香港に拠点を置き、BEA(東亜銀行)の資産運用アームとユニオンの合弁会社で、アジア市場でも大きな存在感を見せる「BEAユニオン・インベストメント・マネジメント」。同社において債券部門の部長を務めるフィオナ・ツァン氏へのインタビュー。第2回目のテーマは「アジア通貨をどう見ているのか?」。聞き手は、香港の新しい金融機関であるニッポン・ウェルス・リミテッド(NWB/日本ウェルス)の幾田朋彦氏である。

米ドル高はピークを迎えてアジア通貨への投資が好機

幾田 アメリカの金利引上げと、中国の金融市場の自由化、世界2大国におけるこのような大きな金融政策は、世界経済において大きな影響をもたらすと思います。しかしながら、アジア債券に及ぶ影響が今年の前半にとどまるというのは、かなり限定的な印象をうけますが。

 

フィオナ 確かにアメリカは今年中に数回にわたり金利を引き上げるとみられています。ただ、これはすでに市場観測に織り込み済みで、新たに大きなインパクトを市場に与えるとは考えていません。

 

一方、アジア各国は金利引下げを行っています。たとえば、先日インドネシアは金利引下げを実施し、16年第二四半期にももう一度実施する予定です。マレーシアやインドでも、同様な政策が実施されると思います。ただし、更なる金融緩和は限定的とみられており、今後これらの国は財政政策によって、経済活性化を図ろうとするでしょう。

 

 

例外は中国です。消費者物価指数が伸び悩み、生産者物価指数は低下傾向にあるため、さらなる金利引き下げの余地があります。

 

このように、アジア各国では様々な対策と動きがありますが、市場は落ち着いてくると思います。今年前半末には米ドル高はピークを迎え、後半はアジア通貨への投資が好機を生むと考えています。

 

幾田 ファンドが投資している通貨は米ドルが大半をしめていますが、今後は別のアジア通貨への投資をお考えですか?

 

フィオナ そうですね、16年前半末頃に米ドル高はピークを迎えた後に、投資を検討します。2015年の第三四半期にアジア通貨市場が急激な調整局面に入った際、インドネシアルピア、マレーシアリンギット、韓国ウォンにおいて、戦術的なトレードを行い、5%組入れ、その後訪れた上昇局面で売り抜けました。また、2014年には、20%保有していた中国元を、2015年に10%まで売り、さらに同年8月には0%になるまで売りました。

 

私たちは、好機を狙い、フレキシブルな対応をとっています。アジア通貨の中では、インドネシアが魅力的だと思います。金利水準をみると、マレーシアリンギットは4%、韓国ウォンは2%に対し、インドネシアルピアは8%です。

 

債券投資においては、金利と債券のイールドを相対的に見るべきです。例えば、通貨からの金利収益が5%で、債券投資からは利益がほとんど得られないとします。

 

一方、ハイイールド債券から7%の金利収益を得られるうえ、債券価格からの上昇が期待できるとなると、米ドル建てハイイールド債券の組入れを引き上げたほうが、ファンドにとってより投資冥利のある組入れとなります。とはいえ、チャンスがあれば、アジア通貨の投資割合を積極的に増やすことをこれからも検討します。

投資判断において「スプレッド」の優先順位は低い!?

幾田 アジアの債券についてお伺いしたいのですが、国債と投資適格社債およびハイイールド社債の利回り格差(以降、「スプレッド」)についてはどう見られていますか?

 

フィオナ アジア内の現地通貨建て市場について話すと、例えば香港ではスプレッドは1%程度と小さく、動きもほとんどありません。シンガポールも香港と同様で大きなスプレッドはみられません。米ドル建て市場のように、スプレッドの動きが大きく、それによって投資判断を下すような市場ではありません。

 

 

一方、インドネシアでは、スプレッドの面からは投資魅力が高くても、これらの社債は流動性が低く、長期投資以外には向かないでしょう。どちらにしても、国債の金利が約8%と高い水準ですし、流動性の観点からも、現地通貨市場では国債の方を選好しています。


また、現地通貨市場と違って、米ドル市場では、クレジットプレミアムにおける投資魅力度が高いうえ、流動性も高いと言えます。中国のオンショア市場においても、クレジットカーブスプレッドはフラットで、ハイイールド債券のイールドは4-5%程度ですが、米ドル建て市場では7-8%と広いです。ですから、私たちはクレジット投資(信用度の違いから生まれるスプレッドから個別債券の割安・割高を判断し、取引する投資手法)の観点からは米ドル建て債券へ投資するほうが、より魅力的であると考えています。

本稿は、情報提供を目的として、インタビュー時点での経済データ等をもとに個人的な見解を述べたもので、BEAユニオン・インベストメント・マネジメント社およびNWBとしての公式見解ではありません。また、特定の金融商品への投資の勧誘を目的とするものではありません。

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