デザイン性の高さが音楽家の感性を研ぎ澄ます
優れたデザインの製品に与えられる「グッドデザイン賞」という賞があることをご存じでしょう。ミュージション川越とミュージション志木は、この「グッドデザイン賞」を受賞しています。
ミュージション川越は、手塚建築研究所の手塚貴晴氏と手塚由比氏がデザインし、ライトフィールドアーキテクツ(当時)の角館政英氏が照明設備設計を担当してくださいました。ミュージション志木は、澤村昌彦氏がデザインしたものです。どちらも一度見たら忘れられないたたずまいで、地域景観のアクセント的な存在になっています。
ミュージションがなぜ、デザイン性を意識するのかといえば、マンションのデザインは住む人の感性に影響を与えると思うからです。プロであろうとアマチュアであろうと彼らは音楽家です。その音楽家としての感性を研ぎ澄ますためのデザインは、基本性能としてきちんと提供していきたいと考えています。
風化していく素材を使うことで「経年美化」を楽しむ
建築デザインで筆者が特に意識しているのは、時間がたっても古びないものであって欲しいということです。中年にさしかかった元アイドルが輝いていた頃のイメージを保とうとして、昔の衣装を着ていると痛々しさを感じてしまうように、古くなった建物を新しく見せようとすると、かえって古ぼけて見えます。
若作りが逆効果になるのは、人も建物も同じなのです。理想的な建築とは、時とともに自然に風化しながら、その時代その時代で、存在感を示していけるデザインを持つものだと筆者は考えています。
たとえば、静岡県伊東市にある川奈ホテルの床は、長年にわたり名門ゴルフコースを楽しんだ人たちがスパイクのまま歩いたせいで、少しずつ削れています。ゴルフに詳しい方なら誰もが知っているような世界中の名プレイヤーが歩いたかもしれない床のその歴史ともいえる傷を、あえて隠そうとしないところが川奈ホテルの存在感を示しているものだと思うのです。
川奈ホテルのように「時の思い出」を美しいと思える建築を目指すために、ミュージションではコンクリートの打ちっ放しや無垢の床など、古さが味になる素材を積極的に用いています。筆者はそれを「経年劣化」の反対語として、「経年美化」と呼んでいます。
たとえば、ミュージション志木で使われている無垢材の床が、時間がたつにつれて飴色に変わっていく様子を見るのは、なんともいえずいいものです。ただし、ミュージションでは美しさを一番に優先しているわけではありません。何度もいいますが、それ以上に大切なのは、ミュージションとしての性能を向上させることなのです。間違ってもそこをはき違え、建築家のエゴに振り回されてはいけないと思っています。
大きな声ではいえませんが、建築家の中には入居者やオーナーの声を無視して自分の思うままの建物を作り、きれいな写真を撮って専門の雑誌に掲載されればおしまい、というタイプの人も少なくないのです。しかし、バブル期のデザイナーズマンションではないのですから、デザインだけを優先して機能や住み心地が劣ることは誰も望んでいません。よいデザインは素晴らしいものですが、あくまでもミュージションなのですから、優先順位を間違えてはいけません。