国内トラックドライバーは約83万人、10代20代は減少
自営業でデコトラドライバーをやろうと考える人が減っている一方、運送業者の社員としてドライバーになろうと思う人は減っていません。ただし、増えてもいません。直近のデータを見てみると、国内のトラックドライバーは83万人ほどで、この10年ほど同水準で推移しています。また、ドライバーの総数は変わっていないのですが、若いドライバーは減っています。
ドライバーを年齢別にみると、2000年から2010年ごろまでは全体の4割が10代と20代のドライバーでした。しかし、それから10年の間に3割未満まで減っています。つまり、日本全体の状態と同じで、ドライバーの世界も高齢化が進んでいるのです。
若いドライバーが減っている理由としては、そもそも社会全体として若い人の数が減っていることが挙げられるでしょう。どの業界でも若い人を求めますので、少子化が進むほど取り合いになります。トラック業界は、仕事の内容や収入面・働き方の面での魅力などがいまいち伝わっていないため、若い人の獲得に苦労するのはある意味で自然のことと言えます。
リクルートの調査では、2019年春卒業予定の大学生の場合で、求人倍率が1.88倍であると発表しています。倍率が1以上あるということは、仕事を探している人からみると、仕事を探している人1人に対して一つ以上の仕事があるという状態、企業側は逆で、求人しても完全には埋まらない状態です。
この数値をみるだけでも、世間の企業が人材確保に苦労していることが分かります。しかも、この数値は若者に人気がある大手企業や有名企業も含んだものです。中小企業でみると、求人倍率が10倍近くまで上がっているというデータもあり、10人募集しても1人しか採用できないような状態になっています。
トラック業界もほとんどが中小企業ですから、会社によって多少の差はあったとしても、人手不足は深刻です。また、トラックはドライバーがいなければ動きませんので、人手不足の影響がさらに濃くなります。コンビニやレストランであれば、人が少なかったとしても店長などが多く働いたり、従業員同士でちょっとずつ分担するといったことができます。スタッフが10人いれば、それぞれが1割だけ多く働くことで、計算上は1人分の労力になります。
ところが、トラックはそうはいきません。1台に1人、必ずハンドルを握る人が必要になるため、人が足りない分だけ運べるモノが減ります。さらに、人不足になるということは、基本的には経済状況が良いということですので、物流需要は増えます。つまり、仕事が増えている一方、仕事を担う人が減るという厳しい状況に陥りつつあるのが今の運送業界なのです。
大手企業におけるパワハラなどがニュースに…
さて、企業側の苦悩や業界内の事情はともかくとして、このような売り手市場の状況は、これから就職したり、転職を考えている人には良い環境と言えます。今なら名の通った会社に入れる。大手企業なら将来も安心。そう考えて就職や転職を考える人も多いかもしれません。価値観は人それぞれですから、会社の知名度や規模を重視する人もいることでしょう。ただ、仕事のやりがい、楽しさ、満足感などは、別のところから生まれるのだと私は思っています。
仮に大手企業に入ったとしても、人不足の中でこき使われたら誰だって嫌になります。年功序列型の会社ほど、能力に関係なく上司や先輩の力が強くなるものです。最近はパワハラやサービス残業などを含む労働環境面でのコンプライアンスが重視されていますが、大手企業だからと言って快適に働けるとは限りません。実際、大手企業におけるパワハラ、過労、人間関係によるうつ病などはニュースなどでよく目にします。そもそも労働環境の改善が求められるということは、現状として快適な労働環境になっていないことの表れともいえます。
収入面では、大企業の方が中小企業よりも高くなるでしょう。しかし、大手であっても入社時の給料は低く、50歳、60歳になってようやく「大手に入って良かった」と実感できるケースもあるでしょう。国内全体で見た平均収入も継続的に減っていますので、将来的に期待通りの収入が得られない可能性も考えなければならないでしょう。
そのような点から考えても、大手だから、有名企業だからといった理由で仕事を選ぶのは危険だと私は思っています。労働環境が良い時こそ、自分がどんなふうに働きたいか、どんなことを成し遂げたいかを考えて、さまざまな業界、さまざまな職種を分け隔てなく見ることが大事だと思います。
鈴木朝生
丸共通運株式会社 代表取締役