4週間以内に中国との合意がありうることを示唆した米トランプ大統領。関税や著作権など、残る課題の着地点はどこに落ち着くのか。本記事では、Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence BankのCIO長谷川建一氏が、米中通商協議の現状からメインシナリオを展望する。

関税や知的財産権など、残る課題の解決へ「4週間」

トランプ米大統領は4月4日、通商協議で訪米中の劉鶴・中国副首相との会談の冒頭で、中国との通商合意が進展しており、「非常に歴史的」な合意形成が近いことに言及した。合意の枠組みをまとめるのに4週間、詳細を文書化するのにさらに2週間を要するとの見通しも示した。また、合意できれば習近平・中国国家主席と首脳会談を開催すると表明した。

 

米中は、米国側がライトハイザー通商代表部(USTR)代表、ムニューシン財務長官が、中国側が劉鶴副首相が、このところほぼ毎週、ワシントンと北京を相互に訪問して、中米経済貿易ハイレベル協議を行ってきた。今回は3月28-29日の第8回に続く9回目の協議の一環としてトランプ大統領が劉鶴副首相と会談した。

 

中国新華社通信によると、劉副首相は習主席からのメッセージとして、米中通商交渉が双方の懸念について前進を続けることに期待し、米中関係を健全かつ安定したものに確実にするために戦略的リーダーシップの必要性をトランプ大統領に伝えたという。また劉副首相は、トランプ大統領の直接的な関与によって大きな進展があり、「新たなコンセンサス」に達したと述べた。

 

ただ、ライトハイザーUSTR代表は、中国にある貿易障壁の改革にコミットする劉副首相の姿勢は心強いとしたが、解決すべき大きな問題はまだ残っているとの見解を示した。トランプ大統領も、残る課題には関税や知的財産権などが含まれており、懸案事項が解決されなければ中国に米国との貿易を継続させるのは難しいとの警告も忘れなかった。それらの解決に4週間程度は時間が必要とみているのだろう。

対米配慮ににじむ中国政府のコミットメント

中国側は、先月の全人代で李中国首相が、双方二国間で約束したことはしっかりと履行すると述べたように、通商協議の進展には肯定的な見方を示している。政府活動報告の中でも、米国からはやり玉に挙げられてきた産業育成政策のスローガンである「中国製造2025」を使うことを控えるなど、中国側は、米中通商協議の成功を最優先に対米配慮をしてきた。全人代で経済成長を下支えする政策を公表した習政権は、習国家主席・李首相・劉副首相とも一枚岩で米中通商協議の着地へのコミットを明確にしている。

 

トランプ大統領にとっても、任期三年目で次の大統領選挙が視界に入ってくる時期である。この時期に、経済失速を招きかねない関税合戦のエスカレートは回避して、経済成長を維持したいとの思惑が働くだろう。ちなみに、3年目に経済失速した大統領は、カーター、ブッシュ(父)といすれも一期で大統領を退いている。米中首脳双方に、通商協議を着地させたいとのインセンティブは大きい。今回4週間という時間の枠組みと首脳会談のアレンジが想定されていると示されたことは、通商協議の着地を予感させる。

 

なお、筆者は、米中通商協議が決裂しないことを前提に、中国経済が政策発動・リスク回避策が奏功し、一旦底打ちすることをメインシナリオとしている。そうなれば、米国経済にとってもひとつ足かせが取れ、市場が懸念しすぎている経済腰折れシナリオの回避の可能性が高まることにつながるだろう。楽観は禁物だが、悲観しすぎても相場に乗れないと再び申し上げておきたい。

 

 

長谷川 建一

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

 

 

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    本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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