今回は、クリニックの開業に重要となる、集患できる立地の選び方を解説します。※医師を取り巻くキャリア環境が激変しています。医局に頼ってきた従来とは異なり、自らキャリアを形成し、開業医を目指す医師が増えているのです。しかし、安易な開業が取り返しのつかない失敗を招く場合もあります。本連載では、開業医を志す医師に向け、開業を成功に導くポイントと、開業を磐石なものにする資産形成の方法を解説します。

重要ポイントは「人口動態・交通の利便性・競合」

クリニックは立地が命です。というのは、クリニックに患者を呼ぶために最も重要なのが立地条件をきちんと見極めることだからです。

 

クリニックの立地については大きく3つの重要ポイントがあると言われています。人口動態、交通の利便性、競合です。

 

第一に人口動態です。そもそもそのエリアに人がいなければクリニックに患者は来ません。全く人がいないところにクリニックを開業しても意味がないのです。その地域に住んでいる人や、その地域で働いている人などを調べていきます。

 

地域別、年齢別、診療圏調査、受診率などの患者調査の結果をもとに、ライバルのクリニックで割り算して、どれだけその地域の患者さんが来るのかを試算するのです。

 

第二に交通の利便性です。交通の利便性は患者が来るかどうかに大きな影響を与えます。最高の立地条件というのは、駅から徒歩3分以内のビルの1階のクリニックです。駅前には患者を誘導してくれるショッピングセンターやスーパーマーケットが必ず存在します。さらにクリニックが1階にあると、多くの人に認知される確率が高くなります。

 

心療内科や婦人科、一部の美容外科などの人にクリニックに入っていくところを見られたくないと、患者が考える可能性がある科目であれば別ですが、基本的にクリニックは家賃との兼ね合いがあるとはいえ、1階が集患においては有利です。1階の方が有利に経営を進めることができるからです。

 

一般的なビルの場合、1階にあるクリニックは10人中10人が認知しますが、2階だと認知が10人中3人に激減し、3階以上の上層階になるとなんと10人中1人認知するかしないかになってしまうのです。それだけ患者さんの視界が狭いということの証左にもなりますから、どの位置にクリニックを開業するかというビルの階数は非常に重要なのです。

 

私たちのお客様でも、埼玉県のある私鉄沿線の駅から徒歩1分の駅ビルに開業した眼科のクリニックは、開業してすぐに集患することができました。

 

JR京浜東北線の駅から徒歩2分のビルの1階にある皮膚科のクリニックも、すぐに集患することに成功しています。

 

逆になかなか患者さんの認知度が低いのが、ビルの階数よりも駅から徒歩10分圏内を超える立地にあるクリニックです。徒歩10分を超えるとバスで行かないと来られないような場所になりがちですが、そのような立地だとなかなか集患は難しいでしょう。以前、JRの駅から徒歩15分の物件で眼科のクリニックがありましたが集患に苦労をしているようでした。

新規開業が増えているエリアへの参戦は考えもの

第三は競合です。クリニックの開業には競合の存在も正しく考慮しなければ、開業後に苦戦を強いられることも多く、注意が必要になります。特に都心部では医療機関が多く、常に複数のクリニックが競合状態にあります。競合クリニックの分析が生死を分かつこともあるので気をつけたいところです。

 

まず、保険診療科目をメインにする場合、新規でクリニックの開業が増えているエリアで新たに開業を目指すのは考えものです。たとえば、徒歩10分圏内、半径800メートル以内に競合するクリニックが一つもない状態で1日あたり50人の患者が見込めるのであれば、1日50人の患者が来ると考えられます。しかし、競合のクリニックが1つあるだけで50人が25人になることがあります。施術の違いや患者単価に差がある美容外科では、競合クリニックが近くにあっても成り立ちますが、原則として、同じ診療科目のクリニック間の距離が近ければ近いほど、患者の奪い合いになってしまうので注意しましょう。

 

