一戸建ての特家住宅や賃貸住宅と並んで、ごく一般的な住宅となっているマンション。そのため、私法としても、「マンション法」は重要な法分野となっています。本連載は、早稲田大学法科大学院教授・鎌野邦樹氏の著書『マンション法案内 第2版』(勁草書房)より一部を抜粋し、マンション購入の基礎知識、居住地の財産関係をはじめとした法律問題をわかりやすく解説します。本記事では、マンション共用部分の維持や管理に関わる法律を見ていきます。

共用部分の「修繕」は、各個人が自由に行える

◆共用部分の管理と2002(平14)年法改正

 

●管理の3類型

 

専有部分をどのように維持・管理するかは、各区分所有者に委ねざるをえませんが、共用部分の維持・管理については、その共有者である区分所有者全員で決定していかなければなりません。

 

その維持・管理の方法に関して、区分所有法は、民法の共有物の管理の規定(251条、252条)に倣い、次の①〜③の3つの場合に分けて定めています。ただ、民法の規定の仕方と完全に同じではありません(12条参照)。①〜③の詳しい内容については、ここではそれぞれの概要だけ示しておきましょう。

 

①保存行為(共用部分の修繕等)については、各区分所有者が自由に行うことができます(18条1項但書)。この点については、民法上の共有の場合(252条但書)と異なるところはありません。たとえば、自分の住戸の前の廊下が損傷した場合に、まず自らの費用で修補しておいて、後に管理組合(他の区分所有者全員)にその費用を求償することができます。

 

②共用部分の通常の管理(外壁の塗装工事等)は、集会の決議(区分所有者および議決権の過半数での決議)で決します(18条1項本文)。過半数という点は、民法上の共有の場合と同様ですが、民法では「持分の価格」(「持分権の割合」という意味です)の過半数です(252条本文)。

 

民法の対象となる一般の共有物の管理については、その財産権の大小が決定にあたっての主因ですので「持分権の割合」としましたが、共用部分の管理については、それだけではなく、区分所有建物ないし区分所有者の団体の存続を前提として各区分所有者の意思を均等に反映させようということから、「集会の決議」(18条1項本文)すなわち「区分所有者および議決権の各過半数で決する」(39条1項)としました。

 

③共用部分の変更(階段室をエレベーター室に変更する等)は、区分所有者および議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議で決します(17条1項)。民法上の共有物の変更については全員の合意が必要ですが(251条)、区分所有建物において、大多数の者が必要と考える共用部分の変更が全員の合意がない限り不可能であるとすると、区分所有建物の長期間にわたる維持・管理が困難になると考えられることから、特別多数決とされています。ただ、共用部分の変更が専有部分の使用に特別の影響を及ぼすべきときは、その専有部分の所有者の承諾を得なければならず(17条2項)、承諾を得られない限りは、変更は認められません。

 

●2002年法改正と大規模修繕

 

共用部分の変更に関する近年の重要な法改正についてみていきましょう。

 

2002年(平14年)の区分所有法の改正前の規定(旧規定)では、共用部分の変更について、「改良を目的とし、かつ、著しく多額の費用を要しないもの」(軽微変更)を除くとして(17条1項本文括弧書)、このような軽微変更については、過半数の決議によるとされていました。

 

たとえば、廊下の照明設備を1つ2つ増やす場合等が軽微変更に当たります。同改正法(以下、「2002年改正法」といいます)では、この軽微変更の内容について、「その形状又は効用の著しい変更を伴わないもの」と改めました。これは、通常、多額の費用を要する大規模修繕工事について、従来の規定ですと4分の3以上の決議が必要とされると考えられるところ、これを過半数決議で足りるとする趣旨から改正されたものです。

 

定期的に(たとえば10年なり12年なりに1度の割合で)外壁塗装・補修などの大規模修繕工事をしていくことは、マンションの管理にとって不可欠なことであり、これについては、たとえ多くの費用がかかっても過半数決議で足りるとすべきであると考えたのです。

法改正後「大規模修繕」は過半数の決議で実施可能に

●大規模修繕工事についての法改正と旧規約の効力

 

