信頼や価値に影響する「値引き」は戦略的に行う
「値引きをする場合には戦略的にしてくださいね」とクライアントによく伝えています。もちろん、私も「戦略的値引き」は意識して料金設計をしています。
「値引き」はある意味「劇薬」なので、乱発していると、値引きしないと成約しない自己体質を作ってしまい、経営が危うくなります。また、他に「成約するための提案」を考える思考能力も低下してしまうのです。
「成約のための安易な値引き」はあまりよくありません。ましてやその先の計算などもせずに値引きするのは控えましょう。
たとえば、新コースを作った際、「お客さまの声」をモニターとしてほしい場合には、定価の30%オフなどの「キャンペーン価格」を設定することがあります。
これによって、「宣伝効果」を「広告宣伝費的に金額換算」しても「効果がある」と判断できる場合には、実施してもOKです。新コースなら、レッスンのタイムスケジュールをシミュレーションしたくてもモニター募集する場合もあるかもしれません。それも含めて安めの「モニター価格」としてご参加いただくので、お互いにメリットは相互交換になります。
しかし、目の前の人に成約してもらいたいために、場当たり的に「値引き」をしてしまうと「定価で購入した人の信頼も失う」ことになりますし、「値引き」をした人さえ、定価に対する正当性を感じてもらえなくなることもあります。それぐらい「値引き」はデリケートな施策なのです。
3つの数字から成り立つ顧客生涯価値(LTV)とは
この戦略的値引きを考えるときに一つの指標にしてほしいのが、「顧客生涯価値(Life Time Valueライフタイムバリュー=LTV)」という考え方です。
LTVとは「1人の顧客がその取引期間を通じて企業やブランドにもたらす価値」です。さて、いま一度、顧客生涯価値(※以下、LTVと記載)の話に戻します。
LTVとは、次の三つの数字から成り立ちます。
①顧客からもたらされる利益
②顧客の維持率(維持期間)
③顧客維持に関わるコスト
少し難しい話なので、私の教室を例にご説明します。たとえば、コースレッスンに1年間通う人を想定した場合、①の利益が約1万円(1回あたり)だったとします。②の維持期間が1年なら1万円×12回=12万円になります。③のコストはメルマガとブログを書くぐらいで、ほとんど広告を使っておらず0円に等しいので、1人の平均LTVは約12万円になります(図表1、2参照)。
成約率が高まる季節を狙う「戦略的な値引き」施策
通常、教室の先生は初期段階で広告を使う方は少ないので、お金を投資するとしたら値引き部分になるでしょう。
前述の例でいうと、1回の申し込みで1年間通う人を確保できるならば、広告費の投資率10~30%と考えた場合に、最大3万円まで値引きをすることは可能です。しかし、教室事業の場合には、安易な値引きはおすすめしません。
値引きがうまく機能していたビジネスモデルの例として、かつての携帯電話の料金モデルがありました。「本体0円」で「月々の通話料で稼ぐ」という料金体系で、このプランによって「他社から乗り換えの新規顧客」を獲得していました。
現在は規制がかかったのでそういう表記にはなっていませんが、こちらもLTVを計算しているから、本体を0円にしても(値引き)通話料で利益が出る仕組みになっているのです。
このようにLTVはビジネスモデルを考えるときに、必要になる考え方ですし、どこまで投資するかを判断する基準値にもなります。こちらを計算したうえで「値引き」をするのが「戦略的な値引き」です。
成約率という観点から考えたときに、LTVと戦略的な値引きのバランスがよければ、効率よく成約できます。
継続プランタイプのコースレッスンであれば、生徒さんが申し込みたくなる季節、つまり成約率が高まる季節(1月、4月)を狙って値引きをして成約に結びつけるのは、戦略的な値引き施策といえます。
LTVの数字は、高確率の成約設計にも集客改善にも使える大切な基礎データですのでこの機会にぜひマスターしてください。
高橋 貴子
株式会社Libra Creation 代表取締役