オーストラリア政府は4月2日、2019年度(2019年7月から2020年6月)の予算案を発表した。2019年度は、財政収支が黒字に転換し、黒字幅は71億豪ドル(約50億米ドル)に達するとの見通しを示した。これは、昨年12月時点で示された予測を30億豪ドル分、上回るものである。実際に、財政黒字が実現すれば、リーマンショック前の2007年度以降で初めてのこととなる。

1,000億豪ドル規模のインフラ投資を実施へ

財政収支をこれほど改善させたのは、オーストラリアの主力輸出資源である鉄鉱石の価格が上昇したからだ。オーストラリア政府は、2018-19年度の鉄鉱石の平均価格を55米ドル/1トンとしていたが、足元の鉄鉱石価格は同80米ドルを超えて推移しており、想定以上に貢献している形である。政府の試算では、鉄鉱石価格が10米ドル/1トン上昇すると、平年の産出量なら2019-20年度の税収は36億豪ドル増加する見込みらしい。

 

財政が黒字転換するこの見通しをもとに、オーストラリア政府は、低中所得者向けの所得減税、中小企業向けの減税・支援策、今後10年間で1,000億豪ドル規模のインフラ投資の実施計画、教育・ヘルスケア向け財政支出の増加を、予算案の発表の中で明らかにした。

足元の経済成長はやや軟化

足元のオーストラリア経済は、プラス成長を1991年以来29年間の長きにわたって、継続してきているが、経済成長のペースそのものは、昨年末ごろから見通しの下方修正が続いてきた。

 

豪州準備銀行(RBA)は、3月の金融政策理事会の時点では、オーストラリア経済の2019年実質GDP(国内総生産)成長率を従来通りの「3%近辺」で、不変であるとしていたものの、2018年後半に入ってからは経済成長が減速傾向を鮮明にしたことを認めていた。そして、4月の理事会では、2019年度の成長率見通しを3%とするくだりを政策委員会後の声明から削除し、やや厳しい見方に転換している。

 

不動産市況が、特に住宅を中心に投資が減少に転じたことや、オーストラリアが大規模な干ばつに見舞われたため、農産物を中心に輸出が減少したことが主な要因と見られる。また米中が角突き合わせる貿易摩擦の影響や中国経済の減速感が、相対的に輸出依存度の高いオーストラリア経済のリスク要因として指摘された。

 

オーストラリア財務省も2019年度の経済成長予測は2.25%。来年度と再来年度の経済成長予測はともに2.75%と控えめに見込んでおり、昨年までのような3%成長は見込んでいない状況である。

 

このため、RBAは4月の金融政策理事会で、3月に続いて政策金利を据え置き、状況を見極める姿勢を見せている。加えて、市場の一部に、RBAが今年後半にも利下げに踏み切ることを予測する見方も浮上するなどしており、オーストラリアドルはやや不安定な動きを続けてきた。

 

長期的に見ても、1豪ドル=0.70米ドル台にある現在の水準は、安値圏である。2015年に0.70ドル台を付けた後に、2017年にかけて、0.81ドル台まで、戻す局面もあったが、主要輸出先である中国の経済成長鈍化のから影響を受け、成長鈍化懸念から2018年は売り圧力を受け、再度現在の0.70ドル水準へ下落してしまったが、反騰のきっかけになるかどうかを見極めていきたい。

 

今後は、財政出動の余地もある上に、個人消費、企業の設備投資は安定成長見通し、輸出産品への堅調な需要も持続が予想され、いずれも経済成長に寄与するだろう。順調なら、オーストラリア経済は今後2~3年でも、緩やかな拡大基調を維持すると予想される。加えて、財政収支が黒字に転じ、2019年度の純債務はGDP比18%にまで低下する見通しであることや、長期的には2029/30年度までに、純債務の解消も見込まれることを加味すれば、オーストラリアへの見直しの契機はそれほど遠くなく、長期的な豪ドルの反騰を期待できるのではないか。

 

なお、オーストラリアでは5月までに総選挙が予定されている。今回の予算案が、すんなり通るかどうかは、総選挙の結果次第の面はあり、与党・保守連合の支持率が最大野党・労働党の支持率を下回っていることは気がかりながら、財政健全化と景気刺激的な内容の予算案は一定の評価をすべきだろう。

 

 

長谷川 建一

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

 

 

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    本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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