老後に備えてお金を貯めたいけど、今から貯蓄する分だけでは到底暮らしていけそうにない、そもそも貯める余裕すらない・・・行政の思い描く日本社会と、実際の国民の生活は、大きくかい離しています。このような状況のなか、長期的な資産形成の方法として「株式投資」に期待が高まっています。本記事では、金融業界で活躍する藤村哲也氏が、株式投資の基礎知識をわかりやすく解説します。

「株式投資」の目的は資産を大きく増やすこと

株式投資は危険だ、株式投資はギャンブルだ、株に近づいてはいけない――そういった認識を持っている人は多いようです。しかし、そう思っている人の多くは、実は株式投資がどんなものかを正しく理解していない、よく知ろうとしていないのではないでしょうか。

 

「企業に参加する」という観点で説明したいと思います。企業に参加する方法はいくつかあります。その最も代表的なものが、労働力を提供する、つまり働いて給料を受け取るという方法です。これしか企業から報酬を得る方法はないと思いがちです。しかし、企業に投資(お金を提供)して、その運用成果を報酬として受け取るという道もあります。

 

投資家は株式を購入することで企業に資金を提供し、企業はその資金を使って設備投資や新製品開発、労働力の確保、営業活動など利益を得るためのさまざまな活動を行います。この企業活動に、株主として参加することは、上場している企業であれば誰でもいつでも可能です。これこそが、株式投資です。

 

株主になると、保有している株式数に応じて、その企業の経営に参加する権利を持つことができます。具体的には、株主として株主総会に議案を提案したり、株主総会で議決権を行使したりといったことが可能です。また、企業が利益を上げたときには、「配当」「無償増資」という形でその利益の一部を手にすることもできます。

 

企業は、従業員には給料という形で報いますが、利益のすべてをはき出すわけではありません。というより、むしろ給料の増加よりも利益の増加ペースの方が早いのが通常です。余った利益は結局、株主に帰属していく性質のものと言えます。

 

さて、株式「投資」は「融資」ではありませんから、企業は出資した人にお金を返す義務を負っていません。もし、企業の業績が悪くて株価が大きく下落しても、最悪の場合、企業が倒産してその企業の株式に価値がなくなってしまっても、株主にはそこまでの責任しかありません。

 

利益が大きく出る企業に投資できれば、大きなリターンが得られる一方で、沈んでいく企業に投資してしまえば、ゼロになったり、レバレッジをかけた取引(信用取引)であればマイナスに陥ったりする危険性もあります。だからこそ投資の格差がものすごく開くのです。就職の際に、企業の選択を誤ると長年苦しみ(最近はすぐ転職する人も多いですが)、逆に好環境の企業へ就職できると長年にわたってその恩恵を被るのに似ているかもしれません。

 

しかし、就職に比べると株式投資は非常に自由なものです。上場企業であれば、買った株はいつでも市場を通じて売ることができます。企業が成長して価値が上がると考えて買うことが大前提ですが、買った後に判断が誤っていたと思えば、いつでも売ればよいのです。多少は損をすることがあったとしても、状況を見極めて早めに行動すれば何回でも挑戦できます。

 

もちろん、購入後に株価が大きく上がったら、その時点で売ることも自由です。就職以上に臨機応変に様々な企業の活動に参加できるのです。また、必ずお金を返してもらう「融資」ではなく、企業に出資してその分だけ責任を負う「投資」だからこそ、大きなリターンを得ることも可能になるのです。

 

株式投資には確かにリスクはありますが、本来は企業活動に欠かせない極めて真っ当な経済活動のひとつで、資本主義の象徴的な存在だということを理解して欲しいと思います。では、なぜ「株式投資はギャンブルだ」といった声がなくならないのでしょうか。それは、ギャンブルのような投資(この場合は「投機」と言ったほうがよいでしょう)をしている人もいるからです。

 

次の項目では、株式投資と、ギャンブルや投機との違いを説明していきましょう。

「投資」と「投機」の違いを正しく理解する

株式投資とギャンブルは何が違うのでしょうか? 本質的にまったく違います。

 

すでに説明したとおり、株式投資とは企業に出資することです。株価が上昇する理由は短期的にはさまざまなものがありますが、長期的に見れば企業の成長によって企業価値が上がり、それが市場から評価されて値上がりしていくと言えます。そのため、成長を続けていて、上昇していくような企業に投資すれば、ある時点で見れば、その企業の株を買った人は誰もが利益を得ているということもあります。

 

一方、競馬や競輪のようなギャンブルや宝くじには、必ず勝つ人と負ける人がいます。参加者すべてが儲けるということは決してありません。しかも、ギャンブルや宝くじには主催者(胴元)がいて、集めたお金の一部は主催者側に入りますから、ギャンブルにのめり込むと、生活そのものに影響を及ぼし、生活がすさんでいくというのが、多くの方のイメージでしょう。

 

次に、投資と投機は何が違うのでしょうか。投機とは、短期的な値動きを利用して売買差益を得ることを指します。株で言えば、とにかく上昇しそうな銘柄を買って上昇の波に乗り、2〜3パーセントでも儲けたら急いで利益を確定するといった取引のことです。こうした取引は、「投資」ではなく「投機」にあたります。1日の間で取引を手仕舞うデイトレード(デイトレ)や短期サヤ取りは、ほとんど「投機」と言ってよいでしょう。

 

投機の場合は、企業の事業内容や業績を確認したり、事業環境を調べたりといった準備はあまり必要がありません。重要なのは、値動きとチャート、今上がっている材料などを見るくらいでしょうか。このように、機(値動きのチャンス)を捉えようとするから投機と呼ばれるのです。

 

楽に儲けられそうに思えるかもしれませんが、短期間で売買差益を得ていく投機は非常に慌ただしいものです。1回ごとの利幅は小さいため、回数を重ねなくてはなりません。取引所が開いている午前9時から午後3時までは、常に株のことに気にするような生活になりかねません。買ったら最後、売るまで気の抜けない株を買ってしまい、そのリズムからなかなか脱け出せなくなるからです。ギャンブルの罠にはまってしまいがちです。

 

また、短期的な値動きの中で行う売買では、参加者すべてが利益を得られることはなく、勝つ人と負ける人が出てきます。売買のタイミングが全てだから、早いもの勝ち、タイミング次第になりやすいのです。ですから、まさに「投機はギャンブル」と言えるでしょう。毎日開かれる株式市場で、チャンスを狙いながら常に値動きを追いかけるからです。

 

最初にこの区別をしっかりし、ギャンブル(ハラハラドキドキしながら生活)をしたいのか?それとも投資をしたいのか?を決める必要があります。何故なら、一度ギャンブルに足を踏み入れると脱け出せなくなることは、株の場合も同様だからです。

 

ギャンブルでも投機でも、とにかく儲けられればいいという人もいるかもしれません。しかし、大多数の人は生活の中にギャンブルを持ち込んで、ハラハラしながら暮らしたいとは思っていないでしょう。だから株も敬遠する、という人もいるでしょう。

 

そうであれば、話は簡単です。ギャンブル的な投資(=投機)ではなく、大きな利幅を狙えるよい銘柄をしっかり選んで投資する、本来の意味での株式投資をしていけばよいのです。

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藤村 哲也

幻冬舎メディアコンサルティング

給料がなかなか上がらない、預貯金をコツコツ貯めてもほとんど増えない――。資産運用の難しい時代です。 株式投資は、実は資産を安定的に大きく増やせる“堅実”な運用術です。安定運用のコツはただひとつ。上手に銘柄を「乗…

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