本連載では、円満相続税理士法人の橘慶太税理士が、専門語ばかりで難解な相続を、図表や動画を用いてわかりやすく解説していきます。今回は、相続税の計算方法について見ていきましょう。

■小規模宅地等の特例を検討

財産の評価額ができあがったら、次に、小規模宅地等の評価減という特例を検討します。この特例はひと言でいうと「亡くなった人が自宅として使っていた土地は、配偶者か同居している親族が相続する場合には、8割引の金額で評価していい」という特例です。

 

8割になるのではなく、8割引です。

 

1億円の土地であれば、2000万円の評価額で計算してくれるという、減額の幅が非常に大きな特例です。地価の高い地域に住んでいる人であれば、相続税が何千万円も変わる話になります。

 

この特例が使えるかどうかで、今後の対策の立て方も大きく変わりますので、早い内に必ず、この小規模宅地等の特例についての検討はしておくようにしましょう

 

■財産の分け方を決めよう

亡くなった人の財産を相続できるのは、「相続人」という法律上、決められた立場のある人に限定されます。ちなみに、遺言書がある場合には、相続人以外の人に財産を渡すことができるようになりますが、遺言書を使って財産を渡すことを、遺贈(いぞう)といい、法律用語上は相続と区別して使います。

 

亡くなった人の財産の分け方には、ルールがあります。そのルールに従って、財産の分け方を決めていくのですが、ルールの全体像は次の通りです。

 

[図表3]遺言書の有無による、相続税の考え方
[図表3]遺言書の有無による、相続税の考え方
 

まずは、遺言書があるのか、ないのか。ここが非常に大きなポイントです。遺言書がある場合には、その遺言書の内容に基づいて財産を分けていくことになります。ただし、「あなたは全然お世話してくれなかったから、1円もあげないわよ」といった、極端に取り分が少なくなるような遺言書を作った場合にも、相続人には最低限の金額は必ず相続できるように保証されている金額があります。これを遺留分といいます。

 

この遺留分を侵害してしまっているような遺言書がある場合には、かえって問題を悪化させてしまうことになるので、十分注意しましょう。

 

ちなみに、相続人全員が同意をした場合には、遺言書の内容は変更することが可能です。ただし、全員の同意が必要になるので、一人でも「私は、お父さんの遺言書の通りに財産を分けたいわ」という人が現れた場合には、遺言書の分け方が優先されることになります。

 

もし、遺言書がない場合には、相続人全員での話し合いによって、財産の分け方を決めていきます。この話し合いのことを遺産分割協議(いさんぶんかつきょうぎ)といいます。この遺産分割協議は、相続人全員が同意して、遺産分割協議書という書類を作り、相続人全員が実印と署名をするまでは、永久に続きます。ここでよく誤解してしまう人がいるのですが、法定相続分という割合は、遺産分割の分け方の目安として定められているもので、必ずしもこの割合で分けなければいけないというわけではありません。

 

あくまで相続人全員が同意すれば、どのような分け方でもOKです。 全員の同意がとれない場合には、家庭裁判所で調停をしたり、裁判をしたり……と、何年も揉めてしまうケースも珍しくありません。気を付けようがないかもしれませんが、気を付けましょう。

 

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まずは「家族全体の相続税」を考える

■いよいよ相続税を計算していく

財産の評価をして、小規模宅地等の特例を検討して、財産の分け方を決めてきました。ここからいよいよ相続税を計算していきます。まずは、評価した財産額(小規模宅地等の特例を使った後)から、基礎控除の金額を引いていきましょう。そして、その残った金額に、相続税の税率をかけていくのかと思いきや……実は、そうではないのです。ここが、相続税の計算で、最も「?」がでるポイントです。

 

基礎控除を引いた金額を各相続人が、仮に法定相続分で相続したものとして、財産を振り分けていきます。たとえば、相続人が妻と長男と長女の3人だったとします。そして、基礎控除を引いた金額が1億円だったとします。その場合、妻の法定相続分は2分の1なので、5,000万円を振り分け、子どもたちはそれぞれ4分の1ずつなので、2,500万円ずつを振り分けていきます。

 

[図表4]相続人が妻と長男と長女の3人、基礎控除を引いた金額が1億円だったら、、、
[図表4]相続人が妻と長男と長女の3人、基礎控除を引いた金額が1億円だったら、、、

 

そして、この振り分けられた金額に、相続税の税率をかけて計算していきます。相続税の税率表は、次の通りです。

 

[図表5]相続税の税率(出所:国税庁)
[図表5]相続税の税率(出所:国税庁)

 

法定相続分によって振り分けた金額に税率をかけて、その後に控除額を引きます。

 

[図表6]図表4のケースに相続税の税率を掛けると、、、
[図表6]図表4のケースに相続税の税率を掛けると、、、
 

このように計算すると、妻の税額が800万円、子どもたちがそれぞれ325万円となりました。次に、この三人の税金を合計します。この合計された金額が、家族全体の相続税となります。

 

[図表7]図表4のケースの家族全体の相続税額は?
[図表7]図表4のケースの家族全体の相続税額は?
 

800万円+325万円+ 325万円=1450万円。この1450万円が、ご家族全体での相続税額になります。このようにして、まずはご家族全体での相続税の金額を決定させます。

 

そして、ご家族全体の相続税額を、今度は、各相続人が、実際に相続した割合に基づいて、相続税を振り分けていきます。たとえば、3人での話し合いの結果、「お父さんの遺産は、3分の1ずつわけましょう」ということで相続人全員の同意がとれたとします。この場合には、先ほど計算した相続税1450万円を妻と長男、長女にそれぞれ3分の1ずつ振り分けていきます。

 

 [図表8]家族全体の相続税額を基に、実際に相続した割合に基づき相続税を振り分け

[図表8]家族全体の相続税額を基に、実際に相続した割合に基づき相続税を振り分け

 

そうすると、それぞれ割り振られる税額は483万円ずつになります。この金額をそれぞれの相続人が納税するという流れになります。

 

では、たとえば、3人での話し合いの結果、「財産は母さんと長女で2分の1ずつ分けましょう」となった場合にはどうなるでしょうか?

 

[図表9]もし長男が何も相続しなかったら、、、
[図表9]もし長男が何も相続しなかったら、、、

 

この場合には、家族全体の相続税1450万円を、お母さんと長女で2分の1ずつ負担することになります。財産を相続しなかった長男に相続税の負担は発生しないことになります。このように、

 

① まず各相続人が、仮に財産を法定相続分で相続したものとして財産を振り分ける

② ①に相続税の税率をかけて家族全体の相続税を計算する

③ 実際に財産を相続した割合に応じて、各相続人に相続税を振り分ける

 

という、非常に面倒くさい方法によって相続税は計算されます。

 

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