先月には米中両政府が、通商協議の進展に言及し、米中首脳会談の開催を含めて、「非常に歴史的」な合意形成が近いことを示唆していたが、大詰めの段階で、協議が難航している可能性がある。Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence BankのCIO長谷川建一氏が解説する。

第11回米中ハイレベル協議の行方は?

トランプ大統領は、5月5日「中国との通商協議の進展が遅すぎる。しかも、ここへきて中国が再交渉を企てているようだ」とツイートして、通商協議の進展のペースに不満であることを露わにした。さらに、トランプ大統領は、中国からの輸入品2000億ドル(約18.2兆 円)相当に対する関税率を5月10日から現行の10%から25%へと引き上げる措置を採ると警告した。それだけにとどまらず、中国からの輸入品でこれまで関税の対象になっていない、その他3250億ドル(約29.5兆円)相当の中国製品についても、近いうちに関税の対象にすることにまで言及した。

 

米国のライトハイザー通商代表部(USTR)代表・ムニューシン財務長官と、劉鶴中国副首相は、これまで相互にワシントンと北京を行き来して、協議を積み重ねてきており、協議は最終段階にあるといわれていた。今回は、第11回米中経済貿易ハイレベル協議として8日から開催を予定されていたもので、先週4月30日から5月1日まで北京で開催された第10回協議に続いての大詰めの協議と見られ、劉鶴副首相は約100人もの代表団を率いてワシントン入りする予定だった。先週北京を訪れたライトハイザー米USTR代表とムニューシン米財務長官は、生産的な協議を持ったとして、米国側は10日の合意発表を目指していると述べていた。

 

 

トランプ大統領が、態度を硬化させた背景には、知的財産権の保護や技術移転の問題解決などに関して、米中協議で示されてきた幾つかのコミットメントに関して中国側が二転三転させるような態度を取り、それに対して米国側が不満を解消できないことがある。なお、中国政府の公式な反応は今のところ、表明されていないが、米ウォールストリート・ジャーナル紙は、トランプ大統領の突然の態度硬化を受けて、中国政府が、今週予定されていた劉鶴副首相のワシントン訪問の中止を検討していると報じている。米ブルームバーグも中国関係筋の話として、劉鶴副首相のワシントン訪問の中止を検討していると伝えた。

強硬な姿勢に市場は株安ドル安で反応

先週金曜日3日には、米国雇用統計(4月)を受けて、インフレが抑制された状況の中、雇用市場は安定的に成長していることから、景気下支えとFRBによる金融政策維持の観測が広がり、米国株価は史上最高値水準で引けていた。しかし、トランプ大統領の強硬なツイートの内容は、米中通商交渉の進展についての楽観的な見方に反するものだった。

 

米国株先物は時間外取引で反落した。S&P500種株価指数とダウ工業株30種平均の先物は、3日の終値から、それぞれ1.4%下落、ナスダック100指数先物も1.6%下落した(日本時間6日午前8時15分時点)。為替市場でも、ドル円相場が反応し、円が大幅に上昇し、約5週間ぶりの高値を付け1ドル=110円30銭台の高値に達し、その後は110円50銭台に値を戻した(日本時間6日11時時点)。

 

影響が大きかったのは、中国株と人民元で、CSI300指数は前営業日比5.5%安水準まで下げた。オフショア人民元は一時1.3%安の1ドル=6.82元台をつけた(その後は6.79元台に値を戻した)。

 

予定通り第11回米中経済貿易ハイレベル協議が開催されるかどうかによっては、相場の波乱もありうるだろう。トランプ政権内では、対中貿易政策で妥協をすべきではないとの強硬論を主張するタカ派も一定程度力を持っていると伝えられており、大詰めの米中協議の行方は、楽観視できなくなってきた。

 

なお、筆者は、米中通商協議が決裂しないことを前提に、中国経済が政策発動・リスク回避策が奏功し一旦底打ちし、米国経済も足かせがひとつ取れ、景気腰折れシナリオの回避の可能性が高まることにつながることをメインシナリオにしている。交渉の最終局面で、これもトランプ大統領ならではの、交渉術のひとつなのか、それとも、埋めきれない溝が残っているのか、今週は、大詰めの米中協議の行方を注意して見守りたい。

 

 

長谷川 建一

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

 

 

本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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