戦略検討において有効な「思考のステップ」とは
戦略フレームワークの利用マニュアル「実践編」を解説します。戦略フレームワークに振り回されては本末転倒ですので、事故を起こさないように、しっかりハンドルを握り、丁寧に運転していきましょう。
(1)「木を見て森を見る!」問題の本質を認識することを心がける
よくある間違いが、具体的な問題を把握した際、そのまま具体的な解決策を引き出そうとすることです。拙速なアクションが短期的に効果をあげることはありますが、また同じような問題が発生するケースが多いのです。
ですから、一旦問題を抽象化させて、問題の本因を理解して、本質的な解決策を見出した上で、具体的な解決策を探るというステップを取ることが望ましいです。
これは、戦略検討において非常に重要なポイントとなります。一つ例をあげてみましょう。
舞台はコンビニエンスストアです。
その店舗は、売り上げにも影響が出るほど、万引きに悩まされています。この問題の原因は一見、万引きを見逃してしまう従業員の姿勢や資質に矮小化されがちですが、本質はそこではありません。
そこからまず、「教育の不徹底」という本質的な原因をあぶり出します。その教育のための、従業員の管理マニュアルにこそ、何か不備があるのでは考えます。そこには、効果的な予防策がやはり足りてなかったことが分かり、具体的な解決策として「顧客への声がけ」という項目が加わり、実行されることになりました。
ちなみに、具体的事象から直接導き出された具体的解決策と、上記ステップを踏んだ結果導き出された具体的解決策が同一、ということも起こり得ます。しかし、それはあくまで結果論に過ぎず、冒頭に記載のとおり、このステップを踏んで問題の本質を捉えようとする姿勢が重要なのです。
「会社がとるべき戦略・戦術」を明確に整理する
(2)「強いスクラムを組む!」前提条件を明確にしてチーム全体で共有する
戦略検討を進めていく場合、市場(業界)の定義、競合の範囲、ターゲット顧客層などの前提条件を明確にして、これらを戦略検討チーム内でしっかりと共通認識しておく必要があります。これらが不十分な状態で検討を進めても、軸の定まらない分析となる恐れが高くなるためです。
また、前提条件の明確化は慎重に行う必要があります。当然ながら分析結果は前提条件によって変わってくるため、前提条件を適切に設定しないと、判断を誤る原因となります。
(3)「急がば回れ!」結論を出すことを焦らない
特に注意しなければいけないのは、中小企業の経営分析の王様、SWOT分析です(関連記事『中小企業に多い!? 戦略フレームワークの「誤用あるある」3つ』参照)。最も利用されており、一番目に触れる機会が多いフレームワークであることから、関係者の理解も容易です。
しかしながら、冒頭からSWOT分析に突入してしまうというケースが散見されます。100%誤りというわけではありませんが、精度やMECE(※1)という点ではちょっと乱暴な気がします。
中小企業の場合、非常に慣れ親しんでいるSWOT分析のアウトプットは戦略検討の一つの区切りになります。したがって、適宜PEST分析や3C分析といった他の戦略分析フレームワークも活用しながら、一つ一つ丁寧に積み上げていって結論を導き出した方が望ましいでしょう。
※1 MECE(ミーシーまたはミッシー)とは、Mutually(お互いに)、Exclusive(重複せず)、Collectively(全体に)、Exhaustive(漏れがない)という意味を表します。これはダブりをなくすという効率的側面と抜け漏れをなくすという効果的側面の双方に留意しなければならないというロジカルシンキングの基本概念です。
(4)「分析だけで終わらせない!」行動に結びつけるべく最後までやりきる
SWOT分析は現状把握には有用ですが、これから企業が何をどのようにして戦っていくかという観点では明示性にかけるきらいがあります。したがって、もう一歩進んで、クロスSWOT分析を行って、対象会社がとるべき戦略・戦術を明確に整理するのです。
クロスSWOT分析に基づき、SWOT分析の結果を「強み × 機会」、「強み × 脅威」、「弱み × 機会」、「弱み × 脅威」の4つのブロックに分けることになります。
それぞれのブロック毎に企業が取るべき戦略の方向性を整理すると、図表3のようにまとまります。
久禮 義継
株式会社H2 オーケストレーターCEO
公認会計士久禮義継事務所 代表