一戸建ての特家住宅や賃貸住宅と並んで、ごく一般的な住宅となっているマンション。そのため、私法としても、「マンション法」は重要な法分野となっています。本連載は、早稲田大学法科大学院教授・鎌野邦樹氏の著書『マンション法案内 第2版』(勁草書房)より一部を抜粋し、マンション購入の基礎知識、居住地の財産関係をはじめとした法律問題をわかりやすく解説します。本記事では、マンション購入者の所有権について見ていきます。

 

Aさんは、最近、マンションの305号室を購入しました。廊下、階段室、エレベーターなどはマンション住人全員の所有で、305号室内の床、壁、給排水管などはAさんの所有であると聞いています。それでは、窓や玄関ドアは、どちらの所有なのでしょうか。

購入者が持つ「区分所有権、共有持分権、敷地利用権」

1 専有部分・共用部分・敷地

 

Aさんの購入したマンション
Aさんの購入したマンション

 

マンション内の一住戸を購入したり相続したりしてその所有者となった者は、マンションの建物と敷地に対して、どのような権利を有することになるでしょうか。マンション内の一住戸に対する所有者の権利は、建物の「専有部分」(マンションの住戸部分)に対する単独の所有権(区分所有権)と、それ以外の建物部分である「共用部分」に対する共有持分権、および建物の「敷地」に対する敷地利用権(所有権の場合も「敷地利用権」といいます)からなっています。

 

マンションの一住戸(305号室など)を購入した人は、この3つの財産権をワンセットで持つことになるのです。

 

冒頭の事例でいえば、専有部分である305号室はAさんに区分所有権があり、マンションの玄関ホール、廊下、階段室、エレベーターなどの共用部分はマンション住人(区分所有者)全員の共有であり、また敷地もマンション住人(区分所有者)全員の共有(または借地権の共有)となります(下記図表)。

 

[図表]マンション購入者(区分所有者)の建物と敷地に関する権利
[図表]マンション購入者(区分所有者)の建物と敷地に関する権利

 

2 専有部分・区分所有権・区分所有者

 

区分所有法では、「一棟の建物に構造上区分された数個の部分で独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるものがあるときは、その各部分は、この法律の定めるところにより、それぞれ所有権の目的とすることができる」と定めています(1条)。

 

このような一棟の建物の「構造上区分された」部分(構造上の独立性)で、かつ、「建物としての用途に供することができる」部分(機能上の独立性)を「専有部分」と呼びます(2条3項)。Aさんのマンションの各住戸部分がこれに当たります。そして、これを目的とする所有権を「区分所有権」と呼び、区分所有権を有する者を「区分所有者」といいます(同条1項、2項)。本連載第4回で述べたように、専有部分の用途が住居である区分所有建物を「マンション」といいます(マンション管理適正化法2条1号)(関連記事『「マンション」と「アパート」の違いは? 法律上の定義を解説』参照)。

 

もちろん、区分所有建物の中には、いわゆる専有部分の用途が事務所や店舗などのような「商業ビル」や、専有部分の用途として住居と事務所・店舗の両者が並存する「複合ビル(複合型マンション)」もあります。

 

冒頭のAさんは、購入したマンション(住居専用型マンション)の305号室という「専有部分」に対して「区分所有権」を有しており、Aさんをはじめこのマンションの各住戸を購入した人は、すべて「区分所有者」となります。

 

なお、区分所有者のなかには、自分は、その住戸には居住せずに、それを他人に賃貸している者がいる可能性があります。このような区分所有者も、当然に管理組合の構成員(組合員)となります。住戸の賃借人が構成員となることはありません。

どこまでを「専有部分」と考えることができるのか?

3 一物一権主義と区分所有権

 

「区分所有」という考え方が成立する前には、一棟の建物については1つの所有権しか認められていませんでした(わが国では、区分所有法の制定された1962(昭37)年より前はそうでした)。このような1つの物に1つの物権(所有権等の物に対する支配権)しか認められない原則を「一物一権主義」といいます。

 

建物等の物の一部(一住戸、一部屋)だけに所有権を認めることは、いたずらに法律関係を複雑にし、紛争を生じさせかねないと考えていたのです。実際には、戦前から、棟割長屋式の各住戸部分が所有権の対象となる建物は存在しており、また、今日のマンション形式の建物も僅かにありましたが、そのような建物が圧倒的に少なかったこと、および一棟の建物内の階数ないし住戸数が多くなかったことから、法律上、問題視されませんでした。

