中小企業は数十万社にも上ったという。

 

中小企業の業績悪化で苦悩したのは、地元の中小企業と一蓮托生の運命にある地方銀行も同様である。返済の目処が立たないからと、経営が苦しくなった中小企業に対して「全額返済」を迫ればどうなるか――。地元から厳しい目を向けられる上、財務の悪化を意味する貸倒引当金を積まざるを得ない。引当金の累積額によっては、銀行自体が倒産の憂き目に遭うリスクもある。

 

結果、地域の金融機関は経済危機という状況を最大限に考慮して、リスケ(リスケジュール:返済猶予)を願い出てきた中小企業に対して情状酌量の措置を講じた。つまり、返済条件が規定されている「銀行取引約定書」の約束を棚上げし、借金の返済額を一時的に減額したり、元本返済を猶予したりする応急措置を取ったのである。

 

ボクシングでいうクリンチ状態だ。疲弊した中小企業は銀行に寄りかかることで何とか立つことができ、銀行もそれを暗黙の了解で許している。両者は運命共同体なので、そうやってお互いにもたれ合っていなければ、共倒れする可能性があったからである。

「中小企業金融円滑化法」の施行

中小企業と地域金融の慣れ合いが蔓延している状況に、亀井静香金融担当相(当時)は、救済措置として「中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律(中小企業金融円滑化法、以下、金融円滑化法)」を発布した。これは、中小企業がリスケの依頼をした場合できる限り柔軟に応じるよう、つまり「余程のことがない限り断らない」ように金融機関へ努力義務を課したのである。これは約定書の棚上げを法的に認めるという、日本の有史以来の特例といっていいだろう。

 

同法は2009年12月4日に施行され、金融庁の発表によると2013年3月末までの累計申込件数は437万22件、そのうち認可件数は407万3625件と、実に認可率93.2%を記録している。中小企業の条件変更の申し出に対して、金融機関はほぼ例外なく了承したわけである。

 

通常、金融機関は条件変更に応じると一定の引当金を積まなくてはならない。しかし、特例措置のもとでは、金融機関側にリスケした債権は不良債権化しなくてもいいというインセンティブが与えられたため、金融機関は自らの財務を痛めることなく、ほぼ無条件でリスケに応じることができたのだ。

 

ところが、リスケがあまりにも簡単に認められたことから、多くの中小企業経営者は経営改革の努力を怠り、むしろその状況に甘えてしまった。「借金が返せなくても国と銀行が守ってくれる」――と。結果、中小企業の再建は遅々として進まず、経済も底冷えの時代が続くこととなった。

「中小企業経営力強化支援法」の施行

そこで国は、次の施策を打ち出す。金融円滑化法が終了する前年の2012年8月30日、「中小企業経営力強化支援法」を施行。この法律は、企業支援を行う「経営革新等支援機関」(以下、認定支援機関)を国が認定することで、中小企業の経営力を側面から支援し、強化していこうというものであった。

 

認定支援機関とは、財務や税務など経営に関する専門知識と実務経験が一定レベル以上の専門家のことで、具体的には、商工会や商工会議所など中小企業支援者の他、金融機関、税理士、公認会計士、中小企業診断士などを指す。現在は、全国で2万5000程度の支援機関が認定されており、筆者が会長を務める会計事務所もその一つである。

 

こうして外部の力を借りることで、自社だけでは現実的な経営改善が困難な中小企業に向けて、計画の策定から経営再建までの道のりを歩める仕組みを整えたのである。

金融機関にもコンサルティング機能の強化を求める

また国は、金融円滑化法終了後の中小企業の資金繰り悪化を防ぐ目的で、二つの方針を打ち出した。「金融機関によるコンサルティング機能の一層強化」と「企業再生支援機構、中小企業再生支援協議会との連携の強化」である。

 

企業再生支援機構とは、過大な債務を抱える企業の経営再建支援のために設立された官民ファンドを指す。対象は主に大企業で、日本航空の再建を主導したのもこの官民ファンドであった。

 

もう一つの中小企業再生支援協議会(以下、再生支援協議会)とは、中小企業の事業再生を支援するために各都道府県に設置された公的な組織で、政府から委託を受けた商工会議所などが実務を担った。企業再生支援機構の中小企業版ともいえる組織で、専門家と協働して経営改善計画書の作成支援などを行うのが特徴となっている。

「会計」の活用を通じた経営力の向上を図る

さらに国は、中小企業が生き残るポイントとして「財務経営力」の強化も打ち出している。財務経営力とは、「中小企業の経営者自らが〝数字(会計)〞に精通し、数字をもとにした経営で会社を強くする」ことをいう。

 

そのための指南役として外部の専門家を経営者の傍らに置き、中小企業の経営を抜本的に改革しよう、というのが現在の中小企業政策の本流といえるだろう。

イージーオーダーからオーダーメイドへ

金融円滑化法が施行されていた間、中小企業は金融機関に支援を申し出るだけでリスケが認められた。まるで既成服を買うような手軽さであり、まさに「イージーオーダー」の経営支援だったといっていい。

 

一方、金融円滑化法が終了した現在、中小企業が金融機関に支援を申し入れて事業再生を試みるためには、〝実効性の高い〞経営改善計画を策定する必要がある。融資を通すためだけの体のいい計画ではない。財務リストラや事業リストラも辞さない覚悟で策定した、本気で会社を再生させるための経営改善計画である。

 

企業の業績悪化の要因はそれぞれ異なるため、まさに「オーダーメイド」の経営支援が求められている。そのため、支援機関は各社の実態に合わせた支援計画策定のために経営状況の分析を徹底して行い、机上の空論ではない現場目線でのプランを練っていく。そして、その計画を経営者に提示し、痛みも辞さない覚悟で経営再建に向かう意思があるかどうかを確認するのだ。

 

しかし、経営改善計画がいくら優れていたとしても、その改革を実行に移すのは経営者本人である。結局のところ、中小企業においては、トップである経営者の熱意と覚悟が事業再生の成否を決めるといっても過言ではないのだ。

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