積立投資で「リスク」が減るわけではないが…
◆積立投資をバカにするなかれ
読者のみなさんのなかには、まだ30歳前後で、これから資産形成を始めたいという方も多いのではないかと推察するわけですが、手元に1000万円、あるいは2000万円といった、まとまった資金を持っていますか?
もちろん、本当にお金持ちで、実際に数千万円のお金を持っている若い方も、当然ですがいらっしゃいます。でも、大半の30歳前後の方は、結婚、出産、持ち家購入など、何かと物入りなライフイベントが次から次にあって、なかなかまとまった資金がないという方が多いのではないでしょうか。そういう普通の会社勤めの方にとって最適なのが、毎月一定額を投資に回す「積立投資」です。
一方、「積立投資は無意味」と主張する人がいます。
その理由は、「積立投資をしたからといってリスクが減るわけではない。将来、値上がりすると考えているから投資するわけだから、分割して投資するよりも、一括で投資した方が効率的だ」というものです。
一理あります。確かに、積立投資をしたからといって、運用対象のリスクそのものが低減されるわけではありません。ソニーの株式をまとまった資金で一括購入しても、あるいは複数回に分けて分割購入しても、ソニーの株式が持っているリスクに変わりはありません。
また、値上がりする前提で投資するのだから、分割で購入するよりも、株価が割安と思われる水準で、一括購入した方が効率的であるというのも、その通りです。
でも、やはり積立投資しましょう。
若い頃からはじめれば、積立投資の威力が大きくなる
◆「つみたて」のメリットとは
また、積立投資を敬遠する声として「運用対象の適正価値を正確に計算できれば、一括投資した方が効率的」という意見もありますが、書籍『毎月3万円で3000万円の「プライベート年金」をつくる 米国つみたて投資』は「資産形成は投資信託で」ということを強く打ち出しておりますので、この意見は意味を持ちません。
というのも、個別の株式とは異なり、投資信託の適正価値を計る方法など存在しないからです。つまり、手元資金に乏しい若い人が投資信託で資産形成をする場合は、積立投資で臨むのが最適であると考えます。
積立投資によって得られる「ドルコスト平均効果」は、メリットのひとつとして覚えておいた方が良いでしょう。
ドルコスト平均効果とは、同じ投資信託を「毎月等金額」で購入し続けることで得られるもので、平均の買付単価を引き下げる効果のことです。
たとえば1万口あたりの基準価額が1万2000円で、これが1万円まで値下がりしたとしましょう。1万2000円で10万円分を一括購入した人は、どうなるでしょうか。この場合、1口あたりの購入価格は1.2円なので、10万円分だと8万3333口購入できます。これが1口=1円まで値下がりした場合、10万円が8万3333円になります。つまり1万6667円の損失です。
では、これを毎月2万円ずつ5回に分けて購入したことにしましょう(下記図表1)。
一括で買った時と同様、最初の買付時の基準価額は1万2000円で、5回目の基準価額は1万円ですが、分割で買っているので、買付単価を平均化できます。ちなみにこのケースだと、一括購入と同じく投下した金額は10万円ですが、買付口数は10万2937口になります。
これに対して一括購入の場合の買付口数は、投下資金10万円に対して8万3333口。この時点で、口数は1万9604口の差があります。これが効いてくるのです。
これは平均の買付単価を計算すると分かります。一括購入した場合の買付単価は1万2000円で変わらずですが、分割で購入した場合は、買付単価10万円に対して買付口数が10万2937口ですから、平均の買付単価は一万口あたり9715円になります。
もちろん実際には、こんなに都合良く基準価額が動くはずもないのですが、あくまでもシミュレーションということで、ご容赦ください。若い人ほど「時間」があるので、この「つみたて投資」の威力が大きいのです。
積立の効果をご理解いただけたでしょうか。一括購入の場合、基準価額が1万円まで下がった時点で1万6667円の損失が生じていますが、1回目から5回目まで、このケースの基準価額で購入すると、2937円の利益が出ているのです。
太田 創
株式会社GCIアセット・マネジメント
エクゼクティブ・マネジャー(投資信託ビジネス担当)