いくら生まれた家、嫁いだ家が裕福であったとしても、それに甘んじて何も考えずに暮らしていると、親や配偶者などの「人生の後ろ盾」をなくした瞬間、生活を維持する手段を見失い、富裕層から転落してしまう。本記事では、相続、不動産関連の税務に詳しい、WTパートナーズ株式会社代表取締役でWT税理士法人代表社員の板倉京税理士が、資産家の配偶者、子弟に向け、具体例を取上げながら、資産防衛の意識の大切さと、相続対策の重要性を説く。

営業に促されるまま、金庫の現金1億円を…

富裕層が富裕層で居続けるためには、知恵が必要である。せっかく築いた富も、先祖代々から受け継いだ土地などの財産も、それを守っていくための知恵を持つことが、富裕層であり続けるためには必要なのである。

 

だが時々、夫(父)の残した財産をすごい勢いで減らしてしまう奥様やお子さんに遭遇することがある。富裕層の夫(父)に先立たれた世間知らずの奥様と子どもたちである。

 

①保険会社の営業担当の話を鵜呑みにし、多額の現金を塩漬けにしたケース

 

「生命保険って相続税の節税に役立つのよね。先日母が相続税の節税のためにとすすめられて、生命保険に入ったんだけど、ものすごいお札の束を保険会社さんに支払っていて、ちょっとびっくりしちゃった。なんで保険が節税に役立つのか、私も一緒に聞いたんだけどよくわからなくて…。でも保険会社さんが言うことだし、間違いないと思ってお任せしちゃった」

 

A子は二人姉妹。父親は数年前に他界した。事業をしていた父親の資産はそれなりにあったようだが、「母が全部相続したから」どのくらいの財産が残っていたのかA子ははっきり知らないという。

 

A子の母親は、世間知らずの箱入り娘がそのまま大人になったような人。一方父親は、「銀行さえも信用できない」と現金を金庫に保管しているような人だったという。今回の保険料も金庫にある現金で支払ったそうだ。

 

念のため加入したという保険商品をみてびっくりした。なんと保険料は1億円である。A子の言っていた「ものすごいお札の束」とは、1億円だったのである。この保険は、1億円の保険料を一括で払って、お母さんが亡くなったらA子ら二人の子どもが1億円から少し増えた保険金を受け取るというものであった。

 

生命保険は、確かに相続税の節税に役立つ。理由のひとつは、生命保険金には相続税の非課税枠があることだ。この非課税枠は「法定相続人の数×500万円」と金額が決まっている。

 

ちなみに、A子のお母さんの場合、法定相続人は子ども二人なので、「2人×500万円=1000万円」までは、生命保険には相続税はかからない。つまり、1000万円の生命保険金ならば相続税の節税効果は確かにある。しかし、残りの9000万円にはその節税効果はない。

 

「お母さんは他に何も保険に入っていないの?」と聞くと、「そんなこと知らないわ。母もはっきりわかっていないかも。なんといっても、お金のこととか全部父が仕切っていたから、まるっきり御嬢さんなのよね」という。

 

お金に無頓着なお母さんは、娘さんのために相続税の節税になるといわれて、その言葉を鵜呑みにして保険に加入してしまったようだ。

 

不要な分の保険は、解約して生前贈与など他の節税対策に使うとか、お母様自身が自分のために自由に使ったらいいとも思ったが、この保険、当初5年間は解約すると解約返戻金が支払保険料を下回ってしまう仕組みになっていた。ここで無理に解約すれば損してしまう。

 

「父が残してくれた財産があるといっても、いったい母は、今どのくらいの財産をもっているのかしら。お金に無頓着でほしいものはどんどん買うような人だから、お金が足りなくなったりしないか心配だわ。節税に役立たないなら、そんな保険入らなければよかったのに…」

 

確かに、9000万円もの現金が保険会社に塩漬けになっているのはうれしくない話である。だが、保険会社だって悪気はない。相続税の節税にならなくたって、より多く保険料を払ってくれるというなら断る必要はない。彼らは保険を売るのが仕事なのだから…。

 

今回の保険だって、9000万円払った保険料が、死亡時には少し増えた保険金になるのだ。売っている方としては、損をさせたつもりはない。もちろん、節税になるのは1000万円だという説明もしているに違いない。

 

