パウエルFRB議長が、踏み込んだ発言…年内の利下げに繋がるか

6月4日、シカゴ連銀での会議で講演したパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長が、今後の金融政策の方向性をにおわせる「踏み込んだ発言」をした。これが市場に与えた影響と、発言の背景について、Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence BankのCIO長谷川建一氏が解説する。

パウエル議長発言を受け、米国株式相場は大幅高

パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長は、6月4日、シカゴ連銀で開かれた会議で講演した。米国と主要貿易相手国との対立が、どう、またいつ解決するか分からないと不透明な状況として挙げ、長期化した場合の影響を注意深く観察し、景気拡大を維持するためには、適切な行動を取ると発言した。

 

これを市場は、利下げの可能性を示唆したものと受け止めた。これまでもFRB次の金融政策の一手は利下げになると見越して、市場では2回程度の利下げを織り込む動きが続いてきたが、この発言により2019年内での利下げ予想が一段と強まった。パウエル議長をはじめ、このところFRB当局者が景気に対して慎重な見方を語り、柔軟な金融政策について触れる機会が増えていることから、次の政策発動(利下げ)への地ならしと受け止める傾向がこのところ強まっている。

 

パウエル発言を受けて、米国株式相場は大幅高となった。S&P500種株価指数は前日比2.1%高の2803.27で引け、S&P500指数としては今年1月以来の大幅高となった。ダウ工業株30種平均も512.40ドル上昇し、2.1%高の25332.18ドルで引けた。ナスダック総合指数に至っては2.7%上昇した。ただ、債券利回りは、米国株式相場が大幅高となったことで、安全資産からリスク資産への資金移動観測から上昇した。米国債10年債利回りは、0.06%上昇して2.13%となった。

 

市場が注目していることは、インフレ率がこのところ低下していることである。2015年の終わりから2018年に掛けて、FRBは段階的に金融政策を引き締めてきたが、若干過度に引き締めてしまったとの指摘は多い。経済成長が堅調な状態が続いている間は、それでも慎重に見守るということもできようが、関税合戦の過熱化など不透明な要因は増えている。加えて、トランプ政権からの圧力も相当にあり、利下げカードを用意していても不思議ではないと考えるようになってきている。

 

ただ、現状では、製造業景気指数(5月)は、引き続き軟調なトレンドが見えるものの、節目となる50は下回らなかったし、雇用市場も4月の統計では大きな変調は見られなかった。市場は、FRBの次の一手を見通すヒントとして、6月7日に発表される米雇用統計に注目することになる。

 

FRBは、2019年に入って景気の堅調ぶりに大きな変化がない中、柔軟な金融政策へ姿勢を変化させてきた。2018年末までは、2019年内に2回程度利上げを行うとして、市場に懸念を抱かせていたほどだったが、1月に株など資産価格が急落した後は、「我慢して見守る」慎重姿勢に転じ、3月のFOMCでは、景気見通しも控えめな見方に変化させて、次の一手が「利下げ」である可能性もチラつかせて、市場の安心感を醸成してきた。結果として、1月の急落からは、株価も上昇し、景気の腰折れという事態も招かなかったことは評価すべきだろう。 

貿易摩擦が景気に与える影響の深刻さは、未だ不透明

では問題は何かというと、FRBも現在把握していない、把握できない、貿易摩擦の景気に与える影響の深刻さや期間の長さだろう。そして関税からの物価への影響が加わる。最近のインフレ指標の低下がFRBの指摘するように「一過性の公算が大きい」ものに終わるのかどうかという点も気掛かりである。インフレ率が低いままであれば、市場が期待するように「次の一手」は利下げとなる公算が強まるが、インフレ率が上昇した場合に、FRBの政策発動は困難を極めることになる。市場がやや先走った形で期待を持っているという点を含めて、裏目に出てしまうインパクトは大きくなろう。

 

パウエル発言にも、次のようなくだりがあることは忘れてはならないだろう。「インフレを加速させるために、金融政策を使って労働市場にてこ入れすれば、金融市場などに不安定化リスクを引き起こしかねない」。つまり、低金利維持が正解とはならない可能性についても言及しているのである。トランプ政権の政策発動余地が小さい中、FRBに圧力がかかることは想像に難くない。

 

筆者は、今回の発言は、慎重な姿勢を取り状況を見守るというFRBの現行のスタンスを反映したもので、それに加えて関税合戦のエスカレートなど不透明な要因を意識したトーンが色濃く出たものと考えている。慎重に、我慢強く見極めるという範囲を超える利下げのコミットメントとは言えないのではないか。市場は、年内の実施を含めて25Bpsの利下げを2回程度織り込んでいるが、まだまだ、見えてきていない要因が多く、一筋縄ではいかないと見ておいた方がよさそうである。

 

 

長谷川 建一

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

 

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Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

京都大学卒、MBA(神戸大学)。
シティバンク日本及びニューヨーク本店にて資金証券部門の要職を歴任後、2000年にシティバンク日本のリテール部門で商品開発や市場営業部門のヘッドに就任。2002年にシティグループ・プライベートバンクのマーケティング部門ヘッドに就任。 2004年末、東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)に移り、マーケティング責任者として活躍。2009年からはアジア・リテール戦略を担い、2010年は香港にてBTMUウエルスマネージメント事業の立ち上げに従事。
2013年よりNippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(ニッポン・ウェルス・リミテッド・リストリクティド・ライセンス・バンク/日本ウェルス)を創業し、COOに就任。2017年3月よりCIOを務める。

WEBサイト https://jp.www.nipponwealth.com/

長谷川建一氏登壇のセミナー https://gentosha-go.com/articles/-/13973

著者紹介

連載香港発!グローバル資産防衛のためのマーケットウォッチ

本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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