現代のトラックドライバーは、洗練された物流システムの中で、自立して活動するプロフェッショナルです。自分で考え、自分で判断し、自分の裁量で仕事をする。そして担うのは、日本経済を支える物流の根幹…。トラックドライバーは、自由に自分らしく働きながら世の中に貢献できる、数少ないビジネスの一つなのです。本連載では、知られざるトラックドライバーの最新事情を紹介します。

洗練された物流システムで活動するプロフェッショナル

早朝の澄んだ空気の中、私は本社の玄関前でトラックドライバーの作業を見守っていた。彼はこれから8トン分の荷物を届けにゆく。

 

慎重にフォークリフトを操作し、丁寧に荷物を荷台に積む。荷物の重さで、少しだけトラックの車体が沈む。フォークリフトを降りると、彼は私に気が付き、会釈をした。私も軽く手を上げて返す。

 

(行ってきます)

(気を付けて)

 

いつもの無言のやり取りを交わし、彼は運転席に乗り込んだ。

 

整備されたエンジンのイグニッションが響き、大きな車体がゆっくりと動き出す。眩しい朝日に守られるように、トラックは会社の駐車場を出ていった。

 

走行距離は約1000キロ。ときには好きな音楽を流したり、移り行く景色を楽しんだりするのかもしれない。途中で休憩を挟みながら、1泊2日をかけて自分だけの世界を堪能する。

 

彼が入社したのは今から5年ほど前のことだ。運転がうまかったわけではない。大型免許も持っていなかった。もっと自由に稼げる仕事がしたい――。そんなささやかな希望を持って、トラックドライバーになった。

 

トラックドライバーの仕事は運転だけではない。荷物の積み下ろしや目的地での顧客フォローも担う。会社を出発すれば、そこから先は自分1人だ。ある程度の決まりの中でルートの選択も時間配分も、その時々の状況に合わせて自分で判断する。

 

トラックドライバーは、命、荷物、時間、ルールを守る。その責任は重い。しかし、その対価として得られる自由と報酬は何ものにも代えがたい。そういう環境こそ彼が望んでいたものだったのだろう。熱心に勉強し、免許を取った。技術を高め、長距離配送を1人で担うようになった。環境が人を成長させる。彼を見ているとつくづくそう思う。

 

近年、ライフスタイルが多様化し、働き方が変化している。社会全体としても働き方を改革しようという動きが盛んになっている。ヒエラルキー型の組織の中で、じっと出世を待つ。出世してから自分らしく働く。そういう働き方から一歩先に踏み出す時代なのだ。

 

自由に、自分らしく働き、世の中に貢献する。トラックドライバーは、それが実現できる数少ない仕事の一つだ。

 

私が運送会社の社長を引き継いだのは2012年の暮れも押し詰まった頃だった。大手企業を退職し、現場経験を積み、経営を担うようになった。物流システムを通じて社会の発展を後押しする――当時はそんな使命感を持っていた。もちろん物流は大事だ。毎日が平穏に過ぎていくのはモノが流れているからである。自然災害の影響が残る中でも、我々は物流を支え続け、顧客から感謝されたこともあった。

 

一方、それと同じくらい、働き手であるトラックドライバーを支えることも重要である。自由に働きたい人に、自由に働ける環境をつくる。稼ぎたい人に、稼げる制度を整える。安全に、快適に働けるように、最新の車輌を揃え、作業場を更新する……。

 

そういった取り組みの一つひとつが、彼らのモチベーションを高め、成長を後押しする。旧来の価値観にとらわれない、これからの時代にふさわしい働き方を実現することにもつながっているはずだ。

 

トラックドライバーというと、デコトラで疾走するトラック野郎をイメージする人がいるかもしれない。しかし、そうではない。現代のトラックドライバーは、洗練された物流システムの中で、自立して活動するプロフェッショナルだ。

 

世界トップクラスとなる、日本のGDPの維持にも貢献

トラックドライバーとはどんな仕事なのでしょうか。

 

業界外の人に聞いてみると、トラックは見慣れているし、ドライバーも街中などでよく見かけるという人が多い一方、その仕事の内容はあまり詳しく知られていないように感じます。

 

そこで、本連載では、ドライバーという仕事の使命、働き方、収入という三つの点に注目しながら、どんな仕事なのかを明らかにしたいと思います。


まずはドライバーの使命についてです。

 

なぜ働き方や収入よりも先に使命について書くかというと、ドライバーの役割を認識し、人や社会にどう役立っているかを理解することが、仕事のやりがいに通じ、この仕事を選んでよかったと実感することに繋がるからです。

 

いくら労働環境が快適でも、やりがいが感じられない仕事はつまらないと思います。ある程度の収入が見込めたとしても、自分の仕事に意義を感じられなければ、仕事が面白くなくなってしまいます。そういう状態では、せっかくドライバーになっても長続きしません。いいドライバーとして成長することもできないと思います。

 

だから、使命です。ドライバーがどれだけ重要で、どれだけ価値のある仕事かを知ることが重要で、知って欲しいと思うのです。使命というと大げさに聞こえるかもしれません。しかし、ドライバーは我々が住む社会で非常に重要な役割を果たしています。その役割は、使命という重い言葉で表現するに値すると私は思っています。

 

さて、ドライバーの使命は何かというと、物流を通じてお客様に喜んでもらうことはもちろん、世の中の人々の生活を豊かにすることです。

 

物流は、文字通りモノの流れのことで、日常生活や企業活動を支える重要な経済活動です。例えば、コンビニに行けば当たり前のようにおにぎりやお弁当が並んでいます。ショッピングセンターに行けば日用品が買えますし、スーパーマーケットでは新鮮な食材が買えます。

 

そういった日常を実現しているのが物流であり、ドライバーは物流の最先端で働いています。当然、物流が止まれば生活に必要なものが手に入らなくなるでしょう。物流手段には、船、鉄道、航空機などもありますが、国内で運ばれるモノの量(重さ)でみると、約9割はトラックが運んでいます。

 

つまり、我々が難なく豊かに生活できている根底には、全国を走り回るドライバーたちの活躍があるのです。また、消費者の目に直接見えないところでは、企業間のモノのやりとりも担っています。

 

例えば私の会社は、大手自動車メーカーの部品を運んでいます。畜産分野では、飼料メーカーから畜産現場に餌を運んでいますし、食品メーカーに向けて食品の原料も運んでいます。自動車を中心とする製造業は日本の基幹産業です。製造業をサポートする物流業界は、日本の経済発展を常に下支えしてきたといってもよいでしょう。

 

日本が先進国として成長し、世界トップクラスのGDPを維持し続けている背景にも、ドライバーたちの存在があるのです。

 

 

鈴木朝生

丸共通運株式会社 代表取締役

 

稼ぐ! トラックドライバー

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鈴木 朝生

幻冬舎メディアコンサルティング

トラックドライバーというと、デコトラで疾走する“トラック野郎”をイメージする人がいるかもしれません。しかし実際、現代のトラックドライバーは、自立して活動する“物流のプロフェッショナル”です。 トラックドライバ…

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