香港に拠点を置き、BEA(東亜銀行)の資産運用アームとユニオンの合弁会社で、アジア市場でも大きな存在感を見せる「BEAユニオン・インベストメント・マネジメント」。同社において債券部門の部長を務めるフィオナ・ツァン氏に、アジア債券市場を中心とする今後のマーケット展望などを伺った。聞き手は、香港の新しい金融機関であるニッポン・ウェルス・リミテッド(NWB/日本ウェルス)の幾田朋彦氏である。

世界的な調整段階に入った2015年のマーケット環境

幾田 2015年を振り返って、どんなマーケット環境だったと思われますか?

 

フィオナ まず、アメリカの金利引上げを受けて、アジア通貨や株式市場を含め、世界的に市場が調整に入りました。次に、中国の景気減速が挙げられます。さらに、中国は市場自由化に向けて新たなステップを踏み、株式市場ならびに通貨市場を含むキャピタルマーケットにおいて、中国政府は様々な対策を講じています。まだ新しい政策のもと試行錯誤している状況で、その結果、市場のボラティリティーが高くなっています。

 

 

驚くことに債券市場における影響は限定的でした。より高いイールドを求める投資家が多く、ハイイールド債と社債が買われ、むしろハイイールド債と社債の市場は恩恵を受けました。

 

中国の景気減速は、コモディティ価格の下落を招きました。そして、コモディティ価格の下落により、新興国の債券、通貨、株式市場の下落が進みました。同時に、アメリカのハイイールド市場も同様の打撃を受けました。ただ、アメリカとアジアのハイイールド市場では、構成に大きな違いがあります。例えば、アメリカのハイイールド債券の20%が石油もしくはガスセクターであるのに対し、アジアではそれほど大きくなく、5%程度です。さらに、アジア債券市場は、投資適格債券ならびにハイイールド債券とも、中国の発行体が多くを占めています。

 

2015年は、ハイイールド債券のパフォーマンスがよく年率リターンが約5.8%であったのに対し、投資適格債券は2.7%程度でした。また、アジア各国のハイイールド債券のパフォーマンスには、大きな差が出ました。例えば、不動産セクターのハイイールド債券のパフォーマンスをみると、中国では年率15%程度のリターンが出ましたが、インドネシアでは-2.8%、インドでは-16%でした。

 

ここでどう各国の組み入れを決定するかが、ファンドマネージャーの腕の見せ所です。指数と同じように構成銘柄を組入れるようでは、指数と同じ程度のパフォーマンスしか出ません。どの国にどの程度投資したかによって、ファンドのパフォーマンスが大きく違ってきます。私たちが決断を下した組み入れはパフォーマンスに貢献し、指数ならびに他社の類似ファンドを上回る成績をあげました。結果、モーニングスターでは、過去1年だけでなく、過去3年、過去5年のリターンにおいて、同カテゴリーのファンドで1位となりました。

国別とセクター別の組み入れ判断が運用結果を左右

幾田 ハイイールド市場において、国によってそんなにパフォーマンスに違いが出たのは、非常に興味深い点ですね。セクター別や個別銘柄別に見ると、どうだったのでしょうか。ファンドのパフォーマンスにおいては、各国の組み入れ判断が功を奏した以外にも、何か要因があったのでしょうか。

 

フィオナ はい、3つのレベルに分けて見ることができると思います。まずは、国別の組み入れです。例えば、中国は、インドネシアを大きく上回るパフォーマンスとなり、他の市場の影響をあまり受けませんでした。そして、中央銀行が金利の引下げを行ったため、債券価格が上昇しました。さらに、オンショアマーケットを中国の発行体に開放しました。これにより、ファンディングコストが引き下げられました。これに対し、インドネシア市場では、通貨の下落によりボラティリティが高まり、市場センチメントの悪化が価格の下落を拡大しました。

 

次にセクター別に見てみると、中国においてもオイルとガスセクターはパフォーマンスがふるいませんでした。私たちはこのセクターを指数より低くポートフォリオに組み入れました。インドネシアでは、石炭とコモディティセクターが不調で、これらのセクターの組み入れを低くしました。また、インドでも、石油とガスセクターは、パフォーマンスが思わしくありませんでした。

 

 

最後に、個別銘柄です。個別銘柄選択は、ファンドの運用において、とても重要なポイントです。アジア市場ではいくつかデフォルトが起こり、中国では比較的信用度の高かった不動産開発会社、佳兆業集団(カイサ・グループ・ホールディングス)がデフォルトとなりました。ハイイールド債券は、比較的高いリターンが魅力ですが、何より重要なのはデフォルトを回避することです。


2015年は、国別とセクター別の組み入れ判断が、ファンドのパフォーマンスに大きく貢献したと思います。一方、2016年は、アルファの年。つまり、ボトムアップのリサーチによる個別銘柄選択が、パフォーマンスにより貢献すると考えています。それと、アジア通貨への投資です。私たちは、今年の後半に、アジア通貨投資の好機がやってくると考えています。

 

過去2年程度、アジア通貨、特に、マレーシアリンギットやインドネシアルピアは、調整局面を迎えました。しかし、それもやや行き過ぎ感があり、経済のファンダメンタルズを考えると、今後は上昇が期待できると考えます。とはいえ、16年前半は、アメリカの金利引上げの影響と中国元の通貨調整局面が続き、個別銘柄や通貨によるパフォーマンスの上昇は、今年の後半に見られるのではと考えています。

本稿は、情報提供を目的として、インタビュー時点での経済データ等をもとに個人的な見解を述べたもので、BEAユニオン・インベストメント・マネジメント社およびNWBとしての公式見解ではありません。また、特定の金融商品への投資の勧誘を目的とするものではありません。

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