ようは、加入する本人が本当に必要な保険なのか、自己判断をしなくてはいけなかったのだ。でも、A子も、お母さんもそれができなかった。自分で判断がむずかしいと思ったならば、信頼できる第三者に相談をすればよかったのだ。

 

実は、A子のお母さんのような方はたくさんいる。お嬢様育ちで上品でお金に少々無頓着。業者さんの言うことを鵜呑みにして、悪く言えばカモられやすい人たち。そんな人が夫や父親が築いてきた財産を減らしてしまうのである。

「税務署からの手紙は、怖くて中身を見ていなかった」

②相続税を延滞し続けて破たんした「お嬢様親子」のケース

 

「税務署から税金の未払いがまだ6億円近くあるという連絡が来たんです。税金が全然減らないのですが、どうしたらいいでしょうか…」

 

都心のターミナル駅の目の前にある賃貸ビルのオーナーである母と娘が相談に来た。誰でも知っている有名なこのビルのオーナーであったB氏は、15年前に50歳という若さで他界していた。B氏はこのビル以外にもいくつかの不動産を所有していたというが、相続税を払うために売却し、今はこのビルしか残っていないというのだ。

 

富裕層にとって悩ましい存在である「税金」。なかでも「相続税」は恐ろしい税金である。B氏のように財産のほとんどが不動産という人にとっては、「相続税が払えない」という可能性があるのだ。

 

実際B氏の遺産にかかった相続税は7億円以上で、現金一括納付はとてもできなかったという。それでも、不動産を売却して4億円程度を納税した。残りは約3億円。不動産収入から考えれば、しっかり計画を立てて納税していれば、返済できない額でもない。それが、減るどころか2倍近くになっているというのだ。

 

話を聞いて、愕然とした。当初は、残りの3億円を10年計画で返そうとしていたというのだが、その後事業の資金繰りが悪くなり、ここ数年は納税していないというのだ。

 

税金は申告期限までに払えない場合、延滞税という税金がかかる。

 

延滞税は、平成26年からその利率が大きく下がったがそれでもかなりの負担である。ちなみに、平成25年12月31日までの間は、原則年14.6%の利率であった。改正後も以下の割合でかかってくる。とても大きな負担である。

 

仮に今年(2019年)3億円の相続税に一年間原則の延滞税(8.9%)がかかったとしたら、年間で2670万円もの延滞税を払うことになる。ものすごい金額なのだ。これが、平成26年の改正前だともっとすごい金額になる。

 

[図表]相続税の延滞税の割合
[図表]相続税の延滞税の割合

 

このように多額の税金を払えないということは、とても大変なことであるが、たとえばB氏のように担保価値のある、収益の高い不動産を持っているような場合は、金融機関から借り入れを起こして支払うという方法もある。

 

延滞税に比べ、銀行の借入利息は負担が軽い。事情によっては、借入ができない可能性もあるが、検討はすべきであった。しかし、B氏の奥様とお子様は、借入をすることを思いつかなかったという。

 

そのうえ、高い利息のつく税金を放置し「税務署から連絡や手紙は来ていたが、怖くて中身を見ていなかった」というのだ。

 

B氏は50歳で突然倒れて亡くなったという。まだまだ働き盛り。相続税の対策など考えることもなかっただろう。それでも、都心の一等地にある収益の高い不動産を残してくれたのだ。生活できないことは決してなかったはずである。

 

しかし、残されたお嬢様育ちの奥様とお嬢様は、賃貸経営もままならず、店子に家賃の値下げ交渉をされれば家賃を下げ、ビルのメンテナンスをするといえば、目が飛び出るほど高額な見積もりを出されても、いわれるがままに支払い、相続税の返済が滞っていても、生活レベルを落とすことができず、結果、2倍に増えた税金に困り果てていた。

 

このように、富裕層が富裕層であり続けるためには、財産を引き継ぐ家族、子はもちろん、妻にも財産を守り、育てる覚悟と知恵が必要なのである。

 

なんでも自分たちで解決する必要はない。分からないことをわからないままにしないこと、信頼できるアドバイザーを選び、よい関係を築きあげること。自分の頭でもしっかり考えること。そういった教育を家族にすることが、資産を守り、ひいては家族を守り続けることになる。


 

板倉 京

WTパートナーズ株式会社 代表取締役
WT税理士法人 代表社員
税理士

 

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