前回は、「ミュージション」が広さ28㎡にこだわる理由について説明しました。今回は、通常の賃貸マンションに比べて割高な工事費が生み出す「価値」について見ていきます。

コンクリートの厚さにこだわったミュージションの床

ミュージションは、遮音に関する建築コストがかかるため、かなり建築費が高くなるのではないか、というご質問もよく受けます。実際のところは、通常の賃貸マンションに比べて5~10%ほど工事費が割高になります。

 

特殊な工事が必要な部分として、まず床があります。ミュージションの床となるコンクリートの厚さ(床スラブ厚)は20~25㎝。コンクリートは比重の高い物質であるため、厚みを増すことで音の伝わりを防ぐ効果があるのです。

 

一般の賃貸マンションを見てみると、ローコストマンションでは、建築基準法ギリギリの8㎝ではいくら何でもひど過ぎるので、12㎝くらいでしょうか。もう少しお金をかけた物件でも15~18㎝くらいです。15㎝でも音が通りますから、12㎝がどんなものかは容易に予想がつくでしょう。ミュージションはこのコンクリートに徹底的に気を使うため、コストはその分、必要になってきます。

部屋を宙に浮かすことで音の伝わりを防ぐ

ミュージションでは床のコンクリートスラブを厚くする以外に、床・壁・天井に遮音のための特別な設計手法を取り入れています。具体的にいうと、建物の躯体との接点を極力減らし、固体伝播音の伝わりを防ぐために、部屋が宙に浮いているような状態にするのです。

 

浮いている部分の隙間には、空気伝播音と呼ばれる音の伝わりをカットするため、グラスウール層や空気層を作ってあります。空気伝播音とは、空気を伝わって届く声や楽器の音そのもののことで、空気からコンクリートを伝わって隣接する部屋に出ると騒音の原因になります。

 

まず、部屋を浮かせることで音の直接的な伝わりを防ぎ、さらに隣戸との間に様々な工夫を凝らすことで、二重、三重に遮音設計を仕込むのですから、ある程度の手間とコストはかかります。

 

将来のリターンに焦点をあてた賃貸経営が大切

ところで、通常、賃貸マンションの床の厚さは、どのように決められるかご存じでしょうか? 答えは、「オーナー次第」なのですが、実際のところ、通常の賃貸マンションのオーナーで、建物のコンクリートを厚くする方は、かなり少数派です。なぜなら、建設会社に「コンクリートの厚さはどうしますか?」と聞かれ、オーナーが「普通でいいよ」となにげなく答えたなら、建設会社は建築基準法等に基づいた最低の数値で工事をすることを選ぶからです。

 

建築費の上限は限られているのですから、音に関する知識や戦略がなければ、
①問題のない普通のコンクリート厚で最新の設備を豊富につけるマンション
②コンクリートが厚めで最新の設備がないマンション

 

なら、①を選びたくなるのが自然です。そして、目に見えないコンクリートより、設備にお金をかけることを選んだオーナーが、

 

「厳しい時代だから、設備は多いほうがいいだろう。マンションのエントランスに、服についた花粉をパッと取ってくれるようなシステムが欲しいなあ」
「生ものが宅配便で届いても冷蔵保管できる、インテリジェントロッカーなんてどう?」

 

と、誰かから聞いたような周囲のマンションにはない新しい設備の導入に積極的になったなら、その提案を聞いた建設会社は、無条件で賛成します。彼らは工事代金をたくさん払ってくれるオーナーのことが大好きですし、設計や企画の段階でオーナーの機嫌を損ね、工事をキャンセルされでもしたら営業成績に響くからです。そこには、「施主さんのために、投資効率を最大化させるマンションを作ろう」という発想はまったくありません。

 

その結果、パッと見た感じは豪華なのに、住んでみると上の階の足音が聞こえるという〝普通〟の賃貸マンションが誕生するのです。筆者は、音に対する無神経さは、賃貸マンションを経営する上で致命的なことだと思っています。

 

見えない構造体にお金をかけるか、目をひく最新の設備にお金をかけるかは、オーナー本人の自由です。しかし、少なくとも私は、お金を投入する際には目先のメリットより、その先にある長いリターンに焦点をあてて賃貸経営を考えています。なぜなら、マンションは「建てて終わり」ではないのですから。

 

本連載は、2011年2月28日刊行の書籍『近隣物件よりも高い賃料で長く儲ける満室賃貸革命』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

満室賃貸革命

満室賃貸革命

鈴木 雄二

幻冬舎メディアコンサルティング

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