あらゆる運用手法を用いて、ハイリターンを狙うヘッジファンド。大口投資家から集めた巨額資金を動かすため、市場に与える影響は大きいといわれている。本記事では、CTA(商品投資顧問業者)が重要視する分散投資について解説する。

CTA特有の「2つの分散投資」とは?

前回は、米国ヘッジファンドの手法、特に筆者が米国のヘッジファンドCommodities Corporation(現:Goldman Sachs Asset Management)で学び、長くファンドマネージャーとして運用を行っていたCTA(Commodity Trading Advisor/商品投資顧問業者)の「3つ」の運用手法のうち、トレンドフォロー戦略を取り上げた(関連記事『ヘッジファンドによる「不正巨額損失事件」はなぜ起きたのか?』参照)。

 

今回は、投資信託においても重要な「分散投資」について解説する。

 

一般的に、分散投資には3つの手法がある。

 

①投資対象(アセットクラス)の分散

②銘柄の分散

③時間の分散

 

「①投資対象(アセットクラス)の分散」では、株式のみならず、債券やREITを組み入れ、複数の投資対象を組み入れる。「②銘柄の分散」では、投資セクターや企業、銘柄を分散し、「③時間の分散」は分割して購入する。すなわち、1度のタイミングですべて買ったり、売ったりしないことである。

 

これをまとめると、「債券と株式」を「多くの国の多くの企業」に「タイミングを分散して(小口に何回かに分けて)」買う(売る)ということだ。これだけでも分散効果は得られるが、多くの投資家は「テーマ型の株式投信を新規設定時に買う」ように、実際には分散投資を行えていないのが実態だ。

 

 

これらに加えて、CTAが行う分散には、2つの手法がある。

 

④銘柄を保有していないのに、売りのポジションを使う。

⑤株式や債券に留まらず、より多くのアセットクラスに分散投資を行う。

 

CTAは別名Managed Futuresと呼ばれ、現物より先物を使う。先物を使うことで、どんなメリットがあるのだろうか?

 

まず、先物は上場しているので流動性が非常に高いことがあげられる。つまり、信用力の高い先物取引所を通じて、いつでも好きなときに好きな量の売買が可能である。前回で述べた「50mプールの鯨」のように、流動性が枯渇して身動きが取れない(ポジションを売買できない)ようになるのはまれである。

 

そして、もう1点は「証拠金」と呼ばれる10-20%程度の金額で、その何倍もの金額の取引が可能であることだ。ある意味レバレッジが効いてリスクが高いともいえるが、そのリスクをあらかじめ予想し、管理できれば、保有資金を効率的に使うことができる。

 

CTAの分散投資のうち、「④銘柄を保有していないのに、売りのポジションを使う」とは、どういうことであろうか? 先物は証拠金を積んで「買い」「売り」双方において、限月と呼ばれる、将来の日付において売買を約束する取引が可能である。現物株式でいう「信用取引」「空売り」に似ているが、その流動性と取引規制を考えれば、先物のほうが何倍も流動性があり機動的である。

 

例えば、2008年のリーマンショックの年を見てみよう。この年は世界的に株式が急落し、いかなる株式ファンドであっても50-60%程度の損失を出しているが、CTAは将来株価が下がることを予想し「株価指数」先物取引にて「(将来の)売り」ポジションを保有し、逆に莫大な利益を上げている。これこそ、通常の株式ファンドでは出来ない、第4の分散投資である。

 

CTAとは、Commodity Trading Advisorの略であり、日本語でいえば「商品投資顧問」と訳されるように、先物市場は商品(Commodity)価格の将来の値動きをヘッジする目的ではじまり、それが株式や債券など、金融先物に広がったものである。

 

現在、多くのCTAは市場がより大きい金融先物を取引しながらも、歴史がある多くの商品先物へも分散投資している。これが、5つめの分散投資である。

 

通常、株式や債券などの金融先物は相関が高い。例えば「米国金利が上昇し、景気減速懸念から株式市場が下落」すると、保有している株式ファンドの価値は下がり、債券ファンドの価値も金利上昇懸念で下がり、リスク回避で円高が起きるなど、すべて同じ方向に向かってしまう場合がある。

 

これに対し商品は、原油やガソリンなどのエネルギー、銅やアルミなどの非鉄金属、金やプラチナなどの貴金属、コーンや大豆などの穀物、その他コーヒーや砂糖など、上昇下落の要因は多種多様であり、すべてが一方向に動くことはまれである(商品間の相関が低い)。

CTAの手数料が高いのは、高い期待リターンと管理されたリスクの裏返し

CTAは個人や公募投信では取引しにくい、この第4、第5の分散投資をもつことで、さらに効果的な分散投資が可能である。仮に、運用会社の能力が同じであったとしても使える技の数が多い。それだけで、すでにアドバンテージがあるといえる。

 

では、リスクも低いのかといわれると必ずしもそうではない。これだけ多くの分散投資をしていると、投資家としては、何をしているのか、何で利益をあげ、何で損しているかが分かりにくく、管理も大変だ。短期的にボラティリティが高い場合もあり、そのあたりはプロに任せる必要がある。CTAの期待リターンや手数料が高いのは、その裏返しでもある。

 

 

ただし、程度の度合いはあれど、投資信託においても本来考慮されるべき「分散投資」は、ヘッジファンドやCTAも重要視している運用手法の1つであることは疑いない。これが不十分である「テーマ型投信」や一部の「インデックス投資」は、かなり不利な状況で運用しているといわざるを得ない。

 

次回は、CTAの特徴的な3つの運用手法のうち、トレンドフォロー戦略(ロスカットショート)、分散投資に続いて、リサーチ・テストによるリスク予測について解説する。


※本連載に記載された情報に関しては万全を期していますが、内容を保証するものではありません。また、本連載の内容は筆者の個人的な見解を示したものであり、筆者が所属する機関、組織、グループ等の意見を反映したものではありません。本連載の情報を利用した結果による損害、損失についても、著者ならびに本連載制作関係者は一切の責任を負いません。投資の判断はご自身の責任でお願いいたします。
 

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