為替取引でも伝説的な成功を収めているジョージ・ソロス氏。今回は、ソロス氏が唱えた「再帰理論」について見ていく。

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1日で4000万ドル(90億円)を稼いだ男

筆者と出会うちょっと前に、ソロス・ファンドは為替取引で伝説的な成功を収めている。それは筆者が投資していた日本株で手痛い目にあったプラザ合意についてのものだ。

 

9月22日の、ドル安誘導の協調介入の発表に先立ち、ソロス氏は輸出産業が好調なドイツ・マルクと円の上昇を予測し、両通貨に対し7億ドル(1750億円)にも及ぶ大量の空買いポジションを取っていた。当時のソロス・ファンドの資産は、それを下回る6億ドル(1500億円)程度しかなかった。

 

ソロス氏は、アメリカの産業界が強いドルに耐えられず、ドル安を求めていることを知っていた。そしてアメリカの政府が何らかの対策を取って、ドルを下げるだろうと信じていたのだ。その当時、ソロス氏が確信していたドル安へのトレンド転換を想定していた投資家・エコノミストは他にもいたはずだ。多少のドル安ポジションを取っていたファンドもいたに違いない。ただ、ソロス氏以外誰も運用ファンド以上の7億ドルのポジションを取った投資家はいなかった。

 

 

発表の翌日、9月23日、ドルは円に対して4.3%も下落し、1ドル=239円から225.5円となった。ソロスは1日で4000万ドル(90億円)を稼いだのだ。ソロス・ファンドに追随して円買いポジションを取っていた他のトレーダーは、一斉に利食いに走ったが、ソロスはさらに円を買うように指示。1カ月後には、1ドルは13%下落して205円となり、1年後には153円になった。ソロスは総額で15億ドルを投入し、推計で1億5000万ドルの利益を上げたのだ。

市場は投資家の行動により常に変化し続ける

プラザ合意のあった1985年、ソロス・ファンドは前年比で122.2%、つまり2倍以上の成長をして、運用残高は10億3100万ドル(2062億円)となった。筆者がソロス氏のもとで働くようになったのは、そんな時期のことだった。当時、ソロス氏は一冊の本を出版することに熱心になっていた。

 

1987年に『The Alchemy of Finance(金融の錬金術)』(邦題は『相場の心を読む』、再版時は『ソロスの錬金術』)と題して出版されたソロス氏の初の著書は、もともと学者を目指していたソロス氏が1960年代から少しずつ書き溜めていたもので、金融理論を通して世界の動きを説明しようとするものだった。

 

本が出版される前に、筆者もまた草稿を手渡された。正直なところ、当時の筆者には難解すぎて最後まで読み通すことができなかった。それでも、ソロス氏は出版時に自らサインをして、一冊プレゼントしてくれた。よほどうれしかったのだと思う。

 

ソロス氏の理論は一般にリフレキシビティ(reflexivity)として知られている。これは「再帰性」と翻訳されることが多いようだが、より分かりやすい訳を当てるのであれば「相互作用性」となるだろう。

 

リフレキシビティとは、私たちが何らかの行動を行うにあたって、どんなに客観的な分析と判断を行ってから行動したとしても、その行動が私たちの判断に影響を及ぼすために、客観的でいることが不可能であるような状態を指す。

 

例えば、あなたがある株が割安だと判断して投資したとしよう。すると、株を買うことにより株価が変動し、最初に分析・判断した事実が変化する。そうなれば、後から本当に正しい投資判断であったのかどうかを過去の事実をもとに検証することは難しい。分析・評価の対象となる事実は投資家の行動により常に変化し続けるからだ。

投資家の認識と実態の価値とは一致しない

株式市場においてリフレキシビティはどのように作用するのだろうか。通常、株価というものは多くの市場参加者の合理的な判断によって定まっているので、企業の本質・実態的価値から大きくずれることはないとされている。であるから、例えば株価の高い企業は、利益成長力や資産の裏付けがあり、株価の低い企業には、低いなりの合理的要因があり、株価は市場参加者により効率的に決まるとされる。

 

もし、ある企業の株価が大きく値下がりしているとしたら、それは赤字決算の発表があったり、業績が下方修正されたり、あるいは大きくイメージダウンになりそうな不祥事が発覚したりなどの事件があったからである。つまり、現在起こっている事実をもとに市場は企業の価値を分析・評価し、その結果として株価が決まる。

 

 

しかし、ソロスのリフレキシビティは、市場は非効率で常に誤っていることを前提とする。市場にはフォーリビリティ(fallibility:誤謬性)があり、その間違った認識によって形成される株価がつくり出す新しい市場参加者の認識を早く見つけることが投資の極意につながるというのだ。

 

ソロス氏の再帰理論をあえて一言で言えば「投資家の認識と実態の価値とは一致しない」となるだろう。そして、投資家の認識をもとに市場価格(株価)がつくられているのだから、市場価格と実態価値との間には少なからずギャップが存在することになる。株式投資とは、市場価格と実態価値との差異の修正プロセスに参加することにほかならない。

 

このとき注意しなければならないのは、実態価値は決して市場価格と無関係に存在しているのではないことだ。投資家の認識によってつくられた市場価格は、新たな現実として実態価値にも影響を及ぼす。認識が現実をつくり、その現実が新たな認識を呼び起こすため、ソロス氏の言うところのブーム(流行)が起こるのだ。「相場の心を読む」から、ソロス氏自身による解説を引用しよう。

 

証券の価格は、その証券がある時点で有する基本トレンドと、それを認識する市場参加者によって決定される。基本トレンドと市場参加者の認識は証券の価格を通じて影響しあい、時間の経過と共に変化していく。例えば、ある証券の基本トレンドが良好で、そのトレンドが市場参加者により認識された時、その証券の価格が上昇する。価格上昇が認識された基本トレンドを強化し、新たな認識が創出されるとさらに価格が上昇する。このプロセスを自己強化的プロセスと呼び、このプロセスが連続的に拡大することをブームと呼ぶ。

 

だが、ブームによる価格の上昇は、ある限界点を超えると新たな基本トレンドをつくらなくなる。これ以上の価格の上昇はバブルであり、基本トレンドを強化しないバブルは必然的に崩壊することになる。80年代の日本株の上昇と崩壊は、まさにソロス氏の再帰理論で説明することができる。

 

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本連載は、2015年1月22日刊行の書籍『株しかない』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

株しかない

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阿部 修平

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