かつて税理士は高収入な職業の一つであり、事実、その多くが富裕層でした。しかし、時代の流れとともにその仕事内容は変化を遂げ、以前と同様の収益を上げるには、大量の業務を効率的に行うほかありません。本記事では、認定支援機関税理士、家族信託普及協会会員、相続税務支援協会会員であり、クラウド会計システムの第一人者であるアアクス堂上税理士事務所《相続.tokyo 贈与.tokyo》代表、堂上孝生税理士が、これからの時代に税理士がジリ貧化することなく生き残る方策を探ります。

税理士の多くは「情報革命」に取り残されている

90%以上の中小企業(特に小規模企業群)の税務会計顧問を務める「税理士」。この存在をおいて、ほかに経営指南役はいない。だが、激変する経営環境の指南役となるべき税理士の多くは、残念ながら情報革命に付いていけず、自らも情報デバイドの犠牲者になっている。クラウド会計システム然り、SNS集客方法然り。それはなぜか、どうすればよいのかを探りたい。

 

税理士がおしなべて富裕層であった昭和20年から平成初期。報酬課金システムは、いま脚光を浴びている、いわゆる「サブスクリプション」方式がすでに存在し、彼らの月次顧問報酬を支えた。その課金方式は1945年のシャウプ勧告による納税申告制度下の税務行政とともにあり、税理士界の繁栄ぶりは「税理士は裕福だ」というイメージを国民に根付かせるほど強烈な社会現象であつた。しかし、その繁栄ぶりも昨今は大きく没落の影が見える。高速通信の令和5Gの時代にはさらに鮮明な凋落の趨勢が伺える。

 

1980年代以降、帳簿作成のツールは、そろばんがオフコンへ。オフコンからパソコンへ、パソコンからスマホへ。平成を駆け抜けた会計ツールはいま、音声入力による経理仕訳の自動化の時代へと移る。IoTのAI革命下の令和5Gの時代には、さらに会計環境は激変するであろう。

 

富裕な税理士層のうち、会計部門のスマホ等への情報革新を怠った少なからぬ人たちは、富裕層から滑り落ちた「情報弱者」の一つに数えられる。さすがに最近こそ名刺に「コンピューター会計」を冠しなくなったが、未だクラウド会計を冠する税理士は余り見ない。一世を風靡したコンピューター会計からクラウド会計への時代変化の認識が、税理士業務として「時期尚早」と映るのだろう。

 

その税理士層は特に誰と特定せずに、平成の始めと終わりの統計比較で、どう変わったかを推論するものである。平成の始めころまでの税理士顧問報酬は月5万円、決算申告料30万円程度が相場で、年額では100万円前後になった。それが平成の終わりころは月2万円、決算申告料は6万円程度の年30万円前後だという。

 

さらに小規模事業を相手にするDOGAMI(以下、弊社という)の私見では、その30万円は難しく、年20万円以下の傾向にあると感じる。ちなみに弊社の顧問先一社当たりの年間報酬は平均12万円前後。これもごく近未来に年8万円程度に減ると推定する。報酬単価の下落は顧問先数の増加で補える。蛇足ながら弊社は約2,000社の顧問先を擁している。

「薄利多売」となった税理士ビジネスで勝ち残るには?

中小企業数はざっくりいって400万社(約半数が個人企業)。さらにざっくり毎年約20万社(約半数は個人企業)ずつ減少している(平成28年経済センサス等の諸統計を勘案して筆者が独自で推計)。このことは、毎年の新規起業の企業20~30万社を顧問に加えても、企業存続そのものに安定性がなく、起業家からの顧問料が減ることを意味する。すでに20年前からわかっていた、銀行や顧問先からの紹介による税理士ビジネスの崩壊である。

 

このような経営環境下で税理士の顧問先数の増加には、集客手法が問題になる。昔は銀行や顧問先からの紹介が主流だったが、今はSNS活用が多いようだ。顧問先との人間関係の希薄化に伴い、顧客はネットで安く良質なサービスを探し当てるようになる。顧客集客の手法としてはSNS集客に頼らざるを得まい。サービス報酬は必然的に薄利多売方式に向かう。

 

では、報酬が昔の年90万円が年9万円になるとき、その生産性を10倍にするにはどうするのか? それは「自動経理機能付きのクラウド会計ソフト」の出現により十分に可能になった。スキャナーで領収書等を読み取り、帳簿を自動作成する。預金通帳の会計帳簿への取り込みはインターネットバンキングの利用で自動的にできる。これは経理仕訳の機械化を意味する。結果的に、自動経理機能による生産性は、筆者の感覚では仕訳作業は従前の5倍~20倍に上がった。さらにこの帳簿作成はスキャナー利用することで、まったくの素人にも可能となる。

 

さらに近未来の経理環境の変化をみると、社長は例えば別荘でも出張先でも会計帳簿の最新版を閲覧可能なため、ライバルより素早く営業現場に営業指示を出せる。この自動仕訳と自動帳簿作成のツールである「自動経理機能付きのクラウド会計ソフト」の採用が遅れて、従前のように経理経験者による逐一の領収書等をみて仕訳作業をやっていると、人件費は下がらず、且つ、作業時間が5倍~20倍掛かる。さらに経営戦略面でも素早い経理帳簿がないと営業面や技術開発、或いは商品開発でもライバルに後れをとることになる。

 

この傾向はほんの5年ほど前に始まった経理環境の変化なので、未だはっきりした富裕層の税理士先生の没落話には至っていないと推定する。しかし、マクロ的な企業数の減少傾向下で、経理が経営判断を支援する体制が確立された以上、その経営デバイドは税理士業を直撃するのは時間の問題である。つまり、このクラウド会計ソフトの利用に関する研究開発を怠ると、更なる「富裕な税理士先生」の没落が加速することになる。

 

 

堂上 孝生

アアクス堂上税理士事務所《相続.tokyo 贈与.tokyo》代表

 

 

 

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