中国国家統計局が4月17日に発表した第1四半期の国内総生産(GDP)は前年比+6.4%と、市場予想の+6.3%を上回った。本記事では、Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence BankのCIO長谷川建一氏が、減速に歯止めがかかった中国経済の先行きを展望する。

第2四半期にはさらに上向く可能性も想定すべき

中国経済の減速が不安視される中、中国政府は昨年末から、金融緩和を断続的に実施し、財政政策も拡大して景気下支えに強力にコミットする姿勢を示してきたが、こうした政策効果が実体経済に波及してきていることを示す内容だった。

 

同時に発表された3月の鉱工業生産、小売売上高、固定資産投資の統計は、いずれも前回より改善を示した。3月鉱工業生産は、前年同月比+8.5%で、これは2014年7月以来の大幅な伸びであるし、市場予想の+5.9%に比較しても大きな伸びである。全人代で発表された中国政府の財政政策を背景とした受注増への期待から、企業が生産を拡大したことが主因と推測される。特に鉄鋼やセメントなど建築資材で生産が拡大し、牽引した形である。

 

 

3月の小売売上高は前年比8.7%増加し、こちらも昨年9月以来の高い伸びとなった。固定資産投資も前年同期比6.3%増加と高い伸びを示した。前週に発表された統計でも、住宅販売とそれに関連する融資の伸びは堅調だったが、こうした統計とも整合性がとれており、家電・家具・建築資材の販売を含めて、住宅関連市場の力強さが見て取れる。自動車生産・販売は減少傾向だったが今後は減少ペースが鈍化し、増加に転じるとの見通しを国家統計局の報道官は、付け加えてコメントした。

 

筆者は、中国経済が、政府の一連の政策発動・リスク回避策が奏功し、昨年第4四半期か、今年第1四半期に短期的には底入れすることを予想してきた。2016年にも同様な展開であったことを念頭に短期的な悲観論を戒めてきた。今回の統計は、その見方を支持するものと考えている。

 

中国の国内政策や内需改善のトレンドからすれば、第2四半期には、さらに上向く可能性も想定しておくべきだろう (2019年3月6日配信・連載第97回「第13期全人代第二回会議開幕 財政面で中国に打つ手はあるか?」参照)。

追加緩和に踏み切れば、資産バブルを助長する懸念も

懸念材料は、外的要因にある。貿易摩擦の落ち着きどころはまだ見えていないし、世界的に見ればIMFの4月の世界経済予測でも示された通り、成長減速の可能性といった中国経済にとっての逆風がおさまってはいないことだろう。

 

ただ、米中通商協議については、米中首脳会談のアレンジに取り掛かることが報じられるなど、閣僚級会談を米中が相互に訪問しながら詰めてきた成果に繋がることを予見させる動きが出てきている。

 

トランプ大統領は、欧州に対しても関税を強化する姿勢を見せ、日本とも通商協議を本格化するなど、これまでの世界自由貿易体制の枠組みに少なからず影響を与えかねないが、米中協議がひとまず着地を見ることになれば、不透明な先行きに神経を尖らせてきた市場の悲観論は少しづつ抑制されるだろう。3月の全人代の政府活動報告の中で、李克強首相が発表した、2019年の経済成長率の政府目標の設定は6.0〜6.5%だったが、実績はこのレンジの上の方でおさまる可能性は十分にある。

 

一方で、中国経済が底入れし、短期的なダウンサイドリスクが一定程度減少するとすれば、中国人民銀行(中央銀行)は、追加的な緩和政策に踏み込むことに慎重になる可能性はある。 株価や不動産価格が上昇する中で、人民銀行が預金準備率の引き下げなど追加緩和に踏み切れば、資産バブルを助長しかねないとの懸念が頭をよぎるだろう。長期的には、流動性には留意しながらも、過剰債務を解消していくという課題は残されており、これと短期的な成長リスクとのバランスをとりながらの政策運営となるのではないか。

 

 

長谷川 建一

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

 

 

本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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