当たり前の日常を支え、維持するトラックドライバー
ドライバーは、人々の生活と企業活動を支える重要な仕事であるわけですが、社会的にはその部分が注目される機会はあまりありません。
ドライバーという仕事が、トラックでモノを運ぶ仕事といった程度にしか認識されていないのも、その根底にある役割や使命が十分に理解されていないからだと思います。そうなってしまう理由は、モノが買えたり、国内経済に波乱がない状態が当たり前と感じる人が多いからでしょう。
しかし、そうではありません。当たり前の日常は、普段はあまり意識しないかもしれませんが、誰かが支え、誰かが維持しています。その誰かがドライバーなのです。実はドライバー当人も、自分たちの役割や使命を忘れることがあります。というのは、ドライバーにとっては時間通りにモノを運ぶのが当たり前であるため、つい目の前の仕事にばかり集中してしまい、自分たちが社会を支えているという最も大事な点に目が向かなくなってしまうことがあるのです。
日々の仕事のみを意識していると、仕事が単調になり、面白くなくなります。誰かの役に立っていると実感できなければ、もっと頑張ろうという気持ちにはならないでしょう。
そうなってしまうのを防ぐために重要なことは、当たり前を疑うことだと私は思っています。いつもコンビニにおにぎりがあるのはなぜだろうか。頼んだ部品がきちんと届くのはどうしてだろうか。そういう視点で世の中を見てみると、物流の重要性が認識しやすくなり、ドライバーという仕事にも興味が湧くと思います。
ドライバーの仕事も同じで、いつも通りに荷物を運べる状態が決して当たり前ではありません。道路の状況は常に変わりますし、天候などの影響も受けます。そういう変化にうまく対応していくことが重要であり、そのための工夫がドライバーとしての成長にも繋がっていくものなのです。
ドライバーとしての自立性・プロ意識が物流を支える
大きな自然災害が起きたときなども、当たり前が当たり前でなくなる一つの例と言えるでしょう。災害が起きると物流が混乱します。店の棚から商品が消え、製造に必要な部品が届かなくなります。そこで初めて、今までの当たり前が、実は当たり前ではなかったのだと気付きます。
言い方を変えると、そういう混乱の中でもいつも通りにモノを届け、物流を支えられるのが優れたドライバーです。
実際、東日本大震災が起きた後も、私の会社のドライバーたちはモノを運び続けました。他社が運ぶのを断念したり、納期が何日も遅れていく中でも、移動ルートを探し出し、必要とされている製品を届けました。
その結果として何が起きるかというと、届け先のお客様に感謝されます。「さすがに無理だと思ったよ。でも届けてくれた。ありがとう」そんな言葉をもらい、改めて自分たちの使命を認識するのです。
あの時のことで印象に残っているのは、ドライバーが自発的に届けにいくと申し出てくれたことです。ドライバーは自主性が問われる仕事です。会社や上司の指示などに縛られることが少ないため、何をするか(しないか)を自分で決めます。その特性が顕著に表れたのが震災後だったと私は思います。自分が行かなければお客様が困る。そう考えたドライバーたちが、次々と仕事を買って出て、原発不安の残る関東へと出発して行ったのです。
彼らが物流システムの危機を感じていたかどうかは分かりません。自分が日本経済を支えなければいけないと考えていた人はおそらくいないと思います。しかし、お客様のことは考えていました。モノを運ぶという自分の役割の重要性も分かっていました。
自分に何ができるか考える。自分ができることを、自分で考えて実行する。そういう自立性と、ドライバーとしてのプロ意識を持つ人たちがいたからこそ、どんな状況でも当たり前に物流が機能するのだと思います。また、そのような判断と行動に共感できる人が、ドライバーの使命を理解できる人であり、これからドライバーとして成長し、成功していく人なのだとも思います。
鈴木朝生
丸共通運株式会社 代表取締役