私がお勧めしているのは、競合地域にクリニックを開業するのではなく、競合となり得るような先生が少ない(実質競合がない)開業戦略を行うこと。「よく見たらブルーオーシャン」を狙うのです。

 

たとえば、北関東エリアは現在、高齢の医師が多く、古い施設で診療しているクリニックが少なくありません。医療技術が古かったり、知識が古かったりするのです。そうしたところに、新しい知識と新しい医療技術を取得して開業するというのが良いでしょう。

 

エリアの選定には最終的に現地に足を運んで競合になるようなクリニックの状況を確認する方がうまくいきます。また、立地は一つ見たらそこに決めるということではなく、いくつか見てじっくりと判断することが大事です。

医療モールは狭い割に賃料が高く、採算性に不安も

最近、医療機関の一つのあり方として、医療モールへの出店を考えている人も多いと思います。医療モールとは、一つのビルやショッピングモールの一画などに内科や眼科などの診療科目が異なる複数の診療所が集まって開業するというものです。医療モールのなかには、各診療所の共通の待合室や受付などを設けている所もあります。

 

医療モールが設立される場所には、駅前、大型商業施設、大型マンションの一画など交通の便が良くて人が集まりやすい集患力のある場所につくられるケースが知られています。医療モールは薬局の所有物件が多いのですが、モールのテナントは物件が狭く、患者の待合室や診察スペースにも限りがあるので、どうしても限界売上は低くなりがちです。

 

さらに、狭い割には坪賃料が高いというデメリットがあります。このため採算が合わなくなる可能性が高くなってしまうことがあります。

 

たとえば、眼科でも手術を行えるクリニックかどうかで大きく売上は変わってきますが、モールに開設するクリニックの場合は、手術室のスペースが当然ながら確保することができません。眼科の場合は手術ができるかできないかで売上が大きく変わるので、手術ができないということであれば、売上は頭打ちになってしまうのです。

クリニックの開業場所はどうやって探す?

では、クリニックの開業場所はどのように探せばいいのでしょうか。

 

これにはいくつか方法があります。一つは、不動産仲介会社に依頼することです。すでに希望するエリアが決まっていれば、不動産仲介会社に条件面などを伝えて、物件が出たら紹介してもらうようにします。

 

ただし、この方法は自分で開業エリアを選定しなければならず、面倒な部分があります。

 

二つ目には、クリニック開業コンサルティング会社に依頼する方法です。クリニック開業コンサルティング会社はクリニックの事業計画から開業準備まで全て請け負ってくれる会社です。クリニックの開業場所についての調査などきめ細かな対応をしてくれるところもあります。

 

ただし、開業コンサルティングと言っているものの、ほとんどクリニックの開業に携わっていない名ばかりのコンサルタントも少なくありません。実績をよく判断することが必要です。

 

三つ目は、医療用医薬品卸会社が開業コンサルティングをしてくれる場合です。たとえば、医療用医薬品や医療機器、医療用検査試薬などの卸売販売を行うアルフレッサなどでは、クリニックの開業コンサルティングを行っています。事業計画の立案から、診療圏調査などを行って立地の選定をしてくれます。多くのクリニックの情報を持っているので、広く情報収集をするのにはお勧めです。また、卸会社にとってもクリニックが増えることは取引先が増えることに繋がるので積極的に支援してくれるでしょう。

 

ただし、卸会社は世の中に多数あります。私の会社ではクライアントの先生方からそれぞれの卸会社の評判を聞いているので、情報提供をすることもあります。

 

 

藤城 健作

ウェルス・コンサルティング株式会社 代表取締役社長

 

勤務医の「キャリア&資産形成」戦略

勤務医の「キャリア&資産形成」戦略

藤城 健作

幻冬舎メディアコンサルティング

医局の影響力が弱まった、新研修医制度の施行ーー以降、医師のキャリアを取り巻く環境が激変しています。本書では、勤務医が今後のキャリアを考えるために役立つ情報を提供するとともに、著者の豊富なコンサルティング事例から…

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