役員退職金を決める際、みだりに金額を設定してしまうと、思わぬ税務リスクを抱えてしまうことがあります。たとえば、極端に高い退職金を支給すると、損金(法人税法上の経費)として認められない場合もあるのです。そこで本記事では、税理士法人中央会計の辛島政勇氏が、役員退職金にまつわる注意点を解説します。

 

◆退職金に係る所得税の源泉徴収について

 

国税庁の「退職所得の受給に関する申請書」を提出しているかどうかで源泉徴収する金額が異なります。申請書を提出している場合は、「退職所得の源泉徴収税額の速算表」を使い、課税退職所得金額に応じて源泉徴収税額を算出します。

 

「退職所得の受給に関する申請書」を提出している場合

 

計算式

課税退職所得金額×所得税率-控除額×1.021=源泉徴収税額

 

計算例

(15,000,000円×0.33-1,536,000円)×1.021=3,485,694円

 

「退職所得の受給に関する申請書」を提出していない場合

 

計算式

課税退職所得金額×0.2042=源泉徴収税額

 

計算例

15,000,000円×0.2042=3,063,000円

退職金にまつわる「節税効果」と「注意点」

退職金の損金算入時期は、原則として株主総会の決議などによって支給額が確定した日の属する事業年度となります。この場合、未払計上が可能です。

 

ただし、取締役会で退職金の支給額を決議して支給し、その額を実際に支給した日の属する事業年度において損金経理したときは、株主総会の決議前でも損金算入できます。この場合、取締役会で内定した退職金について、後日株主総会で追認することになります。

 

※取締役会で決議した金額を実際には支給せず、未払計上を行い翌事業年度に支給した場合は、その金額は当該事業年度の損金にすることはできません。

「分掌変更」による退職金の支給

たとえば、常勤役員が非常勤役員になった際の分掌変更においても、常勤役員であった在任期間などに対する退職金を支給することができます。以下が該当となる対象です。

 

① 常勤役員であった者が非常勤役員になった

② 取締役から監査役になった

③ 分掌変更前と分掌変更後の報酬を比較しておおむね50%以上減少している

 

この場合は、実際に支給した事業年度にて損金計上となります。しかし、未払計上を行い翌事業年度に支給すると、当該事業年度の損金の額には含まれませんのでご注意ください。

 

◆注意点

 

分掌変更の場合は、通常の退職とは異なり、退職金を支給しても当人は会社に残ることになります。形式上だけ非常勤役員になり、代表権を維持して、実質的に法人の経営の重要な地位にある場合や、取締役から監査役になったものの、法人を実質的に支配できる立場にあると認められる場合など、分掌変更しても業務実態に変化がないと判断されると、分掌変更による退職が認められず、退職金が損金不算入となるおそれがあります。

 

◆まとめ◆

 

●税務上優遇されているからといって、むやみに退職金を膨らませるのではなく、税務リスクも考慮した金額設定が必要です。

●退職金には、通常の役員報酬に係る所得税よりも優遇されるポイントがあります。

●退職金は金額が大きくなることもあり、節税や自社株の株価評価に大きく影響させることもできます。

●分掌変更による支給や、退職金を未払い計上して損金に算入する場合は、税務リスクがないか注意しましょう。

 

 

辛島 政勇

中央会計株式会社/税理士法人中央会計 税理士

 

本記事は、『中央会計株式会社』ホームページのコラムを抜粋、一部改変したものです。

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