「デコトラ」は完全な自営業
さて、これまでの連載で、ドライバーのタイプをいくつか紹介しました。ここまで読んだ人の中には、映画『トラック野郎』に出てくるようなデコトラのドライバーはどこに分類されるのだろうかと思う人がいるかもしれません。
いわゆるデコトラのドライバーは、流しのドライバーとも言われるタイプで、そのほとんどが個人で運送業を行う個人事業主であり、自営業です。そのため、ここで紹介したドライバーのタイプには含まれません。筆者の会社のような運送業者のドライバーも、自社製品を運ぶドライバーも、どちらも会社に属している社員型のドライバーですので、どこにも所属していない個人事業主のドライバーとは働き方や雇用形態が根本的に違うのです。
受注までの流れで比べてみると、運送業者の場合は、会社が依頼を受け、その依頼をドライバー内で振り分けます。つまり、依頼を受ける人と実際に運ぶ人が別です。
一方、個人事業主のドライバーは、ドライバーであり、営業であり、社長でもあります。そのため、まずは自分で営業するなどして荷主から依頼をとるか、または地域で運送依頼を束ねているグループなどに入り、元締めから仕事を引き受けます。収支が合うか考えるのも自分ですし、運ぶのも自分です。
そう考えると、仕事の自由度という点では、流しのドライバーが究極的な存在なのかもしれません。自分で仕事を引き受けるかどうかを決めますし、トラックも自分の所有物ですから好きにデコレーションできます。また、働けば働くほど稼げるのが個人事業の特徴でもありますので、やる気次第では社員型のドライバーよりも大きく稼げるでしょう。
コスト高騰で厳しさを増す、「デコトラ」の維持管理費
かつては流しのドライバーが重宝されていた時期もあります。ドライバーを使う運送業者は、できる限り事故リスクを避けたいと考えます。ドライバーを雇い、固定費として人件費が発生するのも避けたいと思います。そういう事情で流しのドライバーを使うケースが多かったのです。
もちろん、ドライバーの目線から見ると、決して望ましい働き方とは言えません。事故などを起こした場合、自分が全責任を負うことになるからです。自由と責任はセットという表現がありますが、流しのドライバーはまさにその典型です。完全に自由である一方、運転・運送に関する全ての責任を個人で負う働き方なのです。
また、トラックドライバーといえばデコトラというイメージもいまだ根強いのですが、その数は大幅に減っています。実際、道路を走っていてデコトラを見かける回数も少なくなったのではないでしょうか。
その理由となっているのが、お金です。つまり、商売としての採算が合わず、やめてしまう人が多いのです。デコトラを生業とする場合、まずトラックを買う必要があります。デコトラにするならデコレーションしなければならず、そこでもお金がかかります。また、デコレーションの状態によっては車検を通らない場合もありますので、その都度仕様を戻し、再びデコレーションすることで、さらにお金がかかります。しかも、普通車の車検は2回目から2年に1度ですが、トラックの車検は、新車で2年(大型は初回から1年)、以降1年ごとです。もう一つ収支を圧迫しているのが燃料コストです。
ディーゼル車の燃料となる軽油の価格を見てみると、2000年前後は1リットル60円台でしたが、2000年台から急激に上がります。2005年以降は100円以上で推移しており、20年前と比べて1・5倍の水準で高止まりしています。デコトラは自営業ですから、トラックの購入やメンテナンスだけでなく、燃料代や高速代といった必要経費も自己負担です。個人事業の利益計算は一般的な会社と同じで、荷物を運び、売上を得て、そこから経費を引いた分が利益になります。燃料費を中心とするコスト負担が増えれば赤字になる可能性が増えます。そういった事情から、やめる人が増え、新たにデコトラをやろうと考える人が減っているのです。
鈴木朝生
丸共通運株式会社 代表取締役