一戸建ての特家住宅や賃貸住宅と並んで、ごく一般的な住宅となっているマンション。そのため、私法としても、「マンション法」は重要な法分野となっています。本連載は、早稲田大学法科大学院教授・鎌野邦樹氏の著書『マンション法案内 第2版』(勁草書房)より一部を抜粋し、マンション購入の基礎知識、居住地の財産関係をはじめとした法律問題をわかりやすく解説します。本記事では、マンション欠陥と責任追及について見ていきます。

 

Aさんは、いくつかのマンションを家族で見学し検討した結果、駅に近い、あるマンションの305号室を購入することにしました。万一、入居後に、購入したマンションについて欠陥が発見されたら、誰に対してどのような責任追及ができるのでしょうか。

中古と新築で「専有部分の欠陥」の判断基準が異なる

1 マンションの欠陥

 

上記であげたマンションの欠陥に関する法的問題について考えてみましょう。

 

◆民法の改正(2017年)

 

ところで、マンションの欠陥については、2017年の民法の改正(同年6月2日公布)前には、売買についての570条で「売買の目的物に隠れた瑕疵」と、また、請負についての634条で「仕事の目的物に瑕疵があるとき」として、「瑕疵」といっていました。しかし、改正後の民法では、「契約不適合」と定めました。

 

すなわち、売買についての562条で「引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の目的の内容に適合しないものであるとき」と定め、また、請負についての636条で「請負人が種類又は品質に関して契約の目的の内容に適合しない仕事の目的物」と定めて、改正前の「瑕疵」を包含するものとして、「契約の目的の内容に適合しないもの」(「契約(内容)不適合」)という概念に改めました。

 

これは、例えば、マンションの欠陥についても、それが欠陥(「瑕疵」)に該当するか否かについては、一律にどのような場面にも当てはまる客観的な基準があるわけではなく、また、それが隠れた「欠陥」であるか否かについても必ずしも明らかではなく、当該契約の内容次第で「欠陥」に当たるか否かが決定されることを明確にしたものです。

 

これまでの「瑕疵」の判断においても、実際には当該契約の内容に照らして「欠陥」に当たるかどうかの判断がなされてきました。マンションの売買の場合において、たとえば中古売買と新築売買とでは、住戸(専有部分)の「欠陥」の判断基準は一般的には異なることになります。

 

以下では、マンションの欠陥に関する法的問題について、次の2つの場面を想定して考えてみましょう。

 

◆建物の専有部分の欠陥と共用部分の欠陥

 

〔場面1〕

aは、bから既存(中古)のマンションの301号室を買いましたが、買受け後、間もなくして、bが売買に先だって依頼した工務店cによる室内の改築(リフォーム)工事に起因する欠陥を発見しました。aは、誰に対してどのような請求ができるでしょうか。

 

〔場面2〕

Aは、建設会社Bが施工・建築したマンションの501号室を分譲会社Cから5年前に購入しましたが、このたび同マンションの管理組合が専門家に依頼して耐震診断をしたところ、同マンションの耐震強度が法律が定めるものより著しく劣っていることが判明しました。また、購入当初から同マンションのベランダの手すりにはぐらつきが見られました。Aまたは同マンションの管理組合は、これらの欠陥について誰に対してどのような請求ができるでしょうか。

 

〔場面1〕は、比較的日常的に生じる問題です。〔場面2〕については、一級建築士耐震強度偽装事件(2005年発覚)や、横浜市の2つの大手不動産会社が分譲した基礎杭未達・傾斜マンション事件(2014年、2015年発覚)が思い浮かぶでしょう。〔場面2〕の前者の事件では分譲会社に対して法的責任は追及できてもその賠償能力の点で問題がありました。そこで、同事件後に「特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律」(住宅瑕疵担保責任履行確保法)(2007(平19)年。2017年の民法改正により所要の改正がなされました)が制定されました。

 

さらに、このようなケースにおいて、直接に建設会社に対しても法的責任を問い得るとする最高裁判決(最判平19・7・6民集61巻5号1769頁・判解88事件)が出されました。以下では、これらの最近の事情を踏まえて、〔場面1〕および〔場面2〕における法的責任の追及のあり方について考えてみましょう(以下は、基本的に2017年(平成29年)の改正民法に基づくものです)。

