豪総選挙は与党が逆転勝利…左派政権の誕生に国民が躊躇か?

オーストラリアで、5月18日に実施された総選挙(下院=定数151)で、モリソン首相率いる与党・保守連合が下院で単独過半数を獲得する見通しとなった。オーストラリア選挙管理委員会が20日に明らかにしたところでは、保守連合が75議席を獲得したほか、開票作業中で勝敗が決まっていない5選挙区のうち2区で、保守連合の候補者がリードしており、与党連合が過半数を確保する模様である。Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence BankのCIO長谷川建一氏が解説する。

中国と米国の間で微妙なポジションにある豪州

今回の総選挙では、税や気候変動、社会的不平等などの政策が争点となった。モリソン首相率いる自由党と地方を拠点とする国民党による保守連合は、与党として過去6年間政権を担い、財政を黒字化するなどの実績と今後の減税策を訴えた。先月発表した2019/20年度予算案では、財政収支が2007/08年度以降で初めて黒字になるとの見通しのもと、中・低所得層向けの減税や医療・教育支出などを積極的に盛り込んだ。

 

対する労働党は選挙戦で、地球温暖化対策への取り組みや医療・再生可能エネルギーへの投資、教育や医療の拡充、富裕層への増税、中所得者向けに与党案と同規模の減税を、低所得者向けにはさらに大規模な減税を実施する意向を示していた。

 

選挙前の数ヵ月の間に実施された世論調査では、労働党が保守連合より高い支持率を得て、優勢とみられていた。与党の一角である自由党は、党内の内紛で、ターンブル前首相を首相から引きずりおろしたこともあり、組織が固まりきらず、今回の選挙戦では、苦戦が伝えられており、労働党が勝利するとみられていた。

 

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しかし、結果は、与党側の勝利という予想外の結果となった。労働党が主張するエネルギー政策は2030年までに温室効果ガス排出量を45%削減し、再生可能エネルギーの比率を50%に高めることを目標としている。この政策は、最もリベラルな地域といわれるビクトリア州では都市部の有権者の支持を得て数議席を上積みできたものの、それ以外の地域では支持が広がらなかった。温暖化対策は、地方で鉱山業などに従事する労働者にとっては雇用の減少に繋がりかねないと受け止められたのだろう。

 

また、最大の貿易相手国である中国と同盟関係にある米国の間で微妙な立ち位置にあるオーストラリアで、左派政権が誕生することに、国民が躊躇したという面もあるだろう。

 

予断だが、オーストラリアは「義務投票制」を採っている。正当な理由がないのに投票に行かない場合、20豪ドル(約1520円)の罰金が課されるそうだ。従って、総選挙の投票率は、前回も91%と高い。モリソン首相が「静かなオーストラリア人」と呼ぶ人たちが、都市部主導でリベラル有利といわれた選挙戦を通じて抱いた違和感を、保守連合への投票という形で示したといえるのかもしれない。

課題は、足元で経済成長が軟化していること

与党連合は議会下院で過半数の議席を得て、無所属議員などの協力を得ずに政策を推し進めることが可能になった。先日発表された予算案は、総選挙の結果次第だったが、これで財政健全化と景気刺激的な内容の予算案の通過を期待できるようになるだろう。予算案では、低中所得者向けの所得減税、中小企業向けの減税や支援策の実施、今後10年間で1,000億豪ドル規模ののインフラ投資の実施計画、教育・ヘルスケア向け財政支出の増加が盛り込まれ、景気刺激型の予算案であるといえる。

 

ただ、モリソン首相率いる与党・保守連合は、足元でオーストラリア経済が、軟化傾向にあるという課題に早速直面することになる。経済成長の見通しは、昨年末ごろから下方修正されてきた。豪州準備銀行(RBA)も、3月の金融政策理事会の時点では、オーストラリア経済の2019年実質GDP (国内総生産)成長率を「3%近辺」であるとしていたものの、4月の理事会では、この表現を声明から削除し、厳しい予想に転換している。オーストラリア財務省も2019年度の経済成長予測は2.25%。来年度と再来年度の経済成長予測はともに2.75%と控えめに見込んでおり、昨年までのような3%成長は見込んでいない。

 

米中貿易摩擦のエスカレートによる中国経済の先行きにも不安感が出てきた。主要貿易相手国である中国経済からの影響は、市場の懸念として豪ドルやオーストラリア株価の圧力になりがちである。一方で、オーストラリア政府には、財政黒字化で財政出動の余地も出てきた上に、個人消費、企業の設備投資は比較的安定成長が見通せる状態である。また、輸出産品への堅調な需要も持続が予想され、いずれも経済成長には寄与するだろう

 

2019年の景気のダウンサイドリスクを減らすことができれば、オーストラリアへの見直しの契機はそれほど遠くなく、長期的な豪ドルの反騰を期待できるのではないか。0.70ドル水準を割り込んでしまっているが、今回の与党の逆転勝利が、反騰のひとつのきっかけになるかどうかを見極めたいと考えている。

 

 

長谷川 建一

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

 

 

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

京都大学卒、MBA(神戸大学)。
シティバンク日本及びニューヨーク本店にて資金証券部門の要職を歴任後、2000年にシティバンク日本のリテール部門で商品開発や市場営業部門のヘッドに就任。2002年にシティグループ・プライベートバンクのマーケティング部門ヘッドに就任。 2004年末、東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)に移り、マーケティング責任者として活躍。2009年からはアジア・リテール戦略を担い、2010年は香港にてBTMUウエルスマネージメント事業の立ち上げに従事。
2013年よりNippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(ニッポン・ウェルス・リミテッド・リストリクティド・ライセンス・バンク/日本ウェルス)を創業し、COOに就任。2017年3月よりCIOを務める。

WEBサイト https://jp.www.nipponwealth.com/

長谷川建一氏登壇のセミナー https://gentosha-go.com/articles/-/13973

著者紹介

連載香港発!グローバル資産防衛のためのマーケットウォッチ

本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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