2018年1月に開始した、少額からの長期・積立・分散投資を支援するための非課税制度「つみたてNISA」。金融庁が対象として定めた投資商品のなかから、毎年40万円を上限として一定の購入が可能となる。「金融庁のおすみつき」ともいえるつみたてNISAだが、死角はないのだろうか。本記事では、つみたてNISAのデメリットに迫る。

一見「メリットばかり」だが…

◆つみたてNISAとは? その背景とは?


高度経済成長期の日本では、金利は高く、給与も右肩上がりであり、積極的な投資は必ずしも必要なかった。また、終身雇用が当たり前の時代が長かったせいか、他国に比べ、自分でリスクをとって、結果の責任を持つという行動が苦手であり、貯蓄思考が強い傾向にあるといわれている。

 

 

しかし、長引く超低金利、低成長時代の今、貯蓄をいくら頑張っても、お金はほとんど増えない。そのため、「貯蓄から投資へ」と促す制度作りの一環として作られたのが税制優遇制度「NISA」だ。そこからさらに、投資の裾野を広げるためには、安定的な資産形成を支援することが大切だと考え、「長期」「分散」「積立」を形にした「つみたてNISA」を作った。

 

「貯蓄から投資へ」と促す制度作りの一環だったが…
「貯蓄から投資へ」と促す制度作りの一環だったが…

 

◆「つみたてNISA」は急拡大中


上記のような背景で誕生した「つみたてNISA」だが、その最大のメリットは、投資から得られた利益に対してかかる、通常20.315%の税金(所得税+住民税+復興特別所得税)が、年間40万円の投資額の枠内で、むこう20年間ゼロになることである。


また、つみたてNISAは現在、日本国内で販売されている投資信託約6,000本のなかから金融庁が厳選した、投資信託・ETF約140本のみを対象としており、投資経験が浅い人でも分かりやすい。かかる手数料も低い商品選定がなされているので、投資初心者がはじめの一歩として踏み出すにはうってつけの商品とも思える。

 

ここまで、制度発足の背景やメリットをみる限り、国民(投資初心者)にとってはメリットだらけのように思えるが、本当にそうだろうか? 見過ごしているデメリットはないのだろうか? 今回はあえて、拡大するつみたてNISAの注意点や疑問点について解説する。

 

①年間40万円という少額の非課税投資上限額


つみたてNISAの非課税投資枠(年間40万円)は、NISAの年間120万円と比べると3分の1であり、月々になおすと最大約3万3千円。毎月この額を積み立てた場合、ボーナス時に追加で投資しようとしても既に枠を使い切っている。

 

しかも、今年の投資枠が余っていても翌年に繰り越すことはできない。投資初心者向きではあるが、年間の投資額にしては少なく、ある一定の投資家にはメリットが少ないといえる。

 

②損益通算できない


通常、複数の証券口座を使って投資している場合は、それぞれの証券口座の1月~12月の利益と損失を合算して、税負担を軽くすることができる。

 

しかし、「つみたてNISA」の損失は損益通算ができないため、場合によっては、余計に税金を支払う可能性もある。


③リバランス(ファンドにおける投資割合の見直し)が難しい


確定拠出年金がリバランスや商品入替が随時可能であるのに対して、NISAは、1年の途中で投資した商品を売却しても、売却分の非課税枠は復活しない。

 

そのため、長期投資で徐々にリスクを減らしていきたい、当初の資産配分の偏りが大きくなったのでリバランスしたい、購入したインデックスは中長期的に上昇が見込めなくなったので変更したい、新しく入ったファンドが自分に適しているので乗り換えたいなど、運用成績にプラス働くような途中変更がかなり制限されてしまうことになる。

 

④非課税期間が期限付き


たとえば、つみたてNISAで投資した800万円の投資信託が、非課税期間の終了時に600万円に下がっていたとする。この場合には、(損をしている状態のため)解約せず、そのまま保有することになり、つみたてNISA口座から課税口座(特定口座)へ移管することになる。

 

そしてこのとき、当該投資信託は、600万円で取得したものとして扱われる。その後、価格が800万円に再上昇し、売却した場合、本来は元の価格に戻っただけで利益は出ていないにもかかわらず、取得価格の600万円から800万円への値上がりで200万円の利益が出たとみなされてしまい、約40万円の税金がかかってしまう。

 

⑤「金融庁が厳選」の弊害


対象商品(2019年10月1日時点)は、指定インデックス投信148本、アクティブ運用投資信託等が18本である。インデックス投信は、運用会社が異なるものの、同じ運用方針の投信も多い。指定指数および指定指数の数で分類すると、国内株式型3種類、海外株式型9種類、複数指数(バランス型)は、国内2種類、海外8種類と、投信の本数と比較すると大幅に減少する。つまり、本数が多くとも実質的な選択肢は少ない。


また、制度スタート時(2018年1月)からのファンド増加数は、インデックス型40本に対して、アクティブ型5本と、インデックス型と比較するとアクティブ型の増加が少ない。

 

運用戦略が異なるアクティブ投信が少なく、似通った運用戦略のインデックス投信が多く選定されている。そのなかから更に、販売会社ごとに対象の投資信託を選択するので、場合によっては数種類から選択することになるが、こうした選択肢で、国が提唱する「効果的な分散投資」ができるのか、疑問が残るところである。


さらに、ファンドの選定基準において、金融庁は一定の信託報酬で足切りしているが、やや高めの信託報酬を支払っても、インデックス等のベンチマークを継続的に上回るようなパフォーマンスをあげている、優良なファンドが対象ファンドに入っていないことも多い。こうした単純な選定基準が、本当に国民にとっての安定的な資産形成の支援といえるのかどうかも疑問だ。


⑥ファンド選定の条件に「ESG」が考慮されていない


日本最大の投資家である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、“ESGの要素に配慮した投資は長期的にリスク調整後のリターンを改善する効果があると期待できる”と述べている。

 

しかし、安定的な資産形成の重要な要素である「長期投資」を重要視すべきである「つみたてNISA」のファンド選定条件に、ESGへの考慮に関する記述が全く無いことには疑問が残る。

長期分散投資の奨励としては「中途半端」?

◆まとめ


投資の裾野を広げるという目的を反映した制度であることから、初心者・初級者に対して積立投資を促す制度設計となっていることは理解できるが、本来の長期分散投資を奨励する上ではやや中途半端な印象がぬぐえない。


というのも、初心者・初級者であれば、何を選択すればよいかすらわからず、TOPIXインデックスやひふみプラスのみを選んでしまったらどうするのであろうか?


日本株への投資のみであれば、効果的と思われる国や地域の分散、あるいは債券や株式といったアセットクラスの分散はあまりできず、本来の目的である長期分散投資にならなくなってしまう。


さらに、ファンド選定の重要な基準である、中長期の運用実績・トラックレコードにおいて、長期的に運用成績の振るわないTOPIXインデックスファンドを多く採用しているのはなぜか。特に、インデックスファンド選定の方針、プロセスには疑問がある。

 

 


つみたてNISAについてはメリットもあるが、こうしたデメリットも理解の上、慎重に利用することをお勧めする。

 

 

※本連載に記載された情報に関しては万全を期していますが、内容を保証するものではありません。また、本連載の内容は筆者の個人的な見解を示したものであり、筆者が所属する機関、組織、グループ等の意見を反映したものではありません。本連載の情報を利用した結果による損害、損失についても、著者ならびに本連載制作関係者は一切の責任を負いません。投資の判断はご自身の責任でお願いいたします。

 

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