一戸建ての特家住宅や賃貸住宅と並んで、ごく一般的な住宅となっているマンション。そのため、私法としても、「マンション法」は重要な法分野となっています。本連載は、早稲田大学法科大学院教授・鎌野邦樹氏の著書『マンション法案内 第2版』(勁草書房)より一部を抜粋し、マンション購入の基礎知識、居住地の財産関係をはじめとした法律問題をわかりやすく解説します。本記事では、分譲業者と管理組合が駐車場の「使用権」をめぐり争った判例を見ていきます。

分譲業者が駐車場の「専用使用権」を設定

◆駐車場の「専用使用権」

 

●紛争の多発と行政の対応

 

区分所有者の共有に属する敷地上の駐車場について、分譲業者が専用使用権設定の当事者となって専用使用権を設定し、さらに、その設定ないし利用の対価を取得することが、かつて多くみられました(下記の旧建設省通達以降はこのような方式は減少したといわれています)。

 

駐車場専用使用権が設定されたマンションについては、その権利の内容をめぐって専用使用権を有する区分所有者とこれを有しない区分所有者の間において、また、対価の帰属をめぐって分譲業者と管理組合の間において、紛争を生じさせることが少なくありません。

 

1979(昭54)年および1980(昭55)年の旧建設省通達(昭和54年12月15日建設省計動発第116号、同建設省住指発第257号、昭和55年12月1日建設省計動発第105号)によって、マンションの分譲が行われる際、分譲業者および仲介者は専用使用権の設定およびその内容につき売買契約書および重要事項説明書などで十分な説明をするとともに管理規約(案)等に明定すること、また、専用使用権の設定および利用から生ずる収益については区分所有者の共有財産に帰属させること等に関して指導がなされました。

 

宅地建物取引業法35条1項6号、同施行規則16条の2第4号は、建物または敷地の一部に専用使用権があるときは、その内容を重要事項説明書の中で説明しなければならないと規定しています。

 

標準管理規約(単棟型)では、駐車場について「専用使用権」の語を用いないこととし、さらに、特定区画に対する独自の権利という誤解を避けるために「使用権」という語も使用しないこととしています(15条)。

管理組合が分譲代金の返還を要求した裁判の判決は?

●駐車場専用使用権をめぐる最高裁判決

 

上で述べたマンションの分譲にあたり分譲業者がその敷地(区分所有者の共有)内に駐車場を設けてこれを一部の区分所有者のみに分譲する販売方式は、①分譲業者の二重売り(二重利得)の疑念を生じさせ、また、②共有する敷地をめぐって、その分譲を受けた専用使用者とこれを受けない非専用使用者(ないし管理組合)との間に紛争を生じさせました。

 

そして①に関しては管理組合が売主たる分譲業者の取得した専用使用権分譲代金の返還を請求し、②に関しては管理組合と専用使用者との間で駐車場専用使用権の存続期間、解約の可否、譲渡性、使用料の増額等が争われる訴訟が増大しました。

 

このような状況にあって1998(平10)年10月、11月の2カ月間に4件の最高裁判決が出されました。このうち2件が①に関するもの(最判平10・10・22民集52巻7号1555頁(ミリオンコーポラス高峰館事件・判解19事件)、最判平10・10・30判時1663号90頁(シャルム田町事件))で、2件が②に関するもの(最判平10・10・30民集52巻7号1604頁(主として駐車場専用使用の解除、使用料増額の可否が問題とされたシャルマンコーポ博多事件・判解20事件)、最判平10・11・20判時1663号102頁(駐車場専用使用の消滅決議および有償化決議の効力が争われた高島平マンション事件))です。

 

①のミリオンコーポラス高峰館事件は、管理組合の理事長が駐車場の分譲代金は分譲業者ではなく管理組合に帰属すべきものとして、分譲業者に対し同対価の返還または引渡しを請求したものです。最高裁は、駐車場の専用使用権の分譲にあたって、分譲当事者および同使用権の分譲を受けなかった区分所有者ともに、その対価は同使用権の分譲の対価であることを認識していたと解されるから、同対価は分譲業者に帰属するものとしました(①のシャルム田町事件においても同様の判断を示しました)。

 

②のうちシャルマンコーポ博多事件について、最高裁は、管理組合は、原則として規約または集会決議をもって専用使用権者の承諾を得ることなく使用料を増額することはできるが、その増額の程度が社会通念上相当な額を超えるときは「特別の影響」を及ぼすとして、専用使用権者の承諾を得る必要があるとしました。

 

また、本件のように訴訟において使用料増額の効力を争っている場合に駐車場専用使用契約の解除をすることは許されないとしました。もう一方の高島平マンション事件は、元の敷地所有者である被告が建設・分譲したマンションについて自らも区分所有者として甲、乙2つの敷地部分につき駐車場専用使用権を留保して無償で使用してきたところ、原告管理組合が、甲については消滅させる旨の、また乙については有償化する旨の決議を集会において行い、その確認を請求したものです。

 

最高裁は、消滅決議については、本件の場合において専用使用権を消滅させることは被告の不利益が受忍限度を超えるから本法31条1項にいう「特別の影響」を及ぼすものであって被告の承諾を得ない同決議は無効であるとし、有償化決議については、原審(第二審)が、使用料の額が社会通念上相当なものか否か等について検討することなく、同決議は被告の承諾がない以上無効であると判断したことは違法であるとしました。

 

 

鎌野 邦樹

早稲田大学 法科大学院

 

本連載は、2017年11月20日刊行の書籍『マンション法案内 第2版』(勁草書房)から抜粋したものです。最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

マンション法案内 第2版

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鎌野 邦樹

勁草書房

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