ところで、2002年改正法の施行時における相当数のマンションの規約においては、1983(昭58)年改正法に準拠した1997(平9)年の「中高層共同住宅標準管理規約」に倣い、「共用部分等の変更(改良を目的とし、かつ、著しく多額の費用を要しないものを除く。)」については、4分の3以上の特別多数決で決するものとしており(同標準管理規約(単棟型)45条3項2号)、同規定に従えば、大規模修繕については一般的には特別多数決を要するものと解されていました。

 

今日においても、この点についての規約の変更がなされていないマンションが存在しているものと思われます。標準管理規約は、2002年改正法に準拠して改正され、「マンション標準管理規約(2004(平16)年1月23日改訂)(単棟型)」では、「敷地及び共用部分等の変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)」に関する総会の議事は4分の3以上の特別多数決で決するものと定められています(47条3項2号)。

 

大規模修繕につき特別多数決を要すると定めていた(または、そのように解される)規約について、規約の変更がなされていない場合に、その規約の効力はどのように解すべきでしょうか。

 

法改正前においては、大規模修繕工事は著しく多額の費用を要するものとして、「軽微変更」には該当せず、共用部分の変更に該当するものとして、区分所有者および議決権の各4分の3以上の特別多数決議を要する(旧17条本文)と解されていました。

 

この区分所有者の定数については、規約でその過半数まで減ずることができますが(同条但書)、議決権についてはこれが許されず、その限りにおいて、同規定は強行法規の性格を有していました。

 

すなわち、法改正前においては、大規模修繕工事(著しく多額の費用を要するもの)については、集会の決議において区分所有者および議決権の過半数で決することはできず、また、その旨の規約の定めは許されませんでした。

 

法改正後においては、大規模修繕工事についてこれが多額の費用を要するものであっても、集会の決議において区分所有者および議決権の各過半数で決することが可能となり、また、その旨の規約の定めが可能となりました。その結果、上記のような、特別多数決議を要するとした規約の効力をどのようにみるかが問題となるのです。

 

◆法務省立法担当者の見解

 

法務省立法担当者は、この点について次のように説明しています。「前記標準管理規約〔筆者注:改正前の旧標準管理規約〕は、その規定振りから、区分所有法で特別決議事項とされているものを確認的に明らかにした趣旨にすぎないものと考えられますから、区分所有者の意思解釈からいって、今回の法改正後も、こうした規定の効力がそのまま維持されるとみるのは無理があるでしょう。

 

また、仮に、こうした規定が維持されるとすると、結局4分の3以上の特別多数決議が必要な規約変更の手続を経なければ、大規模修繕を実施することが不可能になって、今回の法改正の趣旨が没却されることになります。したがって、前記標準管理規約のような規定がある場合(大規模修繕の決議要件を4分の3以上の特別多数決と定めてある場合も同様と考えられます。)でも、一般的には、改正法施行後は、普通決議で大規模修繕を実施できるものと考えられます」(吉田・一問一答22頁)。

 

なお、同書は、改正法施行後に大規模修繕を実施するのに4分の3以上の特別多数決を要するとする規約を定めることは可能であるとしています。

 

●管理組合としての対処の仕方

 

法務省立法担当者の説明は、現実に修繕工事の円滑な実施を意図したものでしょうが、旧規約を改めずに、実際には、規約の規定(特別多数決議)とは異なる決議の方法(普通決議)により大規模修繕工事を実施するというのもおかしなものです。それでは、管理組合として実務上はどのように対処すべきでしょうか。

 

このように多額の費用を要する大規模修繕工事について集会の普通決議が許される状況になった場合においては、それが許されない状況で特別多数決議を要すると定めた規約の見直しを図るべきであり、管理者は、やはり規約の改正を議する集会を招集すべきでしょう(書面または委任状(代理人)による議決権の行使も可能です)。規約を改正して集会の普通決議で足りるものとし、そのうえで大規模修繕の実施について区分所有者の意思を問い、集会において普通決議によって決すべきものと筆者は考えます。

 

 

鎌野 邦樹

早稲田大学 法科大学院

 

本連載は、2017年11月20日刊行の書籍『マンション法案内 第2版』(勁草書房)から抜粋したものです。最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

マンション法案内 第2版

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鎌野 邦樹

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