 

2 専有部分の欠陥(〔場面1〕)

 

◆買主の追完請求権

 

〔場面1〕では、aは、自分が購入した住戸部分(専有部分)の欠陥について、新築、中古の別を問わず、また、欠陥の原因が分譲前のc工務店の工事が原因であっても、a・b間の売買契約の内容に適合しない場合には、bに対して、その部分の修補による履行の追完を請求することができます。bは、その買主の追完請求権欠陥の原因は自分にあるのではなくcにあることを理由として、売主の責任を免れることはできません。

 

売主は、対価を得る以上、それに見合った契約の内容どおりの目的物を買主に提供する必要があるからです(なお、修補請求を受けたbは、その後、注文者として請負人cに対して、b・c間の請負契約に基づいて修補請求をすることができます(改正法636条))。

 

改正法により、従来の売主の「瑕疵担保責任」の規定(570条、566条。修補の定めはありませんでした)から買主の「追完請求権」の規定(562条)に改められました。

 

買主に修補請求が認められるかどうかは、もっぱら当該契約の内容しだいということになります。既存(中古)の建物であっても住宅の売買においては、たとえ契約書に記載がなくても、一般的に雨漏りや水漏れがする建物については契約の内容に適合していないといえるでしょうが、既存(中古)建物の場合の損耗や損傷については、一律に契約不適合とはいえないので、契約書の文言だけではなく、当該売買契約の締結に至った事情や当該建物の状態・価格等から「契約適合性」の判断がなされます。

 

その欠陥が契約の内容に適合しない場合に、買主aは、売主bに対し、原則としては相当の期間を定めて履行の追完(ここでは修補)を催告し、その期間内に履行の追完がないときは、aは、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができます(563条)。

 

◆契約の解除と損害賠償請求

 

それでは、aは、改正前の瑕疵担保責任の追及においては認められていた契約の解除や損害賠償請求(旧570条、566条)は認められないのでしょうか。改正法でも、これらは認められます(564条)。上で述べた履行の追完(修補)を請求し、または代金の減額を請求した場合でも、契約の解除や損害賠償請求はできます。

 

ただし、履行の追完(修補)がなされた場合、または代金減額がなされた場合には、契約の解除はできません。

 

まず改正法564条の損害賠償請求については、aは、bに対して、民法415条の規定(債務者bの帰責事由に基づく債務不履行)に基づき、民法416条に規定する範囲の損害の賠償を請求することができます。次に改正法564条の解除については、改正法の541条・542条の規定によるとされています。

 

改正法の543条の規定では、改正前の同条ただし書きの規定のように債務者の帰責事由のあることが解除の要件とされていませんので、改正法の541条・542条の規定に基づく解除について帰責事由は要件とされていません。

 

したがって、aは、bに対して、売主bに帰責事由がない場合でも、改正法564条に基づき売主契約の解除をすることができます。ただし、債務不履行に当たるその欠陥が当該契約や社会通念に照らして軽微であるときは、解除することができません(改正法541条ただし書き)。

 

◆担保責任の期間の制限と免責特約

 

以上の請求ができる期間については、買主aが契約不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しなければならないとされました。ただし、売主bが引渡しの時に契約不適合について知っていたか、または重大な過失によって知らなかったときには(売主の悪意・重過失)、このような期間制限は受けません(改正法566条)。

 

以上のような民法上の売主担保責任を修正したり免除する特約も有効と解されます(572条本文)。ただ、売主bが宅地建物取引業者である場合に、宅建業法は、宅地建物取引業者は民法で定める期間の制限について目的物の引渡しの日から2年以上となる特約をする場合を除いて、民法に規定するものよりも不利となる特約をしてはならないと定めています(40条)。

 