 

しかし、戦後、公団や公社、または民間において徐々に実際上は「区分所有」として分譲される建物が建設され売り出されるようになり、その法律関係、特に、財産関係を明確にするために法を整備しておく必要が出てきました。

 

このような背景のもとで、1962年に区分所有法が制定されました。当時、約1万戸(住戸数)の区分所有建物があったということです。立法にあたっては、すでにマンション形式の建物に関する法律を有していた外国の立法が参照され、そこでは、複数の者が建物全体を共有して各自が各住戸部分を専用使用できるという法制(スイス等)と、各自が一棟の建物の各住戸部分を単独で所有しその他の建物部分を共有するという法制(ドイツやフランス等)とのどちらを選択するかが問題とされましたが、結局、後者が選択されました。

 

その結果、区分所有法によって、一棟の建物の一部(専有部分)が「一物」とされ、1つの所有権(「一権」)の対象とされることになったのです。

 

4 専有部分は空間のみか

 

それでは、Aさんの305号について、どこまでがAさんの「専有部分」なのでしょうか。言い換えれば、どこまでがAさんだけの単独の所有物なのでしょうか。305号室内の壁、天井および床などの区隔部分(専有部分を他の専有部分または共用部分から区隔する壁、柱、床、天井等を区隔部分といいます)のすべてでしょうか、それとも、それらは「専有部分」には含まれず、それらに囲まれた空間だけを所有するのでしょうか。この点については、大きく次の3つの考え方があります。

 

① 区隔部分はすべて共用部分であり、専有部分の範囲には含まれないとする説(「内壁説」等と呼ばれています)。すなわち、専有部分は空間のみと考える説です。

 

② 区隔部分はすべて専有部分であって、したがって、その厚さの中央までは当該専有部分の範囲に含まれるとする説(「壁心説」等と呼ばれています)。

 

③ 区隔部分の骨格をなす中身の部分(壁心)は共用部分であるが、その上塗りの部分は専有部分に含まれるとする説(「上塗説」等と呼ばれています)。区分所有法の立法過程おいて法務省立法担当者が提示した見解であり、現在も法務省はこの説を妥当としています。

 

これらの諸説のうち、①に対しては、同説によると専有部分は空間だけになり、区分所有法が建物の部分としての専有部分について所有権を認めていることと矛盾し、また、区分所有者は内装工事もできないことになるという批判があります。

 

また、②に対しては、区隔部分の中心まで各区分所有者が自由に変更することができることになって、建物の維持管理という観点から妥当ではないという批判があります。結局、③説が妥当でしょう。

 

したがって、Aさんが単独で所有しているものは、305号室の上・下、四方の区隔部分の内側の(わずか数ミリ程度の)上塗り部分ということになります。それ以外は、基本的に他の区分所有者全員との共有です。このようにみると、Aさんの所有するマンションの大半は、物理的には、他の区分所有者との共有物です。

 

5 専有部分の内部にある支柱等

 

ところで、マンションの中には、住戸(専有部分)内部にマンション全体の基礎となる支柱や耐力壁といった躯体部分があるものがあります。「躯体部分」とは、建物全体を維持するために必要な建物の部分をいいます。支柱、耐力壁、基礎・土台部分、屋根、屋上、外壁等がこれに当たります。

 

このような支柱や耐力壁等が専有部分の内部にある場合には、それらが専有部分に含まれるか否かが問題となります。これらについては、基礎・土台部分、屋根、屋上、外壁等のその他の躯体部分(これらはいずれも共用部分)と同じように、建物全体の存立にとって不可欠のものですから、支柱や耐力壁等の躯体部分のすべてを専有部分と考えること(前記②説)はできず、他方で躯体部分が専有部分内部にあることを考慮すると、躯体部分の骨格をなす中身の部分は共用部分であるが、その上塗りの部分は専有部分に含まれると解する(前記③説)のが妥当でしょう。

 

 

鎌野 邦樹

早稲田大学 法科大学院

 

本連載は、2017年11月20日刊行の書籍『マンション法案内 第2版』(勁草書房)から抜粋したものです。最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

マンション法案内 第2版

マンション法案内 第2版

鎌野 邦樹

勁草書房

購入、建物維持・管理、定期的な大規模修繕、建替えに至るマンションのライフサイクルに即した具体的事例を、やさしい語り口でわかりやすく解説。民法、被災マンション法、建替え等円滑化法等の法改正、最新の統計資料、重要判…

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