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利益を「自社沿線の不動産」に投資する鉄道会社に注目
筆者のレポートは、主に日本の鉄道会社(私鉄)が持つ含み資産について説明するものだった。鉄道会社は、公益性の強い事業であるため、たとえ民間会社といえども、帳簿上はあまり多額の利益を計上することができない。なぜならば、儲かりすぎると、乗車料金を下げろという世論の圧力がかかるからだ。
そのため、鉄道会社は儲けた利益を次々と投資へ回した。鉄道会社にとっての投資は、もっぱら自社沿線の開発用不動産に対してなされた。沿線の土地を買い上げてレジャーランドや住宅地として開発することで、より多くの人が鉄道を利用するように沿線の魅力を高めることが、鉄道会社のビジネスなのだ。
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そこで、日本の鉄道会社は銀行からの融資を受けると同時に、利益をどんどん土地の購入に回していった。80年代までの日本には土地神話が生きていて、土地は決して値下がりせず、ずっと値上がりを続けていくものと思われていたからだ。
土地は、バランスシート上は資産として計上されるが、購入資金は銀行からの融資であるため負債の額も増えていく。そのため、帳簿上は負債の数字が大きく、支払利息により利益は圧縮された。見かけの利益が出ないので、株価は低いままで放置されていた。
しかし、実際のところ鉄道会社の持つ土地は値上がりを続けていたから、大きな含み資産を持つ優良企業だった。さらに言えば、決算で利益を出さないでいればその年は税金を払わずに済むから、節税しながら将来の含み資産を生み出すという極めて合理的な戦略のように見えた。
含み資産株の魅力を評価する日本人投資家はいなかった
企業の持つ資産を時価計算して、実質純資産の計算をもとに株式の価値を評価するというのは、何も筆者のオリジナルの考えではない。アメリカやヨーロッパの投資家の間では、企業の実質資産価値を株価に反映させることは、一般的に行われる投資尺度であったが、日本の含み資産株の魅力を本気で評価する日本人投資家はまだいなかった。
当時、筆者は日本の大手金融機関の株式運用担当者とも話をしていたが、この話をしたところ「企業の資産を株価に反映させるような考え方は、日本では根付きませんよ」と一蹴されたものだ。
そこで、アメリカの一流のファンド・マネジャーに向けてレポートを書くことにしたのだ。日本の鉄道会社が、利益を少なく見せるために、土地を買い漁っていること。しかも土地の価格は一貫して上昇しているため、含み資産が膨大になっていること。会社によっては保有不動産の時価が株式時価総額の10倍になっているケースもあったにもかかわらず、利益が出ていないために、PERで判断されて株価が著しく過小評価されていること。だから、何らかのきっかけで市場がこのことに気づけば、株価が急上昇する可能性があることなどをまとめ、今の株価で買えるなら大きな利益が得られると締めくくった。
今の時代の基準で振り返れば、当時の鉄道会社のやっていたことは株主の利益を無視したことだが、当時はコーポレート・ガバナンスという言葉の定義すら一般的ではなく、株主利益ということで経営戦略が語られることはなかった。企業にとって、大変おおらかな時代だったのだ。
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筆者は作成したレポートを、ジョージ・ソロスやアイヴァン・ボウスキーなどといった、名だたる投資家10人ほどに送った。1985年12月のことだ。ニューヨークの冬の寒さは厳しく、手紙をポストに投函した時には雪が降り始めていた。10人のうち、筆者に反応を返してくれたのはたった一人だけだった。それが、ジョージ・ソロス氏だった。
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