また、売主bが事業者である場合に、消費者契約法は、消費者である買主に対する所定の不利な特約について制限を設けております(8条1項5号、2項)。なお、〔場面1〕の場合には、「新築住宅」ではないので、もっぱら「新築住宅」を対象とする住宅品質確保促進法の適用はなく、これによる特別な保護(新築住宅取得者に所定の部分についての修補請求を認め、担保期間を10年間とし、また担保責任に関し住宅取得者に不利な特約を無効としています(同法95条))はありません。

共用部分の欠陥…「管理組合による責任追及」が効果的

3 共用部分の欠陥(〔場面2〕)

 

〔場面2〕では共用部分の欠陥を原因とする買主の売主に対する上述の追完請求等の担保責任の追及が問題となっています。Aが個別で責任追及することも可能ですが、実際には管理組合で責任追及する方が効果的です。2002(平14)年の区分所有法の改正により、管理者(管理組合理事長)も、区分所有者を代理して共用部分について生じた損害賠償請求権を行使することが可能となりました(26条2項)。

 

しかし、管理者が売主に対する売買契約上の担保責任を追及する場合に、現在の各区分所有者の売主が必ずしも分譲時の売主(当該マンション分譲業者)ではないことから実際には困難をともないます。上の例でも、〔場面2〕でのAにとっての売主は分譲業者Cですが、〔場面1〕でのaにとっての売主は分譲業者Cではなくbです。

 

ところで、前記の一級建築士耐震強度偽装事件においては、多くのマンションでは分譲後早期に耐震偽装が発覚したことからほぼ全区分所有者の売主が当初の分譲業者であったため、上記の問題は生ぜず管理者の売主に対する責任追及が一本化できました。しかし、実際には売主の賠償能力がありませんでした。

 

そこで、前記の「住宅瑕疵担保責任履行確保法」(2007(平19)年。2017年の民法改正により所要の改正)により、宅地建物取引業者(または建設業者)が買主(または注文者)に対する担保責任の履行を確保するため供託または付保する住宅販売(・住宅建設)担保保証金・責任保険(11条1項・2項、3条1項・2項)の制度が設けられました。この供託金または保険金によって売主は買主からの賠償請求に実際上応ずることが可能となりました。

 

4 建設業者の責任

 

さて、〔場面2〕の場合に、管理者はどのようにしたらよいでしょう。ところで、そもそもこのような欠陥のある危険な建物を供給した者は、建設会社B(および設計者・工事監理者)です。このような観点から先に掲げた最高裁平成19年7月6日判決は画期的な判断をしました。

 

同判決は、「建物としての基本的な安全性」を損なう欠陥(瑕疵)について、それにより損害を受けた者は、施工者・設計者に対して不法行為責任(民法709条)を追及できるとしました(同判決の事例はマンションではありませんが、同判決はマンションの場合にも適用できます)。

 

そして、ここでの欠陥には、「建物としての基本的な安全性」に照らし、建物の躯体部分(構造耐力)に関するものだけでなく、たとえばベランダの手すりの欠陥も含まれうるものとしました。

 

そこで、〔場面2〕のような共用部分の欠陥については、管理組合として修繕を余儀なくされることから修繕相当額の損害が生じ、その損害の賠償を、管理者は、建設業者Bに対してすることができると考えることができます。

 

このような権利行使は、損害を知った時から、すなわち欠陥を発見した時から3年(または、欠陥が存在した時、すなわちマンションの分譲の時から20年)内にすればよい(民法724条)と考えることができます。

 

ただ、建設業者Bの賠償資力については、前記「住宅瑕疵担保責任履行確保法」には不法行為責任に関する規定がないことから同法の適用は難しいと考えられますので、実際にはこの点に関しての問題(立法上の課題)は残ります。

 

 

鎌野 邦樹

早稲田大学 法科大学院

 

本連載は、2017年11月20日刊行の書籍『マンション法案内 第2版』(勁草書房)から抜粋したものです。最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

マンション法案内 第2版

マンション法案内 第2版

鎌野 邦樹

勁草書房

購入、建物維持・管理、定期的な大規模修繕、建替えに至るマンションのライフサイクルに即した具体的事例を、やさしい語り口でわかりやすく解説。民法、被災マンション法、建替え等円滑化法等の法改正、最新の統計資料、重要判…

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