欧州を中心に、日本でも急速に広まりつつあり、長期投資には欠かせない手法の1つとなってきている「ESG投資」。日本では、まだまだ取り組んでいるのは機関投資家ばかりだが、世界では個人投資家も乗り出しはじめている。本記事では、個人投資家にとって、「ESG投資」は長期運用の選択肢になり得るのかを見ていきます。

ESG投資の額は世界で「3,400兆円」に達する

昨今、新聞や雑誌などでも盛んに取り上げられており、「ESG」という言葉を耳にすることが増えた人が多いと思う。ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字をとったワードである。さらに、ESGを考慮して投資を行うことを「ESG投資」という。要するに、企業にとって、利益や配当、資産といった数字で表される価値に対し、見えない価値あるいは非財務情報の評価を企業分析や評価に取り入れて、投資を行う方法である。

 

 

世界では、国連が提唱するPRIに代表されるように、ESGを投資原則に組み入れるよう、投資家や運用会社に求めている。また、公的年金を中心として、次々と化石燃料や武器、タバコ産業といった銘柄を投資ポートフォリオから排除するなど、ESG投資に対する活発な動きがある。いまや、ESG投資の額は世界で3,400兆円に達するとのデータもある(※出所:GSIA “2018 Global Sustainable Investment Review”)。

 

ESG投資の額は世界で「3,400兆円」に達する
ESG投資の額は世界で「3,400兆円」に達する

 

一方で、化石燃料やタバコ産業等を「逆ESG銘柄」として、彼らの良好な業績や配当、資産をみれば「売られすぎ」であり、「割安、買い時」とするような投資記事も散見される。

 

つまり、ESG投資をなかば義務付けられるような公的年金や機関投資家と比べれば、個人投資家はさほどこだわる必要はない、むしろ逆張りといった意見もあるようだ。こうしたなかで、個人投資家は「ESG投資」の大波にどう対応すればよいのであろうか。

 

スウェーデンに拠点を置く大手保険会社であり、運用資産総額が15兆円にのぼるLansforsakringar(LFAB)の例を見てみよう。彼らは、投資運用の「ESG基準」を策定し、石炭、オイルサンド、たばこ、武器関連の投資除外(ダイベストメント)基準を導入した。対象は株式と社債の双方である。具体的には、以下のとおり(出所:Lansforsakringarホームページ)。

 

●国際規範や条約違反に対する深刻な違反があり、対話を通じても好ましい結果とならなかった企業

 

●核兵器、生物・化学兵器、クラスター爆弾、対人地雷、劣化ウラン弾、白リン弾等の問題性のある武器に関連する企業

 

●一般炭(石炭)採掘及び石炭火力発電からの売上が5%以上の企業

 

●オイルサンド採掘からの売上が5%以上の企業

 

●たばこ製造の売上が5%以上の企業

 

このなかには、武器関連として、ボーイング、エアバス・グループ、ロッキード・マーティンなどが含まれている。また、一般炭では、世界中の170社の企業が指定され、日本では東京電力、関西電力などの各電力会社や出光興産も入っている。たばこでは、日本たばこ(JT)を含む16社が指定された。

 

こうしたESG投資を推し進める年金や機関投資家は、倫理投資、気候変動への対策、正しい社会の実現といったことが目的で、もっといえば、将来的な利益には直接つながらない「コスト」として、こうした企業への投資を排除しているのであろうか。もちろん、個人投資家に比べて受託者責任がある機関投資家は、そういう側面に配慮しないといけない立場もある。

 

しかし、筆者はそうは思わない。年金や機関投資家の受託者責任は、当然、将来に向けての投資によって預かり資産額を増やす義務がある。そういう意味では、いくらESG投資が世界的な潮流とはいえ、長期的に利益が出る見込みがない投資はすべきでない。

機関投資家が「ESG投資」を取り入れる理由とは?

それでは、こうした年金や機関投資家は、いかなる意味でESG投資を取り入れているのであろうか。

 

少し話題はそれるが、日本の「コニカミノルタ」の例を見てみたいと思う。当時、写真フィルム最大手の一角で1873年創業の「コニカ」と、カメラ大手で1928年創業の「ミノルタ」の、2003年の経営統合はまさに強者連合と見られた。しかし、そのわずか4年後の2006年に、フォト・カメラ事業から撤退している。現在のコニカミノルタの売り上げの中心は、複合機、印刷機である。彼らは、将来のフォト・カメラ事業の衰退を早期に察して、業務の中心をシフトさせていったのである。

 

これを石炭・石油依存の強い企業にたとえてみれば、将来、地球温暖化対策などで減るであろう需要に対し、いつまでも中核事業として石炭・石油依存を続ける(LFABの基準を見ても、すぐに投資ストップということではなく「5%以上」の依存度を問題視している)ことが果たして企業の長期持続につながるのであろうか。

 

健康志向で喫煙人口が減っているタバコ産業や、健康志向が高まる中で将来的にも高カロリー食品依存の企業に対し、長期投資することは利益を生むのであろうか。一方で、ガソリンやディーゼル車に依存する企業を尻目に、いち早く地球に優しい燃料や技術で先行する企業は、将来的に大きな利益を手にする可能性があるのではないだろうか。

 

環境(E)だけではない。社会(S)に目を向ければ、働き方改革を実施し従業員の満足度が高く効率的に運営する企業、サイバーセキュリティや個人情報保護などで適切な対策が採られている企業、ガバナンス(G)でいえば、半数が外部取締役など経営の透明性の高い、けん制が効いている企業などは、将来のリスクが低く、長期的に発展・持続していく可能性も高いといえる。

 

脱ペーパーの流れを考えると「コニカミノルタ」は、現在の複合機中心の事業に危機感があり、他の事業も積極的に推し進めているという主旨の発言を、今年あるセミナーで幹部の方がされていた。

 

 

ESG投資も同様で、「石油・石炭」「タバコ」などの産業、ブラック企業などともいわれる、社会性の低い企業、ガバナンスに不安のある企業は、長期的に衰退していく。逆にいえば、目先の利益にとらわれず、長期的な視点からESGにきちんと対応している企業・産業が将来的に利益を生み発展する。これが、プロの年金や機関投資家の考えるESG投資であり、決して「コスト」ではなく、利益を無視した倫理投資でもない。当然、こうしたESG投資は、個人投資家が長期投資をする際にも、ますます重要視される手法であると筆者は考える。

 

 

※本連載に記載された情報に関しては万全を期していますが、内容を保証するものではありません。また、本連載の内容は筆者の個人的な見解を示したものであり、筆者が所属する機関、組織、グループ等の意見を反映したものではありません。本連載の情報を利用した結果による損害、損失についても、著者ならびに本連載制作関係者は一切の責任を負いません。投資の判断はご自身の責任でお願いいたします。

 

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